夫が通販にはまって箱だらけに……
緊急事態宣言は明けたものの、リモートワークが根づいたこともあり、引き続き在宅で仕事をしている人も多いよう。出社しているときとは違って、家庭で仕事をしているとどうしても飽きてしまうこともある。使わないモノが増えていく
「私はエッセンシャルワーカーなので、在宅勤務はできないんです。一方、夫は普通の会社員。去年から断続的に在宅勤務が続いていて、今も週に1回ほどの出社ですんでいます。子どもたちが学校から帰ったときに夫がいるのは安心なんですけど、なんだか知らないうちにモノが増えているんですよ。夫が気軽に通販でモノを買っているみたいで」苦笑いするのは、リエコさん(41歳)だ。結婚して12年、10歳と8歳の子がいる。夫は面倒見がいいので、子どもたちは母よりむしろ父に懐いているそうだ。
「先日、珍しく私も連休がとれたので、夫婦の寝室や廊下に置かれているモノを開けてみたんです。開けもせず置いてあるんですから、必要なモノではありませんよね。見たら案の定、リビングでできる小さなトランポリンとか、腹筋を簡単に鍛えられる道具とか、ビタミン剤などもかなりありました。夫に『いつ買ったの?』と聞いてもはっきりした答えが返ってこない。夫とは家計も別にしているのですが、カードで買っているなら気をつけないと、買った実感がわかないのに買っているのはおかしいよと注意したんです」
すると夫は、家にばかりいるとストレスがたまり、ふっとテレビで見たモノとかネットに出てくる品物をクリックしてしまうのだと白状した。
「ひとつひとつは高額なモノではないけれど、いくつも買っているから、1カ月に払うお金はかなりの金額になっていると思う。しかも開けもしないで置いてあるということは必要ではないわけですよ。『大丈夫?』と言ったら、夫は『大丈夫ってどういう意味だよ』と怒りだして。ストレスがたまって、どこか判断力がおかしくなっているんじゃないかと心配なんです」
夫が密かに抱えていた「不安」
リエコさんは、夫が使っていないモノはすべて箱に戻して返却した。夫も何も言わなかった。だがそれから1カ月後、またモノが増えている。「上の子が、『学校から帰ってくるとお父さんが、これ、いいよな、ほしいよなって確認してくるんだ。いらないというと、どうしていらないんだ、これがあると楽しいぞって。だからしかたなく、ほしいって言うしかないんだよ』とこっそり言うんです。無意識に買っているのか、買ったことで満足するのかわからなかったので、週末、夫を連れ出して散歩しながらゆっくり話してみました」
見ているとほしくなる、これさえあれば体力増強できる、これさえあれば生活が潤う。そんなふうに思ってしまうらしい。
「夫に精神的な余裕がなくなっているのかと思って、在宅なんだから少しのんびり仕事をしたら、と言うと急に表情が暗くなりました。『オレ、会社にとって必要な人間じゃないのかもしれない』と。部署によっては毎日出社というところもあるみたいで、夫の仕事は行かなくてもすむ。それだけのことだと思うんですが、夫はとにかく心配みたい。その不安がモノを買うという行為に表れているみたいですね」
リエコさん自身は子どもが小さいころ、仕事から離れていた時期がある。そのときは「雇われない状況って、自由でいいわ」と思ったそうだが、夫は「雇われて、しっかり会社に仕事でフィードバックしないと不安でたまらない」らしい。
「いわゆる“社畜”状態なんでしょうか。かわいそうでそんなこと夫には言えないけど。会社にある意味で、支配されているからこそ得られる安定もあるのかもしれませんが、そこに依存しているとかえって不自由じゃないかなと思うんです。せっかく在宅で仕事ができるなら、それを生かして趣味に打ち込むとか副業ができるような勉強をするとか、いろいろ選択肢はあると思うんですけどね」
たくましいリエコさんと違って、夫は「自分がどこに帰属しているか」に敏感に反応するタイプのようだ。従来の「会社にとって都合のいい会社員」の典型なのかもしれない。
「男性も意外と大変なんだなと結婚して12年、初めて感じました。男性のプレッシャーなど理解しようとしなかったとも気づいたんです。働き方改革が叫ばれている今だからこそ、自ら考えないといけませんよね。最近、夫とも少しそんな話をしています。そのせいか、このところ通販の荷物が減っているみたいです(笑)」