結婚に“飽きて”しまう私
世の中には何度も結婚する人がいる。3度目の結婚が7年を迎え、ようやく落ち着いたと思ったら、「この結婚に飽きてきた」という女性に話を聞くことができた。彼女はなぜ結婚に飽きるのだろうか。
慣れと刺激のバランスがむずかしい
「結婚には馴れ合いのよさがあると思うんですよ。それが手に入ったとき、刺激は失われる。そうなるとまた、茨の道を歩きたくなる。そんな感じでしょうか(笑)」ヒロカさん(44歳)は笑いながらそう言った。彼女が最初に結婚したのは、26歳のとき、就職して3年目、大学の同級生とだった。ところがこの結婚はわずか1年で破綻する。
「私が妊娠中に夫が帰ってこなくなって。そのまま行方がわからなくなったんです。同じ会社の人妻と駆け落ちして。すごいでしょう? 夫から離婚届と一緒に手紙が送られてきて、そこにすべて書いてありました。すぐに離婚届を提出しました。だってそこまでやるなら本気でしょうから」
ヒロカさんはひとりで出産、家庭を持っていた姉一家の近所に住み、助けを借りながら娘を育てた。仕事があるからなんとかがんばってこられたのだという。そんな彼女が2度目の結婚をしたのが30歳のとき。
「娘が2歳半でした。友だちの彼に一目惚れしちゃって。もちろん、私からアプローチはしていませんよ、友だちの彼だもの。だけど彼が私の仕事がらみの話を聞きたいと連絡をくれたんです。それ、結局はきっかけ作りだったんですけどね。彼のほうも私のことが気になっていたとあとから言っていました」
友だちと彼は、つきあって3年。結婚を視野に入れていたという。それなのに、ヒロカさんと彼はお互いに一目惚れしてしまったのだ。彼は彼女と別れ、ヒロカさんと結婚。当然ながら、友だちは一気にいなくなった。
「私も彼もいっさい言い訳はしませんでした。好きになってしまったものはどうしようもないですよ。そのとき、私は前の夫の気持ちがよくわかった。すべての人を敵に回しても、この人と一緒になりたいと思うことがあるんです」
それなのに、この結婚は5年しかもたなかった。彼との間に息子が生まれたものの、彼は彼女の連れ子である娘のこともとてもかわいがっていた。それなのに夫婦はどこかから亀裂が入っていった。
体が離れると、心の距離ができていく感じ
夫がいて子どもがふたりいて幸せだったとヒロカさんは言う。幸せなのに、だんだんその幸せが色褪せて見えるようになったそうだ。「私は何でも、『こんなものだ』とか『これでじゅうぶん』と思えないんです。だから落ち着いた幸せを押しつけられているような気になってしまって、これじゃない、私が求めているのはここじゃないという気持ちがわき起こって。夫の誕生日にみんなでお祝いしたその晩、『離婚したい』と言っちゃったんですよ」
幸せが怖いのかもしれないとヒロカさんはつぶやいた。このままだといつか不幸になるかもしれない、自分が成長できなくなるかもしれないという不安があるのだろうか。
離婚を承諾しないと思っていた夫は、比較的あっさりと「子どもに会わせてくれるなら離婚してもいいよ」と言った。
「2番目の夫はたぶん私の性格をいちばん理解していたんでしょうね」
そして2年後、3度目の結婚をした。夫は8歳年下だから、ふたりの子をもつ自分と結婚などしないだろうとヒロカさんは考えていた。ところが夫はせっせと家に通ってきて、子どもたちを手なづけてしまったのだという。
「彼と知り合ったころ、娘は7歳、息子は3歳でした。ふたりともすぐに懐いたんです。ただ、かなり年下だったので私が逡巡しました。それでも新しい恋をあきらめることはできなかった。恋をするとずっと好きでいられると思ってしまうんですよね。我ながら本当に学ばない女だとわかっているんですが」
恋多き女とひと言で片づけるのは何かが違う。するとヒロカさんは、「私、おそらく相手に飽きるというよりはセックスに飽きるのかもしれない」と言い出した。
「今の結婚は7年ですが、そのうち3年はレスなんですよね。夫はやさしすぎて、1度断ったら迫ってこなくなった。私から誘うのもめんどうになって、それきり。体が離れると心の距離もできていく。私はそういうタイプみたいです」
夫のほうは心を寄せ合って生きていると思っているようだ。そうなるとますます、彼女は「夫は何もわかっていない」とイライラする。
「友だちには、そこだけ外注すればと言われましたが、それもできないんですよ、私。しれっと浮気できるくらいなら、こんなにつらく思わないんでしょうけど、なぜかそこは変にきまじめなんです」
理想の夫婦になれない関係をつらく思い、かといって息抜きに婚外恋愛というわけにもいかない彼女の性格が、いっそすべて壊してしまおうと離婚に向かわせるのかもしれない。
「今度こそと思って結婚したのだから、離婚せずにがんばろうと思っているんですが、どうなるか……。どうして人が1度ですむことを私は3回もして、さらにそれもまた壊したい欲求にかられているのかわからないんですよね」
苦笑しながらそう言うヒロカさん。仕事も子どもとの関係もうまくいっているが、どうしても結婚だけが自分になじまない。そんな女性はヒロカさんだけではないのかもしれない。