息子の彼女、かわいげがなくて
子どもの恋人、婚約者、配偶者が「なんとなく気に入らない」のは昔からよくあること。だが今の時代、親世代は「子どもに迷惑をかけたくない」と言いながら、「実は頼りたい」「実は仲良くしたい」のが本音。「子は親の面倒を見て当然」と言い放つことができた、かつての時代のほうがラクなのかもしれない。
息子が連れてきた彼女が……
「離れて暮らす29歳になる長男が、先日、つきあっている彼女を連れてきたんです。まだ結婚ということではなさそうだけど、今まで連れてきたことなんてなかったから、息子にとっては本命なんでしょうね」
複雑な笑顔を見せながらそういうのは、タマキさん(57歳)だ。結婚して30年、夫も同い年で、長男の3歳下の次男もいる。娘がほしかったという彼女にとって、長男の恋人はどう映ったのだろう。
「息子より3歳年上なんですよね。なのになんだかぶかぶかのトップスにパンツ姿。彼氏の実家に行くんだから、もうちょっと服装を考えてもいいのに。息子に言わせると、たまたまドライブしていて、実家の近くを通ったから寄ってみようかということだったらしいですけど」
ぶかぶかトップスは流行だと聞いたが、それでもタマキさんは不服そう。三十路過ぎて、あんな格好をするのはどうなんだろうとつぶやく。
「私が彼女の年齢のときは、ふたりの子を抱えて必死で家事育児をしていましたからね。誰にも頼れなかった。夫はしょっちゅう午前様だし」
自分の若いときと比較して、今のその世代を揶揄するのは違うと思いながらも、彼女の言葉に耳を傾ける。
「彼女はカフェの店長さんなんだそうです。聞けば大学を出て留学までしてるんですって。『うちのカフェ、これからは飲み物提供だけじゃなくて、いろいろなことをやっていこうと思っているんです。夢があって楽しい職場ですよ』と言うんです。内心、いい会社に就職できなかっただけじゃないのかしらと思いました。よほどヘンな顔をしていたみたいで、息子がすかさず『おかあさんには今時のカフェのことなんてわからないだろうけどさ』って。結婚もしていないのに彼女の肩を持つなんてね」
これは嫉妬以外の何物でもない。
「息子がいいなら」の言葉の裏に
母にとって、息子は特別なかわいさがあるとよくいわれている。だがタマキさんはそれについては否定。「子どもは子ども。あくまでも別人格ですよね。わかっているんです。そういうつもりで育ててきましたから」
理屈がわかっているだけに自分の感情を整理する術がわからないのかもしれない。
「なんだかね、息子の彼女、かわいげがないんですよ。ふたりが来たとき、たまたま前日に私が焼いたクッキーがあったから出したんです。彼女は一口食べて『おいしい』とは言いました。でも息子が『甘すぎるんだよね』と言うと、『お砂糖をメープルシロップやきび糖に変えると、少し違う風味になりますよ。黒糖クッキーもおいしいです』とエラそうにアドバイス。砂糖なんてどれを使っても一緒でしょって思わずつぶやいちゃいました」
息子は「彼女、お菓子作りのプロなんだよ」とやんわり母親をたしなめたが、それがタマキさんの心を逆なでした。息子に「誰が作ったごはんで大きくなったんだ」と言いそうになったとき、横から夫が「お菓子作りのプロなんですか、それはすごいなあ」と割り込んだ。
「あげく夫は、『おまえも教えてもらえよ。ほら、プリンがうまく作れないって言ってたじゃないか』と言い出して。いつでもレシピを送りますと彼女。『じゃあ、オレと彼女とおかあさんのLINEグループ作ろう』と息子が言い出し、夫が『オレも入れてくれよ』なんてことになり。かわいそうだから次男も入れようと長男が言い……。なんなのこれっていう展開になりました」
仲良くできてよかったはずなのに、タマキさんの不機嫌はおさまらない。ふたりが帰ってから、夫は「あいつにはもったいないくらい、いい彼女じゃないか」と言ったが、タマキさんは同意せずに黙っていたという。
「女は愛されてなんぼだと思うんですよ。彼女は全然、息子を立てようとしないし、私らと対等に話す。そこは一歩下手に出るのが女性のかわいらしさじゃないですかねえ」
タマキさんとて「現代を生きる女性」だ。結婚して一時は退職したが、ここ20年ほどはパートとして仕事もしている。それなのに「息子をもつ母親」としての立場では旧態依然とした考えを振りまく。だからこそ、「嫁姑問題」は脈々と受け継がれているのかもしれない。