「おっさん」たちの言動を憂える女性たち
「わきまえない女」やら「オリンピッグ」やら、中高年男性の「女性を貶める発言」が止まらない。現在60代以上の男性たちには、それが当たり前だったのだろうか。男性社会で毒されてきた面があると、同世代中高年女子(!)として、思い当たる節がある。
かつて新入社員だったころ、「飲み会につきあわされ、さらに風俗に行かされるのが嫌なんだよね」と言っている男友だちがいた。
「きれいごとを言うわけじゃないんだけど、お金で女性とどうこうというのが性に合わない。だけどつきあわないと社内的にはまずい。“おっさん”たちは、そういうところで新入社員を評価するんだよ。だから行くしかないんだけど、僕は先輩や上司が終わるまで、ずっと女性と話してるんだ」
彼はせつなそうにそう言っていた。
ところが30年近くたったとき、たまたまその彼とある場所で同席した。その二次会で、彼は「ここだけの話だけどさ」と、どこの風俗の女性がどうだった、どこのキャバクラがどうだったという話を繰り広げたのだ。もちろん外見を貶める発言もあった。
個人的な酒の席ではあったが、どうにも気になる。
「かつてあなたはそういう場所が嫌いだったよね」
そう言ってみると、彼は、「あのころはきれいごとを言ってたよね」と遠い目になった。
風俗に行くことがいけないと言っているわけではない。だが、お金を介在させる関係がなじめないと言っていた彼が年をとったら女性たちを外見で評価し、さらにそれを他者に言うという、彼自身が嫌っていた「おっさん」に成り下がっていることを、彼自身が気づいていないのが問題なのだ。それを指摘したが、彼は男社会になじんだ証として、そういうことを受け止めているようだった。男社会の闇は深い。
男性のみならず、女性だって男性を外見で評価する。「男は性格より顔よ。性格は変わっても顔は変わらない。だから顔が好みの男性と結婚する」と断言する女性もいる。個人的な範疇では、外見で評価するのはしかたがないのだ。
ただ、それを公的な立場の人間が、公的な場所で臆面もなく公言してしまうことが、あまりに時代遅れと言わざるを得ない。
社長の不適切発言にみんなで抗議
「うちの社長が、まさに差別感だらけの人なんですよねえ」ため息をつきながらそう言うのは、ミホさん(32歳)だ。堅実に業績を伸ばしている中堅企業なのだが、オーナー社長の発言が社内では常に問題となっている。
「先輩に言わせると、『問題にできるようになっただけ昔よりマシ』だそうですが。たとえば、午後、来客があるとする。○○会社の△△さんがいらっしゃいますと言うと、『えっと、どんな人だっけ。あー、あのデブね』という具合。本人、悪気がないんですよね。以前なんて、そういう話をしているところに当事者が来てしまったんですが、社長はゲラゲラ笑いながら歓迎していました。そういう人だから、と今までは通っていたけど、これからはそうはいかない。セクハラモラハラも含めて、社長の周りでは常に気を遣っているみたいです」
本人に悪気がない。むしろユーモアをこめているのにと本人は周りが怒るのを不本意に感じているのは、世間でもよくある話だ。だからこそタチが悪いともいえる。
「社内の懇親会のとき、私の横に来て、『きみはまだ結婚しないのか』と言ったんですよ。プライベートなことですからとさらっと流したら、『きみには結婚しないで、ずっとうちで仕事をしてほしいなあ』って。早く結婚しろと言いたいのかと思ったんですが、逆でした。それはそれで問題なので、『社長、それ、男性社員にも言いますか?』と聞いたら『いや』。『女性が結婚しても仕事をしやすいような環境を作るのが、社長の仕事じゃないですか』と言ってやりました。社長、かなり考え込んでいたとあとから側近たちが言っていましたね。これで少し変わってくれればいいんだけど」
周囲から搦め手で包囲すれば、いくら「頑固親父」でも少しは変わっていくのではないかとミホさんは期待している。社長本人が変わらなくても、代替わりしたとき、あるいは周囲の中高年男性の意識は少なからず変わっていくはずだ。
「大事なのは、そういう中高年を作らない会社の体質かもしれませんね」
新入社員を風俗に連れていく風習は激減しているようだが、そこにとどまらず、会社がフラットな目線で、男女問わず働く人全員を大事にする体質を作ることが重要なのではないか、そうすれば無意識に男尊女卑的な言葉を吐く男性が減っていくのではないかと、ミホさんは真摯な目で訴えた。
もちろん、家庭内での男女の子どもへの差別なども本質的な問題だろう。「差別」というと意図的に聞こえるが、「昔からの風習」として私たちの心に根づいてしまっている面もある。「自分は差別していない」と言い切れる人はなかなかいないのではないだろうか。