バレたら態度が激変、彼にとって私は何だったのか
不倫は露見せずに関係が続くから「不倫の恋」なのであって、どちらかの配偶者にバレてしまったら、続けられる可能性は極端に低くなる。そして、長年築いてきた家庭をそう簡単に壊せる人は多くない。ただ、いつか別れが来ると覚悟しているならともかく、急に突きつけられると心の準備がないのだから当然パニックに陥ってしまう。
いけないことはわかっていたけど
結婚して16年、15歳と13歳の子がいるケイコさん(44歳)は、人知れず密かに4歳年下の仕事関係者の大介さんとつきあっていた。その関係は3年におよぶ。
「親戚の紹介で結婚した夫は8歳年上。ケンカひとつしたことはありませんが、それは夫が私を常に“下”に見ているから。私が何を言ってもまともに受け止めてくれない。だからケンカにならないんです」
何か困ったことがあれば夫は手助けしてくれる。たとえば棚が壊れたとか、高いところの蛍光灯を替えられないとか。旅行関係の会社に勤める夫は、年に1度の家族旅行の手配もしてくれる。
「でもそういうのって、私が何もできないことの証明にはなりませんよね。それなのに夫はそうやって物理的体力的に私ができないことをやっては、『まったく、キミは何もできないんだから』と言って自分を優位に見せるという手を使って、これまで生活してきたんです。だけどめんどうな隣近所の人とどうつきあうかとか、子どもたちの情緒をどうやって育てるかとか、そういう重要なことには関与してこない。私は結婚してからずっと孤独でした」
だから下の子が小学校に上がってから、非正規ながら元の職場に復帰したとき、ケイコさんはホッとした。独身時代の自分を知ってくれている先輩や同僚たちがまだいたからだ。
「仕事がらみではあるけれど、一緒に泣いたり笑ったりした仲間たちのところに帰ってこられた。そんな気持ちでした。そして他社ながら仕事関係者の大介さんと再会したとき、昔のようにポンポン言いたいことを言っている自分を発見する。
「私、そういえばこういう性格だったと改めて感じました。大介さんと話していると楽しくて笑い転げてしまう。彼も『変わらないなあ』とうれしそうで……。そこから時間をかけて距離が近くなっていきました」
お互いに家庭がある。いけないとわかってはいた。だが互いを求める気持ちに偽りはなかった。
ある日、突然電話がかかってきて
密かに静かに、誰にも知られないよう関係が始まり、続いていった。ゆっくり会えるのは月に1度くらい。ふたりとも危険はおかさない、無理はしないと約束していた。「その代わり、いつかふたりで暮らしたいと話していました。どこに住もうかとか、彼が得意料理を作ってくれるとか、夢のような話をして今のつらさから逃げていたのかもしれません」
3ヶ月前、彼女のもとに彼の携帯から電話がかかってきた。電話連絡はあまりしたことがなかったので不思議な気はしたが出てみるとーー。
「いきなり、『人の夫をよくも誘惑してくれたわね』と金切り声が。彼の妻でした。『うちの夫はあんたとつきあいたかったわけじゃない、かわいそうだからつきあってやったって言ってるけど、どうなの?』と言われ、バレたショックとその言葉の強さにびっくりして何も言えませんでした。『ほら、あんたがバシッと言ってやりなさいよ』という声がしたかと思うと彼が電話に出て、『もうこれ以上、誘惑するのはやめてほしいんだ』と。何を言ってるのと反論しようとするとまた妻に代わり、『私の夫は人がいいから、あんたみたいな女に引っかかっちゃったけど、夫がいちばん愛しているのは私。あんたなんて目じゃないからね』と。そのまま電話は切られました」
もちろん彼は言わされているのだ。そうであっても、4年もつきあってきた女性に、妻に言われた通りの言葉を投げつけるのはあんまりだとケイコさんは思った。
「いつか別れが来るかもしれないと漠然と思っていましたが、そのときはきれいに別れたい、ふたりで育んできた愛情を汚したくない。私はそう思っていました。でも彼はあっさりと私たちの関係を汚いものにしてしまった。それが許せなかった」
それ以来、自分は彼にとってどういう存在だったのかをずっと考え続けていると彼女は言う。仕事で顔を合わせたこともあるが、彼は一度も彼女の目を見なかった。彼女への思いを封印しているから見られなかったのだろうと推測するが、彼女には「私との関係を恥じているから」と思えたそうだ。
「私を好きだと言った彼の気持ちまで、今では本当のことだと思えなくなって。それと同時に私が女として魅力がなかったんだろうとも思う……」
あまりにつらくて今は心療内科に通っているというが、医師には詳細は話していない。眠れない、食べられないという症状を訴えただけだ。
「フラれたことがつらいんじゃなくて、彼が偽りで私とつきあっていたのではないかという疑問がわいてきたことがつらいんです」
若いころとは恋の質も違うんですね、と彼女は深いため息をついた。