彼を信じたかった女性がかかった甘い罠
ロックバンド「BUNP OF CHICKEN」のベース直井由文さん(40歳)が、既婚であることを隠して女性とつきあっていたと「文春オンライン」が報じた。既婚であることを女性は見抜くことができなかったのだろうか。実際に、既婚者と知らずに男性とつきあったことがある女性に話を聞いた。
独身だと聞いて信じていた
「今でも体がねじれるくらい悔しいんですが、私も既婚と知らずに2年もつきあっていたことがあります」
そう言うのはキクエさん(36歳)だ。33歳のころ、骨折して入院した病院で、リハビリを担当してくれたのが2歳年上のフミオさん。彼の笑顔に支えられてリハビリをがんばった。
「退院するとき、彼に連絡先を聞いたんです。通院するときまた会いたいからと適当な理由をつけて。彼は『そういうの禁止されているから。でも特別に』と教えてくれました」
リハビリをしているとき、さりげなく「私は独身だし、ひとり暮らしだから」と彼にアピールしたことがある。彼もまた、「僕も独身で」と言っていた。だからこそ連絡先を尋ねたのだ。
「通院のたびに彼に連絡したんですが、あちらは仕事中だからなかなか会えなくて。でもある日、『今日は早帰りができるんですが、忙しいですか』と連絡がきました。私は仕事に復帰していましたが、その日は定時で帰れそうだったから、繁華街で待ち合わせしました。食事をしてカラオケに行って。楽しかった。彼も『こんなに笑ったのは久しぶりだよ』と帰りにそっと肩を抱き寄せてくれて」
それからときどき会うようになった。彼の生い立ちも聞いたし、お互いに自分のことを相手に知ってもらいたくていつも話が弾んだ。
「デートをするようになって5回目くらいかな、彼が『あなたの部屋に行きたいな』と。そんなこともあるかと思って片づけを進めていました。彼はタクシーで送ってくれて私の部屋の前で一緒に降りたんです」
甘い夜だった。だが彼女が彼に酔って眠りにつき、朝目覚めると彼はいなかった。
「すぐに彼からメッセージが来ました。今日は早朝から仕事なので一足先に出ます、と。朝5時ですよ。いくらなんでもと思っていたら、『一度帰って着替えないと。前日と同じ洋服だと女性の看護師さんたちからいろいろ言われるから』と笑顔の絵文字が。男性も大変なのねと思いましたが、『今度は着替えをうちに置いておけば』と書いたら、『そうだね』とまた笑顔」
彼とならつきあっていける、彼もその気だとキクエさんは実感したという。
怪しさに向き合う気になれなくて
つきあっていく中で、「彼とは価値観が違うんだな」と思ったことは何度かある。「半年くらいたったとき、私の親友たちに会わせたいと思ったんです。でも彼は『僕はキクちゃんとふたりきりで過ごしたい』と。友人たちに評価されるのが怖いとも言ってましたね。評価なんてしないよと言ったんですが、まあ、男性にはそういう面もあるかな、と。まだ半年だしとそのときは自分の気持ちを抑えたんです。彼は『いつか公にお披露目できるじゃない』と結婚をほのめかしてくれたので、それで満足しちゃったんですよね」
もちろん彼の友だちに会うこともなかったし、勤務先近くで会うこともいやがった。会うのはもっぱら彼女の自宅に近い居酒屋や大きな繁華街などだった。
「映画はときどき一緒に行きましたが、彼は基本的に忙しいから、思うように会えないこともあった。でも私がストレスフルになりそうになると、夜中でも来てくれるんです。そこに愛を感じていました」
つきあって1年半を過ぎたころ、彼女が夏休みに実家に帰ろうと思っていると伝えると、彼は「あとから僕も行っていいかな」と言い出した。
「大歓迎だと伝えました。実家に泊まってもらいたかったけど、彼はあまり時間がとれないと。私が先に実家に帰っていて、彼が来たら数時間過ごし、その日はどこかに泊まろうというプランを立ててくれました」
彼は親の前で、「大事につきあっています」と挨拶してくれた。結婚という言葉は出さなかったが、キクエさんの幸せそうな顔を見て、親も安心したようだった。
「病院勤務の理学療法士というだけで親も信頼していましたね」
その晩は彼が予約してくれたホテルに宿泊。自分の生まれ育った街を見ながら、彼女は幸福感に包まれたという。
「帰ってきて数ヶ月後、私の携帯に知らない番号から電話がありました。メッセージが入っていたので聞いてみたら、なんと彼の妻を名乗る女性から。まさかそんなことがあるわけないと思いましたけど、コールバックしてみたら完全に怒りまくった女性の声が……。奥さんがいるなんて知らなかったと言ったら、『知らないわけないでしょ、ふざけるんじゃない』と怒られて」
あわてて彼に連絡をとろうとしたがとれなかった。メッセージを残してもかかってはこなかった。SNSで連絡をしようとするとブロックされていることが判明。
「何がなんだかわからなかった。翌日、仕事を休んで病院に行ってみました。リハビリの部屋のほうへ行こうとしたら、知っている看護師さんに会ったんです。彼がいるかどうか尋ねると『今日はお休みなのよ』って。そのままそそくさと去っていったので、なんだかヘンだとリハビリの部屋を見ると彼がいたんです。でも足を踏み入れようとしたら阻止されて」
彼はおそらく、キクエさんをストーカーであると言って周りの助けを求めたのではないかと彼女は考えた。このままでは気がすまない。彼女は彼を待ち伏せた。
「病院から出てきたところをつかまえました。すると彼、私の顔を見てすごい勢いで逃げ出したんです。追いつくことはできなかった」
今まで「あれ?」と思ってきたことが次々と浮かんできた。彼の住所を教えてもらえなかったこと、家が狭くて汚いから招待できないと言われたこと、人が多く集まる遊園地などには行きたがらなかったこと、そして彼女の自宅では一度も朝食を一緒にとらなかったこと。
「アヤシいところはたくさんあった。だけどどれもひとつひとつは大きなことではないから、それほど深く気にしたことはなかったんです。いかにも挙動不審といったところはなかったし」
友人たちは弁護士を立てて闘ったほうがいいと言ってくれた。彼女は妻から訴えられたら反撃するつもりだったが、発覚してから半年、彼からも妻からも音沙汰はない。
「2年近くつきあっていたから騙されたとは思いたくない。でも終わらせ方が最悪ですよね。彼が土下座して謝ってくれたら、私は身を退きますよ、何も言われなくても。逃げて終わらせてもいい相手だと思われたのが悔しくてたまらないし、そういう人間性の男に惹かれた自分も情けない」
彼女は苦しそうに顔を歪めた。好きだからこそ言い出せなかったのかもしれないが、やはりバレたときの男の態度いかんで、女性を事実以上に傷つけることになるものだ。この傷からキクエさんは「一刻も早く立ち直りたいです」と自分に言い聞かせるようにつぶやいた。