不惑を前に「惑ってしまった」私
四十にして惑わずというが、実際にはいくつになっても惑うのが人間。そして40歳前後といえば女性がいちばん迷い道に入り込む時期かもしれない。未婚か既婚か、子どもは産むのか産まないのか、仕事は今のままでいいのか、新たな道を模索するのか……。
仕事でも私生活でも、「誰にも必要とされていない」寂しさから不倫関係に陥って惑い続けている女性がいる。
なぜか恋愛も結婚も縁遠くて
「いろいろがんばってきたんですよ、私」
マヨさん(40歳)は、いきなりそう言って苦笑した。人生、思い通りにいかないという言葉を体現しているのが自分だとも言った。
「ごく普通の大学を出て、運よくそこそこの会社に入って。20代は海外旅行をしたり趣味のテニスに打ち込んだり、楽しかった。ところが30歳間際になって、学生時代の友人も社会人になってから知り合った友人も、どどっと結婚していったんですよね」
ちょうどそのころ部署を異動になり、新たな環境で仕事を覚えなければならなくなった。毎月何度か友人たちの結婚式や披露パーティーに駆けつけながら、必死に仕事もした。そして一息ついたら、すでに34歳になっていた。
「今度は周りが出産ラッシュ。人って、いろいろ行事が多いですよね。そのころはそんなふうに日々、つぶやいていました。私には何もない。そんなふうに思うことも増えていった」
自分だけはまともな恋愛ひとつできていない。誰かとつきあっても半年足らずで別れてしまうことが多かったマヨさんは、このあたりできちんと恋愛や結婚を考えようと重い腰を上げた。
父を学生時代に病気で亡くしたマヨさんは、パート勤めの母とふたり暮らしだった。干渉し合わない気楽な生活がいけないのかなと思ったこともあった。
「私が35歳になったばかりのころ、残業を終えて帰宅するとリビングに母が倒れていました」
思い出すと今でもつらいとマヨさんは涙ぐむ。母はすでに事切れていた。大動脈解離だったという。
「その朝、いつものように私が先に家を出て、母はパートに行ったんだと思います。台所には料理の途中だったようで、タマネギのみじん切りがまな板に残っていました。何を作ろうと思ったんだろう……。どうして死んでしまったのか、本人がいちばんわかってなかったかもしれない」
親戚づきあいもなかったため、たったひとりで葬式を出した。
気力が尽きて
母を亡くしてからしばらく、マヨさんは何もする気力がわいてこなかった。会社と家を往復する日々が続いた。「母とはべったりした関係でなかっただけに、亡くなってから、母は本当は何が好きだったんだろうとか、人生、幸せだったんだろうかとかよく考えました。もっと話しておけばよかった、一緒に旅行でもすればよかった。そんな後悔もありました」
子育て真っ最中の友人たちも多い中、離婚する人たちも出てきた。ある日、離婚したばかりの女友だちと食事をした。モラハラ夫に悩まされたあげく、ようやく離婚できてホッとしたと笑ったその友人は、その数か月後にはもう新しい恋人を見つけていた。
「すぐに誰かに必要とされる。それが単純にうらやましかった。私は結局、仕事もそこそこで出世もできないし、女としても誰かに必要とされているわけではない。すごく落ち込みましたね。人生最大の危機だと思うほど、鬱々としていました」
自分は自分らしく生きていくしかない。そう思いながらも、目標もなく漫然と会社と家を往復していることがつらかった。
「自分のために生きなくてもいい、誰かのために生きてみよう。そう思ってボランティアをするようになったんです。職場でそういう活動をしているグループがあったので入れてもらって……」
そんな活動を続けるうちに横のつながりで知り合ったのが、他社で働く5歳年上の男性だった。
「彼は病気の子どもたちのためにボランティアをしていました。誘われて私もそちら方面での活動をするようになって。現場で彼の熱心さ、優しさに感動したのを覚えています。あとから聞いたら、彼自身、難病の弟さんを看取った経験があるそう。つらい思いをしたんだろうけど、いつもにこやかで前向きなんですよ」
一緒に行動しながら、マヨさんも彼にぽつりぽつりと自分のことを話すようになっていった。急速に彼との距離が縮まっていくのを感じて戸惑ったという。
「彼に家庭があるのはわかっていた、それなのに自分を止められない。彼も同じ気持ちだとすぐにわかりました。『僕にはきみが必要なんだ』と言われて、私の心が一気に爆発したような感じ」
それが半年前のことだ。そしてマヨさんは先日、40歳になった。
「コロナ禍だし外食もしづらいということで、誕生日に彼がうちに来て、おいしい料理を作ってくれました。その日、彼は初めてうちに泊まっていったんです。うれしい半面、このまま関係が続いていいのだろうかと不安も募っています」
誰かに必要とされるのはうれしいことだが、この関係が露見したらふたりにとっては大問題が待っている。わかっていながら、マヨさんは今、新たな惑いの中にいる。