緊急事態宣言下に飲みに行く夫とバトル
食事会や飲み会が制限されている今、それでも飲み会に行ってしまう人たちがいるのは事実。夫が今までの生活を変えようとしないことに苛立っている妻も少なくない。
好きになって結婚はしたけれど
自営業の夫と結婚して13年、3人の子どもがいるモトコさん(42歳)。2年前に義父が急逝し、以来、夫の実家で義母も含めて6人で暮らしている。
「1階が事務所と作業所、2階は半分倉庫、半分は義母の部屋、3階が自宅という典型的な家内工業ですね。事業規模は小さいですが、家族と2人の従業員が生活していければありがたいという暮らしです」
サラリーマン家庭で育ったモトコさんは、同い年の夫と繁華街の居酒屋で知り合った。モトコさんは女友だちと3人で、夫も男友だちと3人で来ていて隣同士のテーブルにいたのだ。同世代のノリで親しくなり、カラオケに繰り出した。
「その中の男性ひとりが、夫のことを『コイツはこれから社長になるヤツだから』と言ってて、私はなんとなくそれが気になって。つきあうようになってから、こんな小さな会社の将来の社長かとがっかりしたんですが(笑)、そのときにはもう好きだったから引き返せなかった」
結婚、および結婚生活についてはモトコさんが最大限に譲歩してきたという。そもそも仕事を続けたかったのだが結婚してすぐに双子を妊娠、モトコさん自身もかなり体調を崩してあえなく休職。双子のひとりが生まれつき弱くて手術を繰り返したことで、モトコさんは仕事をあきらめた。その3年後に3人目が生まれ、義父母と夫は仕事が忙しくてほとんど助けを得られない状況だった。従業員の妻が見かねて手伝ってくれこともあるという。
義父母との同居についても、当初はともかく、どちらかがひとりになればそういうこともあるだろうと想定していた。
「本当は私、キャリア志向だったのに彼と結婚したことで人生が狂ってしまった。でも好きな人と家庭を作るのはやはり楽しかったし、なにより子どもにめぐまれたことが大きかったですね。でもふと考えると、夫は何も犠牲にしていない。私だけが人生を変えられてしまった。そう思うようになったのが義母と同居するようになってからです」
つきあいだからしかたがない?
義母の性格は別居時代からわかっていた。愚痴っぽくて近所の人の悪口ばかり言っている。人に感謝することを知らない。同居してみると、思っているよりさらにひどく、モトコさんは常に「私に意地悪する嫁」として扱われた。ただ、近所の人もわかっているので「大変ねえ」と同情されることも多々あったという。「気にしないようにしていても、『子どものしつけがなってない、あんたも常識がない、親が悪いんだね』と言われるとカッときましたね。夫はひとりっ子だから来てあげたのにと思ってしまう。私は長女ですし、妹も遠方にいるのでめったに実家には顔を見せられない。状況としては同じなんですよね。どうせなら私だって実家の両親のめんどうをみたい。そんな葛藤もあってイライラが募っていった。夫はどちらの味方もせずに逃げの一手でした」
そこへこのコロナ禍。昨年の緊急事態宣言のときは家でおとなしく飲んでいた夫だが、今回はほとんど自粛していない。飲み会だの同業者との会合だのと出かけていく。
「大丈夫だよ、8時までだからと出かけていくんですが、結局はそのあともやっているお店を探したり、なじみの店を開けてもらったりしているみたい。義母も高齢者ですし、子どもたちもいるんだから考えてほしいと言っても、『つきあいだからしかたないだろ』って。つい先日は『あなただってオトナなんだから、いいかげん自分のしていることを考えたら?』と思わずきつく言ってしまいました。夫はプイと出ていって明け方まで帰ってこなかった。それを知った義母は『女は男に仕えてなんぼだ』なんて言い出したので完全に私がキレてしまって……。そういうやりとりを子どもたちには聞かせたくないですね。嫁は夫を立てるものだみたいな言い方を聞くと虫酸が走る」
だんだん言い方が激しくなるモトコさん。日頃の不満が一気に爆発したようだった。家族のことを考えずに好きなようにふるまう夫への我慢は限界に来ている。
「とはいえ会社を辞めてしまった以上、私の居場所はここしかない。それがつらいですね。好きだというのはほんの一時の感情、なぜあのとき仕事を続けられるような人と結婚しなかったのか。最近、やたらと後悔の念が湧いてきます。あと10年、末っ子が成人するまではなんとか自分を鼓舞しながらがんばっていくしかないんですが」
四十を過ぎて過去を思い悩んでいることについても嫌になると彼女はため息をつく。後悔しない人生はないのかもしれないが、過去を否定しながら生きていくのもつらいだろう。
しかしながら、家族の要請を無視して飲みに行く夫は少なくないようだ。現実を考えずに自分の欲求を通さないといられないのは、モトコさんが言うようにオトナとしていかがなものかと言わざるを得ない。