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教師と生徒とのSNSやり取りが禁止された理由

教師と生徒とのSNSの私的やり取りが文部科学省によって禁止された。何が問題でどのような事件につながっているのか。禁止することで他のリスクはないのか。理由と背景、対策について解説する。

高橋 暁子

執筆者:高橋 暁子

ITリテラシーガイド

教員のSNS利用が問題になっている。2021年4月、文部科学省は児童生徒と私的なやり取りを禁止する通知を都道府県教育委員会に出した。教員のSNS利用が問題になっている理由と問題点について解説したい。
 

背景には教員のわいせつ事件の増加

教師と生徒とのSNSのやり取りが禁止された理由は

教師と生徒とのSNSのやり取りが禁止された理由は

教員と児童生徒とのSNSのやり取りが禁止された理由は、わいせつ行為によって教員が処分されることが増えているためだ。
 
2019年度にわいせつ行為やセクハラなどで懲戒処分を受けた公立小中高校などの教員は273人と、過去2番目に多かった。このうち4割超の121人は、児童生徒に対するわいせつ行為で懲戒免職となっており、SNSやメールでのやり取りから発展した例もあったという。
 
部活動の一斉連絡などにはLINEなどのSNSが使われることが多く、広く利用されている実態がある。それに対しても文部科学省は、必要な業務連絡をする場合でも、学校の管理職らとルールを明確化するように求めている。
 
その他にも文部科学省は、児童生徒と1対1になる密室状態の環境を作らないこと、アンケートによる被害の実態把握なども求めている。同時に、懲戒免職となった教員が処分歴を隠して再び教員として採用されたケースがあったことを挙げて、懲戒処分歴の記入欄を設けた様式の書類を採用時に利用することも求めている。
 
また、わいせつ事案で調査を受けながら処分前に教員が自主退職する事例に対しても、文部科学省は都道府県等に処分前の依願退職を認めないよう要望する通知を出している。懲戒解雇の場合は免許を再取得できるようになるまでに3年かかるが、自主退職ならば免許は失効せず、再び教員として勤務できてしまうためだ。
 

SNSで好意を募らせ、わいせつも

実際、SNSを通じて教員と児童生徒等が私的なやり取りをすることで、事件につながった例は多い。
 
高知県立特別支援学校の50代の女性教諭は、2018年度に担任していた高等部の男子生徒と約2年間、LINEで個人的なやり取りをしていた。それだけでなく、タバコを複数回買い与えた他、生徒の自宅近くで待ち合わせ、十数万円の携帯電話を買ってやったこともあったという。教諭は「関わるうちに母親代わりの気持ちが強くなった」というが、戒告の懲戒処分を受けている。
 
2021年には、鳥取県の中学校に勤務していた女性講師が、公園や学校内で男子生徒に対し抱擁やキスを行っていたことが発覚。「2人が親密そうに見える」との情報が学校に届き、女性講師に確認したところ、事実を認めたため懲戒免職処分となった。「直接相談に乗ったり、SNSでやりとりをするなかで好意を持つようになった。大変申し訳ないことをした」と答えているという。
 
SNSは連絡手段となるだけでなく、心理的な距離を縮めたり、親しくなる効果にもつながる。SNSの良い面だが、教員と未成年である児童生徒の間で使われ、不適切な行為につながることが少なくないのは大問題だ。
 

いじめ対策、教員を守る仕組みも必要 

そもそも教員はSNSでも教員らしく振る舞うことを求められ、私的利用自体が難しい。「今度の新任の先生、若いからTwitterアカウント持ってたんだよ。でも子どもや親たちの間で突き止められて、アカウントが広まっちゃって、みんなに投稿を見られるようになって、仕方なく消したらしい。変なことは投稿していなかったけど、やはりどうしても注目されちゃうからね」とある教員に聞いたことがある。このような話は珍しくない。
 
教員が生徒や学校の不満、悪口などをSNSに書き込む例もある。2017年には、埼玉県の市立中学校で男性教員が匿名の男子生徒になりすまし、Twitterで同校生徒をフォローして回った上で、校内のことやわいせつなことなどを投稿。「顔で損してるよな」「あの体形、あの嫌われようでよく学校来れると思う」などと一部の生徒間で話していた内容や特定の女子生徒の悪口を投稿していた。
 
教員は女子生徒等に特定され、問い詰められてその場では否定したが、翌日から学校に来られなくなっていた。その後、市教委や学校の調査ではすぐに認めている。

「教員がSNSを利用するのはトラブルのもと」と考えてスマホやSNSは利用しない先生は少なくないが、指導上ではSNSの知識が必要とされることが増えている。最近の児童生徒のトラブルにはSNSがからむことが多く、SNS抜きに指導できない実態がある。いじめなどのトラブルがある度に学校に問題が持ち込まれ、頭を悩ませる教員は多い。
 
SNSの禁止には、懸念も残っている。SNSでしか本音が言えないと子どもたちがいるためだ。SNSはいじめ相談等にも使われている可能性があり、そのような子どもたちのフォローが課題となるだろう。SNSでいじめなどの相談を受け付けている相談機関の周知徹底が重要ではないだろうか。
 
そもそも部活動など連絡しなければならないこともあり、教員側も私的利用とされて罰せられないか心配だろう。そこで、静岡県教育委員会は業務上で利用される教職員と生徒らのグループとのSNSの内容について、管理職が閲覧・監視できるシステムを導入する方向で検討中だという。このような専用のツールがあれば、SNSでやり取りをしてトラブルにつながることがなくなる可能性があり、期待したいところだ。
 
教員は生徒指導上SNSのことをある程度知っている必要があるが、生徒との私的やり取りは禁止され、匿名でも利用が難しい実態がある。教員が生徒を指導しやすく、トラブルにつながらない制度やツールなどが必要とされているのだ。
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