過去の“恋愛”がひっかかって、結婚が怖い
自分では後悔していない“恋愛”であっても、今思えば、若かったから流されてしまったということもある。過去を気にして未来に踏み出せないのは悲しい。だが、ある特殊な経験をしてしまったがために、「結婚するのが怖い」という女性がいる。
40歳年上の男性から援助の申し出
地方に生まれ育ち、東京の大学に進学したアツコさん(37歳)。ところが入学直後、父が経営していた会社が破綻、父と母は離婚し、ふたりとも行方がわからなくなった。
「何が起こったのかわからなかった。とにかく急に親と連絡がとれなくなり、生活費もなくて。親戚からも父が借金をしていると初めて知りました」
すぐにお金になるアルバイトを探すしかなかった。バーでのアルバイトから、クラブへと流れた。大学の講義を受け、いったんアパートに帰って勉強し、夜の仕事に出かけていた。
「19歳になってすぐ、40歳年上の男性と知り合ったんです。彼はもともと店にとって上客だったようです。その彼が私を気に入ってくれ、学費や生活費を援助してくれると言い出したんです」
アツコさんは悩んだ。父親より年上の男性だとしても、援助してもらったら、当然、男女としてつきあわなければならない。ウブな彼女でも、そのくらいはわかっていた。店のママに相談し、彼女はその申し出を受けることにした。
彼はすぐにマンションを借りてくれた。生活費も十二分にくれた。アツコさんは無駄遣いせず、せっせと貯金したという。
「最初は肉体関係をもつのが嫌でした。でもこの生活ができるのは彼のおかげですから我慢しました。父は借金を重ねて逃亡している、でもこの人はたくさんお金をもって、若い女を囲っている。世の中、理不尽だと思いました。父はまじめに生きてきた人だから……」
それでも彼女は大学を卒業したかった。年上の彼は、それをわかってくれて試験のときなどは数週間、姿を見せなかった。彼のその優しさに、彼女はだんだん惹かれていった。
「好きというより慕う感じかな。本当にいい人でした」
大学を卒業するまで、ふたりの関係は続いた。彼女の卒業時にはふたりで京都へ旅行もした。そして彼は自ら身を退いた。
「社会人になってまで、きみを拘束しようとは思わない。これからは自由に生きたほうがいい、と言ってくれました」
そのとき、彼は、知り合いだという40代後半の男性を紹介してくれた。
「普通ではない」過去があるから……
アツコさんは、彼の紹介してくれた人とつきあうことにした。彼の知り合いなら、きっといい人だと思ったのだ。「私も社会人になったので、全面的に援助してもらわなくてもよかったんです。でも前の彼が借りてくれた部屋には住み続けたかった。自分の給料じゃ住めませんから」
40代の彼は、家賃と光熱費を負担してくれた。来るときはいつも高級ワインやつまみを抱えてやってくる。そして前の彼より若かったせいか彼女との関係に積極的だった。
「この彼に私は徹底的にセックスを仕込まれました。無理やり何かをさせられたことはないけど、週末などは1日中、ベッドにいたことも多かったですね」
結局、この彼とは10年つきあった。その間、行方不明だった父が亡くなっていることがわかったり、母が身を隠して生活していることを知ったりもした。そのたびに彼は彼女の支えになってくれたという。
別れは唐突だった。彼の秘書だという男性が現れ、彼が亡くなったと告げたのだ。最初は信じなかったアツコさんだが、彼の葬儀の動画を見せられて信じるしかなくなった。
「涙が止まらなかった。私、実は彼のことを本気で好きになっていたんです。秘書と名乗る男性は、私宛の遺産があるとお金を渡してくれました。彼は遺言で私のことに言及してくれていたそうです。ありがたかったですね」
32歳だったアツコさんは、引っ越しと同時に過去を捨て、仕事に邁進した。35歳のとき仕事関係で3歳年下の男性と知り合った。
「恋愛感情というよりは友情のほうが強かった。19歳のころから一方的に庇護されたり援助されたりしてきたけど、彼とは対等な感じがしましたね」
食事をしたとき割り勘だったのが新鮮だった。常に男性が払うものだと思っていたが、自分でデートの食費を払うのも悪くないと思った。そして、いつしか週末をともに過ごすようになり、今年に入って彼からプロポーズされた。
「結婚なんて考えていなかったから驚きました。今まで彼とは、過去のお互いの恋愛について話したこともあったんです。だけど私、自分のことはほとんど話せなかった。ふたりの年上男性のことは言いたくなかったんです」
大事にしておきたかったから話したくなかったわけではないらしい。やはりあのふたりのことは、彼女にとっては「嫌な思い出ではないけど、自ら望んだ関係でもない」という意味で、言葉にはしづらいのだという。
「そんな私が結婚してうまくやっていけるはずはない。そう思いながらも、彼と一緒に歩みたいとも思う。両親のことも含めて、封印してきた過去がよみがえるのがつらいんです」
彼には返事を待ってもらっている。だが、いつになったら返事ができるのか、彼女にもわからない。「一般的ではない過去」を持つからといって、未来の幸せを手放さなければならないわけではないはず。何を選択するのかは彼女の心ひとつだ。