子供のために離婚しない=子供の幸せ、のはずだった……
弁護士相談プラットフォームを運営する株式会社カケコムが、離婚経験者100名を対象に2020年6月に行った「離婚の決断理由に関するアンケート」の結果を公開しています。それによれば「離婚に迷った理由」のなかで最多だったのは「子どもへの影響を考えたため」でした。
離婚は子供に悪影響を与える……と思う方も多いと思いますが、果たしてそれは正解なのでしょうか? お二人の事例を見てみましょう。
「息苦しい家から出たい!」娘の涙に後悔
「私たちはいわゆる『授かり婚』だったんですが、今考えると安易だったと思います」とつぶやいたのは美波さん(39歳・仮名)。
交際半年で妊娠し、そのまま結婚。あれよあれよという間に娘が生まれ、気が付いたらパートナーとは「男と女」ではなく「父と母」の関係になっていました。
「半年しか付き合っていなかったので、お互いのことをあまり深く知らなかったんです。結婚した後に彼に多額のローンがあることを知ったり、疑り深い性格で、私の行動を監視したりネチネチと文句ばかり言うことに気づいたり……。でも私は、絶対に離婚したくなかったんです。なぜなら、両方の実家から『デキ婚なんてすぐに破局する』と大反対されたのを、『絶対に大丈夫!』と押し切って結婚した経緯があったから」
「それに世界で一番大切な娘のことを考えると、離婚するべきではないと思っていました。だって、離婚してもローンに追われる夫からの養育費はあてにできないし、私のパート収入では“貧困シングルマザー”になることは目に見えていましたから。離婚したら絶対に娘が不幸になる。彼女が成人して家を出るまでは我慢しようと思ったんです」
そこからの美波さん夫婦は、まさに仮面夫婦。娘のいない空間では全く無言で、必要な連絡はメールやLINE。娘が一緒にいるときだけは無表情で最低限の会話。そんな生活を「娘の幸せのため」と10年上続けてきた美波さんでしたが、それが間違いだったとわかったのは、彼女が全寮制の高校に進学したいと言い出した時でした。
娘が泣きながら言った言葉は「ママとパパが憎み合っているから、家の中が冷たくて息苦しくて嫌だ。こんな家から早く出たい」だったそうです。
「最終的に娘は全寮制の高校への進学を選んだので、私たちは離婚手続きを進めています。将来は私と娘の二人で楽しく暮らして、辛かった彼女の子供時代の埋め合わせができたらと思います」
「僕に遠慮してない?」息子の言葉に背中を押され……
「子供たちの言葉に背中を押されて離婚できました」とほほ笑むのは香里さん(45歳・仮名)。離婚前の香里さんと二人の息子は、毎日夫の顔色をうかがいながら生活していたようです。夫は20代で起業したITベンチャーの社長。独自のアイデアからヒット製品を生み出す天才経営者である一方で、家族に対しては常に高圧的な独裁者でした。「とにかくちょっとしたことで機嫌を悪くするんです。例えばビールが冷えていないとか、TVのリモコンがいつもの所にないとか。そんなことで急に顔色を変えて『どうなっとるんやー!』とキレだします。私や子供たちに直接手は出しませんが、椅子を蹴り倒したり、物を壁に投げつけたりします。何がきっかけで怒り出すかわからないので、『とにかくお父さんの機嫌を損なわないように』と、びくびくしながら生活していました」
そのうち、長年のストレスにより香里さんは起立性調整障害を発症。めまいや動悸で、朝、起きられなくなってしまったことで、夫の暴言はさらに加速していきました。
そんな状態が半年続いたある日、中2の長男が「お母さん、お母さんはずっとこのままでええん? 今のままでしあわせなん? 僕に遠慮してないん? とうさん、こわいんちゃうん?」と香里さんに聞いてきたそうです。
「息子の言葉にハッとしました。口には出しませんでしたが、『息子のために我慢しなきゃ』って思っていたことを見抜かれていたんだなと。そして、『僕かて、僕のためにお母さんが逃げないんはいやや。自分のやりたいようにやったらええやん』と言ってくれたんです。それを聞いて。『ありがとう。お父さんと離婚してええん?』と聞いたら、『それはお父さんに聞いて。僕もお母さんと一緒に家を出るからな』と言ってくれました」
その後、香里さんは起立性調整障害の原因は夫のモラハラにあるという理由で弁護士を立て、無事に離婚が成立。息子たちの親権も獲得しました。
「離婚することで、子供に迷惑を掛けたくない」という気持ちも理解できます。
しかし、離婚によって両親がバラバラになるのと同じぐらい、同じ家にいるのに両親がバラバラであることも、子供にとっては辛いということが、これらの事例から見えてくるのではないでしょうか。もちろん、子供の性格、考え方、年齢、にもよります。
「仲が悪いのはわかっているけど離婚は嫌だ」とかたくなに伝える子供もいます。離婚で転校になるのはいや、友達に同情されるのがいや、家に一人でいる時間ができるのはいや。反対の理由を全部聞き出して、納得できる説明ができるかが肝です。子供が漠然と反対しているなら、時期をずらして動くことも必要です。「子供が反対」と思い込んで永遠に我慢をするのは避けてください。辛い老後を過ごすことになります。