妻とはうまくいっていないと思い込んで
不倫関係に陥るきっかけはさまざま。ただ、独身女性の場合、相手の既婚男性が妻とうまくいっていないと思い込むことも多いようだ。その裏には、彼が意図的なのかどうかわからないとしても、「家に帰ってもひとりなんだ」など、家庭内で居場所がなさそうな雰囲気を醸し出しているケースがよく見られる。
「ごはんがないんだ」
1年ほど前、同じ部署の男女の先輩ふたりと仕事帰りに一杯飲んだときのこと、とアイコさん(33歳)は話し始めた。
「女性の先輩は家庭があるので、と本当に軽く一杯飲んですぐに引き揚げていきました。残ったのは3歳年上の男性の先輩と私。もともと3人で仲良くしていたのですが、ふたりきりで飲んだのは初めてでした。たわいもない話をしていて、彼が『なんかもうちょっと食べない?』と言い出して。家でごはん食べないんですかと聞いたら、『いや、オレの分はないからさ』と。それ以上聞けなかったけど、奥さんが食事を用意してくれないのかと思ったんです」
大好きな先輩だから、一瞬、「かわいそう」と思った。その日は食事をして帰ったのだが、駅で別れ、しばらくたったところで彼からメッセージが来た。
「今日はありがとう、ゆっくり話せて楽しかったって。なんとなく『帰ったら何をするんですか』と聞いたんです。週末だったから。すると彼は、『ひとり寂しく飲み直して寝落ち』と書いてきて。もしかしたら別居しているのかしらとまで思ってしまいました」
女性がぐっと男性側に心を寄せた瞬間だろう。その後も、先輩はときどきアイコさんを食事に誘ってきた。
「メッセージのやりとりも日々、増えていきました。先輩は仕事ができる人で、上司からも後輩からも頼られている。日々、一緒に仕事をしているから人間性はわかっていました。結局、私が彼に惹かれてしまったんですよね」
彼からの誘いが増えたということは、彼も自分に気があるに違いないとアイコさんは思っていた。そして2か月ほどたったころ、食事の帰りに「うちでコーヒーでも飲みませんか?」とアイコさんから誘った。
「それからは彼、週に半分は私の部屋に泊まるようになったんです。私の部屋に着替えも置いて。本当にいいのかなと思いながらも、まるで新婚生活みたいで楽しかった。私が残業していたら、先に帰った彼が食事を作ってくれていたこともありました。それがまたおいしいんですよ。学生時代に中華料理屋で長い間、バイトをしていたので覚えてしまったそうです。楽しかったなあ」
アイコさんは遠い目でそう言った。
コロナ禍で、彼もアイコさんも週に2、3日の出社だったため、ふたりとも在宅勤務の日は早く仕事を終わらせて、一緒にDVDを観たりときには近所のレストランで食事をとることもあった。
「在宅が多かったから、よけい親しくなるのが早かった」
ところが夏、先輩は彼女に意外な告白をした。
家に戻らないといけない
「9月ころでしたか、そのころはもう毎日出社になっていたんですが、社内の噂で、彼に第二子が産まれたと聞いたんです。彼に子どもがいるのは知っていたけど、第二子って何、と私はパニックになって……」彼に尋ねると、彼はガバッといきなり土下座した。
「つわりのひどかった妻は、妊娠がわかると上の子を連れて実家に戻ったんだ」と。子どもは三日前に産まれた、だから会社に届けたって。そうしたら総務から情報が漏れたんですね。どうして言ってくれなかったのと訴えたら、『アイコが楽しそうだったし、僕も本当にアイコのことが好きになっていたから言えなかった』と。私も泣きましたが、彼も泣いていました。それなのに、『年末には妻が戻ってくる、そうしたら家に戻らないといけない』と言うんです。わかっていたら、こんなにどっぷり彼にはまらずにすんだのにと恨みました」
恨んでもどうにもならない。わかっていながら恨まざるを得なかった。そのときすぐに彼との関係を解消すればよかったのだが、それができなかったのは「惚れた弱み」なのかもしれない。
「結局、年末に彼は荷物を全部もって自宅に戻りました。妻とはなにごともなかったかのようにうまくやっているんでしょう。でも実は、週に1回は私のところにまだ来ています。別れなければと思いながら、私も受け入れてしまう。彼は必ず泊まっていくんです。妻には副業をしていると嘘をついているみたい。帰ってきてからも奥さんはたびたび子どもを連れて実家に戻っているそうで、『相性がよくないのかなあと思うんだよね』と、また期待させるようなことを言うんです。でも、彼から離婚することはなさそうだし。あれこれ考えて、やっぱり好きだというところに行き着いてしまう。いつかバレると思いながら、彼が来る日は浮き足だっている自分がいます」
別れなければならないとわかっていながら別れられない。相手の家庭も、実はそれほどうまくいっているわけではなさそう。とはいえ、妻がどう思っているかは定かではない。そんなとき、どういう決断をしたらいいのか、彼女の迷いが伝わってきた。