ワクチンを打つか打たないか、個人の自由ではあるけれど
「ワクチンを打つ派」「打たない派」との間には大きな溝が生まれ始めている。もちろん、これは個人の自由なのだが、打つ派にも打たない派にも、それぞれの言い分があるようだ。
ワクチンを打ったと友人に言ったら
「私は持病もあるし、近くに両親もいるので、できるだけ早めに打ちたかったんです。近所の人ともそんな話をしていました。先月末にかかりつけ医と連絡をとってようやく1回目を打てた。ホッとして学生時代からの親友に言ったら、『え、ワクチン打ったの? 2年以内に死ぬよ。私はあなたに死んでほしくない』と騒ぎだして……。ちょっと引いてしまいました」
そう言うのはノリコさん(49歳)だ。結婚して20年、3歳年上の夫は職域接種ですでにワクチンを打ち終わっている。
その後も親友は、さまざまな“文献”をノリコさんに送ってくる。その中にはいわゆる「陰謀論」めいたものもあり、「2度目は打たないで」という親友のメッセージも毎日送られてくるようになっている。
「現状を考えれば、私は少しでも多くの人が打ったほうがいいと思っているけど、もちろんそう考えない人もいる。それはそれでいいんですが、『2年以内に死ぬよ』というのは言ってはいけない言葉だと思いますね。彼女に対する信頼度が崩壊しました」
親友は親友で必死なのかもしれない。だが、自分の“信念”を他人に押しつけたら、人間関係は崩壊する。
「つい先日、コロナ禍でほとんど会えていなかった彼女がうちにまで来たんですよ。しかもマスクなしで。悪いけど家には上げられないと言って、私は二重マスクをし、近くの公園のベンチで距離をとって少し話しました。いろいろ熱弁をふるっていたけど、私にはほとんど理解できなかったし、10分ほど話したところで、『悪いけどマスクもつけていないあなたとは、これ以上話せない』と立ち上がったんです。すると彼女、『あなたがそんな人だとは思わなかった。そもそも新型コロナウイルスなんてない、存在しないの。騙されてる』と叫ぶように言って走り去りました」
30年にわたるつきあいが壊れた瞬間だったと彼女は言う。
「私だって、ワクチンに対する絶対的な信頼があるわけではありません。でも今はさまざまな情報を考えると、打つのがベターな選択だと思ってる。だからといってみんな打てとは思いません。彼女がどうしてあんなに私に持論を押しつけるのかが不可解でした」
コロナで友人を失った、と彼女はうつむいた。
夫と毎日のようにケンカに
暗い表情でそう言ったのはアユミさん(45歳)だ。14歳と10歳の子をもち、パートで働く主婦である。
「直接の知り合いで罹患した人もいないし、打った人に聞くととにかく副反応がひどいって。その副反応がきっかけで別の病気になるんじゃないかと不安も感じるんです」
ところが同い年の夫は、彼女いわく「ワクチン推奨派」だそうだ。職域接種で打てるかもしれないと夫が言ったとき、彼女は「なんとか打たないでほしい」と訴えた。
「結局、ワクチン不足で夫の勤務先は職域接種ができなくなったんです。思わず、ああよかったと言ったら夫が怒り出して……。実家の両親はすでに打ってしまったのですが、高齢のせいか副反応はほとんどなかった。でも40代の私たちが打って、万が一何かあったら子どもたちはどうなるんだろうと思うと、不安でたまらない」
そんな彼女の声を夫は聞こうともしない。それどころか、「おまえはヒマだからそんなことばかり考えるんだ」と吐き捨てるように言ったという。
「私は夫や子どもたちのことを心配しているのに、そんな言い方はないでしょう。そこから夫とは何かというとケンカになってしまうんです。子どもたちも不安そうで。最近ではコロナ関係のニュースをテレビでやると、私は立ち上がってキッチンに行くようにしています」
夫はその後、「ちゃんと話そう」と言ったが、彼女は「私の意見なんて聞いてくれないから、話し合いはできない」と拒否。現在、家庭は冷戦状態になっているという。
「ワクチンに危険がないって誰が担保してくれるんでしょうか。万が一、命を落としても、しかたがなかったんだですまされてしまうと思うんです」
そう言いながら彼女は涙目になっている。いろいろな情報に当たって、自分の納得のいくまで夫とも、可能ならばかかりつけの医師などとも話し合ったほうがいいのではないだろうか。その上で、最終的には自分で判断するしかないのが現状だろう。