相手を信用できない。ひとり娘の結婚
内親王の結婚が世間をにぎわせているが、相手やその親に問題があるとして、娘の結婚に反対している親は少なからずいる。親としては「どうしても保守的になります。危機管理ですよ」ということなのだろう。
娘の婚約者が二世帯住宅を建てていた
「子どもというのは独立していくものだし、いつまでも頼られても困る。そうは思っていたけど、手放しで結婚を祝う気持ちにはなれなくなっているんです」
そう言うのはマユミさん(53歳)だ。結婚生活27年、大学を出て就職したひとり娘は26歳になった。
「半年ほど前、結婚したい人がいると連れてきたのが一回り年上の彼。年齢が離れていると聞いていなかったのでびっくりしました。つきあってまだ半年だというんですよ。そのときはあまり会話も弾まなくて、彼が帰ってから娘にどういうことなのと聞くしかありませんでした」
娘は、先入観を抱かないようにいきなり会わせたと説明、半年後には結婚すると宣言した。だがマユミさんは「なんだか嫌な予感がした」と言う。
「彼自身は悪い人ではないと思うんですが、一回り上というのがね。夫と私は同い年で、同じ世代を生きてきたから共通点も多い。でも一回り違うと、文化が違うんじゃないかと思うんですよ。娘には『そういう考えは古い』と言われましたが」
さらによく話を聞いてみると、就職して数年しか経っていない娘より、一回り年上の彼のほうが収入が少ないとわかった。娘もそのことは親には言いづらかったようだ。
「娘がそれでいいならいいけど、いずれ不満が出てくるかもしれない。そのときどうするのか。しかも彼は東京から2時間もかかる場所に住んでいるんですが、娘はそちらに引っ越して都内の職場に通うつもりだと言うんです。それは無理でしょと思わず言ってしまいました」
だがその後、彼が二世帯住宅を建てていることが判明。娘はそれを知らなかったのだという。建物だけの価格だから、ローンもそれほど多くないというが、それは彼の親と同居するという前提である。
「事前に相談してもらえなかった娘はショックを受けたようです。それでも『話し合って納得した』と言い張って。無理しないほうがいいと言ったんですが、私の結婚だから口を挟まないでと意地になっているみたい。夫とも相談して、もう止められないね、と。だけど娘には帰ってくる場所はあるよと言ってあげたいです」
2カ月後、娘は結婚する予定だという。
結婚をやめさせたけれど……
娘が「結婚する」と連れてきたのは、無職の男性だった。親としては呆れるやら腹が立つやらで、眠れない日々を過ごしたというのはチカコさん(56歳)だ。
「27歳の娘が彼を連れてきたのは1年前でした。仕事を聞いても彼は何も言わない。娘が『今、職探しをしているところ』と彼を気遣うように言うんです。後日、ひとり暮らしの娘に本当はどうなのかと夫と私が問い詰めたところ、『彼は音楽で身を立てようとしている』と。だったらミュージシャンだと言えばいい。言えないのはなぜかとさらに聞いたら、どうやら参加していたバンドから解雇されたんだそうです。腕が悪いわけじゃない、仕事があっても遅刻したりいいかげんだったりするので周りが見放した。そういう男と結婚して幸せになれるのかと言うしかありませんでした」
だが恋に落ちた娘の気持ちは、彼にしか向いていなかった。すでに一緒に住んでいることもあり、何か言えば言うほど娘の気持ちは親から離れていく。
「娘は自分が彼を立ち直らせる、彼の良さをわかっているのは私だけなんだと言っていました。若いときの恋にありがちだなと思いながらも、私たちはとにかく反対。彼の今後が決まったら話そうと言いました」
そこで助っ人として出てきたのが息子である。姉とは年子で、幼いころから仲のいい姉弟だった。
「息子は遠方の大学院にいたので、このコロナ禍、なかなか戻ってこられなくて。娘とはLINEなどで連絡を取り合ったいたようですが、この夏、一時期、こちらにいました。その間、娘と毎日のように会っていたみたい。ある日、娘が『彼が家を出て行った』と。恋人の弟が毎日のようにやってきたり、いろいろ言われたりして嫌になったみたい。実家に戻ったそうです。『おまえはオレのことを本気で好きなわけじゃなかったんだな』と最後に言われたと泣いていました。私たちはそれでよかったと思ったんですが」
娘はそれきりチカコさんにも弟にも連絡を寄越さなくなった。LINEも既読スルーの状態だ。たまに電話をしてみると、「元気でやってるから」と言うだけ。こっそり部屋まで行って手紙をポストに入れてきたこともあるが、反応はなかった。
「このまま放っておいていいのかどうか。元気でいてくれるならいいけど、彼がいなくなってからの娘の心身の状態が心配でたまりません」
大人なのだから反対せず結婚させればよかったのか、あるいは反対だけど好きにしろと放っておけばよかったのか。チカコさんにとって、自分が間違っていたのだろうかと悩む日々が続いている。