感染者数300倍超? RSウイルス感染症が夏に異例の大流行
乳幼児がかかると重症化することもあるRSウイルス感染症。この夏、異例の大流行の背景は?
そもそも夏には本来少ないはずのRSウイルス感染症が、なぜここまで流行しているのでしょうか? RSウイルス感染症とは何か、症状や原因、大人がかかった場合の症状もなども含め、解説します。
RSウイルスとは……症状・原因・死亡率
RSウイルスは決して珍しいウイルスではなく何度も感染と発病を繰り返します。詳しくは「RSウイルス感染症とは……症状・感染経路・潜伏期間・治療・予防法」もあわせてご覧いただきたいのですが、生後1歳までに半数以上が、2歳までにほぼ100%の乳児が、少なくとも1度は感染するとされています。「RSウイルス」は「Respiratory Syncytial Virus」の略で、細気管支炎、気管支炎、肺炎などの呼吸器の感染症を引き起こしますが、症状は軽い風邪様のものから重い肺炎まで様々です。熱、咳、鼻水、ゼイゼイといった喘鳴から、呼吸困難が見られるもの、無呼吸を起こすものまであります。
初めてRSウイルス感染して発症した場合、特に生後数週間~数カ月の乳児期早期では約30%が細気管支炎、肺炎を起こすため注意が必要です。
RSウイルス感染症の致死率は1~3%と報告されています。予防薬を含めて現在は減少しているものの、乳幼児の場合は悪化しやすいため、注意が必要です。1980年代には、心臓に基礎疾患のある小児入院例で致死率37%とする報告があります。現在は当時よりも医療が発達していますが、低出生体重児、先天性心疾患、免疫不全症が危険因子とされています。
大人も感染するRSウイルス……感染経路・潜伏期間・予防法や治療法は?
RSウイルスは、咳やくしゃみ、つばを介しての「飛沫感染」や、ウイルスがついている手指や物を触ったり、またはなめたりすることによる「接触感染」で感染していきます。感染してから発症までの潜伏期間は、2~8日(主に4~6日)です。RSウイルスは生涯にわたって感染を繰り返し、症状は徐々に軽くなっていきます。大人が感染・発症した場合、症状は咳と鼻水程度です。RSウイルスの治療法となる特効薬はありません。また、予防のためのワクチンもありません。基本的な感染対策で予防し、感染・発症した場合には症状を和らげる対症療法を行います。ただし、RSウイルス感染症で重症化するリスクが高い早産児や、呼吸器を使用した低出生体重児、先天性心疾患がある乳児に対しては、遺伝子組換え技術を用いて作成されたモノクローナル抗体製剤であるパリビズマブ(Palivizumab)を予防のために投与します。
RSウイルス感染症大流行の理由・背景
RSウイルスは毎年流行し、2歳までに感染することになります。そのため、徐々に免疫がついてくると考えられます。つまり、自然感染による集団免疫が起こっている可能性があります。ただし、2020年では全くと言って良いほど、RSウイルス感染症の報告例がありませんでした。RSウイルス感染症の感染経路は飛沫感染と接触感染で、再感染では症状が軽症であることから、RSウイルス感染症であるとは気付かれてない年長児や成人によって、発症の中心となる免疫力のない0歳児と1歳児で感染が拡大したことが考えられます。1年間感染している子がなかったため、2年間のRSウイルス感染症が1年に集中していることもありますし、2020年より人との接触が増えていることで感染拡大したこともあるかもしれません。
コロナ対策中も広がるRSウイルス……身近な大人は乳幼児を守る感染対策を
まず乳幼児(0~1歳児)に接する大人で咳などの呼吸器症状がある場合、飛沫感染対策としてマスクを着用するようにした方がよいでしょう。RSウイルスで重症化する恐れがある年齢の子供自身が、十分な感染対策をとることは難しいので、まずは接する大人が、自分もRSウイルスを持っているかもしれないと意識することです。接触感染対策としては、子どもたちが日常的に触れるおもちゃ、手すりなどはこまめにアルコール消毒剤で消毒し、流水・石鹸による手洗いか又はアルコール製剤による手指衛生が良いでしょう。
とはいえ、社会全体が新型コロナウイルス感染症対策を継続していても、今回のRSウイルス感染症の流行を抑えることはできませんでした。これは常に万全の感染対策を徹底することが難しかった結果ともいえます。子供の病気でも、ワクチンのある疾患の頻度は減っていますが、RSウイルスワクチンはなかなか実用化されていません。まずは今できる対策を行っていきましょう。