亀山早苗の恋愛コラム

「親ガチャ」という言葉に救われた。“奇妙すぎる母”に育てられた私は、ハズレただけと思えた瞬間

最近、「親ガチャ」という言葉が流行っている。この言葉に関しては、親世代は眉をひそめる人たちがいる一方、深く共感する人たちも多く、賛否両論である。

亀山 早苗

執筆者:亀山 早苗

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「親ガチャ」という言葉

親ガチャ

最近、「親ガチャ」という言葉が流行っている。数年前からネットスラングとして行き交っていた言葉だが、一般的にも使われるようになってきた。「子どもは親を選べない。どういう環境に生まれるかは運任せ」という意味で、カプセルトイの「ガチャ」になぞらえて言われるようになった。若者はいつの時代も、興味深いセンスで言葉を作っていくものだと感心してしまう。

そしてこの言葉に関しては、親世代は眉をひそめる人たちがいる一方、深く共感する人たちも多く、賛否両論である。

 

いい家庭環境ではなかったけれど

「親ガチャ」と聞いたとき、救われたような気持ちになったという女性がいる。都内在住で会社員のミクさん(32歳)だ。

「複雑な家庭だったんです。両親と父方の祖母、私、2歳下の弟の5人家族だったんですが、私が7歳のころ両親が離婚した。父は出て行ったんですが、祖母はそのまま家にいました。その2年後に父の弟が居着くようになった。今思えば、母と父の弟は夫婦みたいに暮らしていたんでしょうね。さらにあとから聞いた話ですが、祖母は父にとって血のつながりのある母親ではなかったそうです。祖母は後妻で、父の弟は祖母が産んだ子だったと」

血のつながりがあるようなないような、確かに複雑な家庭だった。その家庭で、ミクさんは母から女として振る舞うことを敵視された。

「“女らしさ”を前面に出すと生きづらいと母自身が感じていたのかもしれませんが、私は小さいころからズボンしかはかせてもらえず、赤いランドセルもピンクのペンケースも持たせてもらえなかった。身につけるものや持ち物は、いつでも黒か紺か茶色。たまには私だってきれいな色の洋服を着たかったけど、二言目には『お金がない』と言われて」

友だちも母が選んだ。あの子とはつきあっていいけど、この子はダメ。その基準は「華やかかどうか」だった。徹底的に地味に生きることを母は強要してきたのだ。

「でも私は小学校高学年のころ、お芝居の楽しさに目覚めてしまいました。中学高校は演劇部に入って、母には内緒で舞台に立っていた。高校の文化祭で演技をしたのがバレて母に激怒され、家を追い出されたこともあります」

なぜ母親がそこまで娘を抑えつけたのかは、今もわからないままだ。

 

早くに自立するしかなかった

進学校に進んだにもかかわらず、彼女は「大学には行かせない」と母に言われ、公務員となった。そしてひとりで暮らしながら仕事をし、さらに20歳からは夜、大学に通った。

「心理学を学びました。やはり母の奇妙な人生、奇妙な干渉を分析したかった」

卒業後は大学院へ。働きながら大学院で学ぶのは時間的にも精神的にも大変だったが、彼女は必死だった。
 
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「親に期待はできない、この親と一緒にいたら自分がおかしくなってしまう。ずっとそう思っていたから、親を頼る気はなかったし、ひとりでがんばるしかなかった」

とはいえ、どうして自分の親はああなのだろう、父と父の弟との関係はどうなっているのだろう、自分が生まれたとき、親は本当に喜んでくれたのか、などなど絶えず疑問を持ち続けてきたし、ときには親を恨んだこともある。

「中学生のとき友だちの家に行って、両親が冗談を言いながら一家で食事をするという光景を見てショックを受けたんです。うちはいつも祖母がグチグチ文句を言い、母が張り詰めた顔で緊張していて、父は怒鳴ってばかりいたから。関係性が複雑なだけではなく、それぞれの人間関係も悪かった。心理学をどんなに学んでも、我が家のことはなかなか理解できませんでしたが(笑)」

それでも少し前に、ネットで「親ガチャ」という言葉を見たとき、ミクさんは少し心が軽くなったような気がしたという。

「そうか、私はあの親を選んで生まれてきたわけじゃない、運が悪かっただけなんだと腑に落ちたというか。親が悪い、いや、親をあんなふうにしたのは私にも責任があるのではないかと悩んだ時期もあるんです。でもガチャで運が悪かっただけという考え方もあるのかと思えて……」

ミクさん、実はガチャをやったことがなかったのだが、その言葉を聞いて早速やってみたという。これがほしいと思っても、それが出てくるとは限らない。だが、欲していないものでも見てみるとかわいかったりもする。

「運任せではあるけど、出てきたものをどう愛でるか、どう評価するかは私次第でもある。そう思えたとき、自分を責めるのはやめようと思いました。親へのモヤモヤは今もあるけど、ほとんど連絡もとりあっていないので、今後の関係を不安に思うのもやめておこう、今は自分の人生を充実させたいと思えるようになったんです」

「うち、親ガチャ、失敗してるから」。そんな言葉を友人に言ったこともある。「うちもだよ」と意外な言葉が返ってきて、親子関係に苦しめられているのは自分だけでないことも知った。

「親ガチャ」という言葉は、虐待などせず一生懸命子を育てた親に失礼だという意見もある。だが、ミクさんが言うように、その言葉を発することで、友人にも言えなかったことを話せることもあるのだ。それは大きな効能かもしれない。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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