「私はサレ妻」と開き直ってすっきりした妻
夫の不倫で苦しむ妻たちは、どうやって自分のプライドを保っているのだろうか。夫のしたことだから私とは関係ないと突き放せる人など、そうはいない。多くの女性は「どうして?」「私にも悪いところがあったのだろうか」と悩んでしまうのだ。
夫の不倫による実害は大きかった
「夫が不倫をしたとき、夫婦だけで話し合いができればよかったんですが、うちの場合は相手のせいでご近所にまで知られてしまったんですよね」
苦笑しながらそう言うのは、カホさん(44歳)。2歳年上の夫が不倫をしていると気づいたのは2年前。夫はカホさんの要請に応えて、目の前で彼女に電話をかけ、別れ話をした。これが相手の怒りに火をつけたようだ。
「どうやら2年ほど関係が続いていて、夫は『いつか離婚するから』なんて調子のいいことを言っていたようです。彼女は当時、29歳。30歳までには結婚してくれるって言ったと私にも告げていました」
夫はカホさんに土下座して謝罪、相手は会社の部下であること、最初に調子のいいことを言ってしまった手前、別れられなかったことなどを涙ながらに話した。
「それを信用したわけじゃないけど、あなたはどうしたいのかと聞いたら、家庭を壊したくないとはっきり言ったので、私が許すかどうかは別として、彼女とはしっかり別れてもらうしかないと結論を出したんです」
それで彼女に電話をかけたというわけだ。ところがその数日後の夕方、彼女がいきなりやってきた。カホさんは子どもたちがいる自宅に彼女を入れるわけにはいかないと、オートロックを解除せずマンションのエントランスまで降りていった。入り口の扉の向こうに女性の姿が見えた。カホさんが開けると女性はカホさんに食ってかかってきたという。
「あんたがいるから彼は私と結婚できないのよって叫んで。ちょうど帰宅時間でしたから、マンションに人の出入りもあって、みんな見ていましたね。叫び声が道路にまで聞こえていたから覗く人もいましたし。落ち着いてと言っても彼女は金切り声を上げるばかりでした」
警察を呼ぼうとすると、彼女は一目散に逃げ出した。
夫の帰宅後、カホさんはことの顛末を話し、このままでいいのかと尋ねた。夫は彼女と話してみると答えたという。
話は不調に終わって
ところが夫はまた彼女を怒らせてしまったようだ。彼女は会社に曝露、さらにカホさん一家が住むマンションのポストにビラを入れた。「○○号室の○○さんは不倫しています。相手の女性と結婚の約束までしていたのに突然、裏切りました。そんな内容のビラで、夫の顔写真入りでした。夫は上司に呼び出されて話を聞かれたそうです」
ただ、夫は仕事もでき部下からの人望も厚かった。彼女はエキセントリックな人物だったらしく、夫が彼女の罠にはまったのではないかとする声まであったという。
「そこが唯一の救いでした。夫は仕事は失わずにすんだので。彼女は異動を打診されて結局、会社を辞めたそうですが、辞める前に夫と撮った写真などを会社の人事や広報宛てに流したそうです。ベッドでの写真だったらしく、夫の脇が甘いんですが、そういう写真を流す彼女に対しても非難があったようですね」
とはいえ、社内で夫は小さくなるしかなかったし、近所でも夫婦で人目をはばかるしかない状態が続いたという。
「そんなとき、マンションの自治会がありまして。周りの人たちが私に気を遣っているのがわかるので、まず最初に挙手をしました。『あの、私、サレ妻なんですが、このたびはみなさんにもご迷惑をおかけしたこと、心からお詫びします。ごめんなさい!』と大きな声で言いました。みなさん、夫に会ったら『バカだね』と言ってやってください、とも。そうでもしなければ周りの人たちの目に耐えられなかったんです」
ある意味で開き直って、「私たち夫婦をいじってもいいよ」と訴えたのだという。カホさんが特に気になったのは、周りの人たちの「憐れみ」だった。だから自ら「サレ妻です」と開き直るしかなかったのだろう。
自分から噂の中に飛び込んで本心をさらしてしまう。それがいちばん終息しやすいのではないかと考えたようだ。
「それからマンション内では噂がおさまったみたいです。子どもたちも学校で多少いじられたかもしれないけど、いじめにはならなかった。あとから仲良しのママに、あれだけ開き直られたら、噂すらできないわよと言われました。自分が恥をかけば家族を守れるのなら、いくらでも恥をかきますよ、私は」
それがカホさんの妻、母としてのプライドなのかもしれない。知られてしまったものは確かにどうしようもないのだ。自ら開示してしまったほうがラクになれる。
「職場での夫の名誉回復は自分でやってくれって感じですけどね」
あれから2年弱。夫はごく普通に生活している。カホさんはときどきチクリチクリと意地悪な言葉を夫にぶつけながらも、今のところは無事に暮らしている。
「このことが夫婦関係や家族に影響してくるのは、もう少し時間が経ってからかもしれません」
今後の夫の態度いかんだと彼女はまたも苦笑した。