亀山早苗の恋愛コラム

女が育児のために「仕事を辞める」のは正しいのか?男が「オトコ」を降りたいと感じてはダメなのか?

株式会社LIFULLが公表した「ホンネのへや」が興味深い。ジェンダーと多様性をテーマに、生き方も価値観も違う男女10人が、誰からも否定されずに自分の抱える痛みを赤裸々に話す46分ほどの動画だ。その「生きづらさ」は、誰もがさまざまな形で抱えている。

亀山 早苗

執筆者:亀山 早苗

恋愛ガイド

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変えるためには変わらないといけない

株式会社LIFULLが公表した「ホンネのへや」が興味深い。ジェンダーと多様性をテーマに、生き方も価値観も違う男女10人が、誰からも否定されずに自分の抱える痛みを赤裸々に話す46分ほどの動画だ。
出典:LIFULL「ホンネのヘヤ」

出典:LIFULL「ホンネのヘヤ

家庭を持って子どもも産んだが、あるとき滅私奉公をしていると気づいてしまった女性、女性なら当然なのに男であるがために専業主夫として異様に褒められて居心地悪く感じている男性、男性優位の社会の中で生きづらさを感じ、いっそ男を降りたいと思っている男性などなど、それぞれの人たちがそれぞれの生きづらさを話し、感情的にならずに共感しあう姿がなんとも心地いいドキュメンタリーである。

誰もがさまざまな形で「生きづらさ」を抱えている。社会の仕組みが変われば痛みが減少することも多いだろうし、いわゆる「世間」が変わらなければいけない面もある。ただ、最後に出演者の一人が言ったのは、「身近なところから話し合ってコミュニケーションをとっていきたい」ということだった。

声を上げ続けることは重要だ。まず自分たちが変わらなければ、社会も変わっていかないのかもしれない。

こうした「生きづらさ」は、このドキュメンタリーに登場した人たちだけではなく、ごく普通に暮らしているように見える人たちの中にも潜んでいる。
 

「女なら」「男なら」の呪縛

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人はいくつもの仮面や役割を担いながら生きていく。それはわかりきっているが、その役割の平均値が本来の自分とかけ離れているとしたら、どうしたらいいのだろう。

「私は共働きで仕事をしながら子どもふたりを、夫と一緒に育てています。今でこそ、夫には何でも言って共有することができていますが、最初は大変でした」

結婚14年、12歳と10歳の子をもつアイコさん(44歳)はそう言う。4歳年上の夫は、まず産後の共働きに反対した。

「節約すれば暮らせるだろ。子どもが大きくなってからパートでも何でもすればいいって。そのとき私、どうして子育ては私、稼ぎ手は自分と分けたがるのか。ふたりで両方やればいいと言ったんですよね。そうしたら夫は『子どもは母親が必要だから』って。

夫の母親は専業主婦だったので、それが普通だと思っていたみたい。でも誰もが仕事をし、誰もが家事ができたほうが効率的でしょ。母にも父にも、それぞれの人生がある。子どもはかけがえのない私たちの宝だけど、子どもをひとりで育てるためになぜ私が仕事を辞めなければいけないのか、あなたが辞めてもいいんだよって。『男が仕事をやめられるわけがないだろ』『どうして男はやめられなくて、女はやめていいわけ?』という会話を妊娠初期からずっと続けていました。あまりに激してつわりがひどくなったりもした(笑)。でもここで闘わなかったら、ずっとがんばれないと思ったんです」

結局、夫が折れて彼女は仕事を続け、夫は会社始まって以来初めての男性育児休暇をとった。今しかできない子育てを一緒にやっていくことが、今後の夫婦関係にどれほどいい影響があるかを彼女は説得し続けたのだ。

「家事ひとつできなかった夫が、ひとつひとつ学習していきました。私は母子家庭で育ったので、小学生のころから自分と妹が食べるものは自分で作っていた。母の分もね。いつしか自分が食べるものを自分で作るのは当然だと思うようになっていました。今、うちの子たちはふたりで夕飯の支度をしてくれることもあります。基本的には子どもにあまり負担をかけたくないので冷凍や出来合いの惣菜を使いながら食事をしていますけど」

最近では、夫が「出世争いに疲れた」と言うようになっている。そんな弱音が吐けるのも、アイコさんはいいことだととらえる。

「出世なんてしなくてもいいじゃん、と私は言いました。仕事を生きがいにしてもいいけど、生活をするためのツールと考えてもいい。人生を楽しむためにはお金が必要。だから働いていると割り切ってもいい。私は出世したいですけど、それは会社を変えたいから。もっと働く人が居心地のいい場所を作りたいから出世したい。明確にそう思っています」

夫は「アイコは強いなあ」とときどきつぶやいているそうだ。
 

男だって「オトコ」を降りたいときがある

「夫を見ていると、家庭内では男だから女だからの呪縛から抜け出せたけど、社会的にはまだまだ無理をしていますよね。最近、部長会議に出席すると全員が男で、なんだか嫌になるんですって。まだ女性部長がいないんだそうです。『その部長たちの中で、誰が役員になれるのか、誰がもっと上に行けるのかとみんな戦々恐々としている。役員にごまをすったりしているのを見ると、男だからこういうことをしなければいけないのかと愕然とする』と夫は言うんです。たぶん、男性もつらいんですよね。旧来の性別役割分担にとらわれていると」

みんなが鎧を脱げばいいのに、とアイコさんは言う。自分に向いていること、自分が好きなことをはっきりと把握し、不当な圧力にノーと言える自分でいることが重要なのではないか、と。

「実は私、整理整頓が半端じゃなく苦手なんです。だからそこは夫がほぼやってくれている。でもアイロン掛けは好き。だからそれは私が担当する。システマティックに分担するのではなく、身近な人と自分のできること、得意なことを分かち合うのが大事じゃないかなと思うんです」

男女同一賃金や選択制夫婦別姓制度など、世の中が完全に男女平等になること、お互いに不当な「男だから」「女だから」の決め事をしないことなど、世の中のシステムと個人の意識を、もっともっと変えていかなければ生きづらさは軽減されない。

だが少なくとも、夫婦やパートナー間においては、自分のホンネをさらけだして対等な関係を育むことは可能だ。ホンネをさらけ出すのは勇気がいる。まず自分が変わらなければ、関係性は変えられない。


※参考:LIFULL「ホンネのヘヤ
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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