子育て

早生まれは大人になっても不利!? 跳ね返す方法とは?

先日、ネット上で話題となった「早生まれの不利は大人まで続く」という研究発表をご覧になった方もいらっしゃるでしょう。そこでは、生まれつきによる差は長く続くという結果が出ていますが、本当に早生まれは不利であり続けるのでしょうか。

佐藤 めぐみ

執筆者:佐藤 めぐみ

子育てガイド

早生まれが本当に不利であり続けるのならば、成す術がないのではないか

早生まれは不利を跳ね返すために心がけたいこととは?

早生まれは不利を跳ね返すために心がけたいこととは?

先日、ネットのニュースサイトが、「生まれ月による差は想像以上に長く続く」とする東京大学大学院の山口教授による研究結果を取り上げ、その記事がその後ツイッター上で議論を呼びました。

早生まれは不利ということは、実際によく言われていることですが、それが幼少期に留まらず、その後も続くことがあるというのがこの研究で導かれた結論。”生まれ月”は親も子ども自身も選べないものだけに、正直、戸惑います。本当に早生まれは不利であり続けるのでしょうか。
 

議論を呼んだ研究の概要とは

今回のニュース記事が大きな話題になったのは、やはり、自ら選ぶことができない”生まれ月”についての言及だったからなのではないでしょうか。そのニュース記事の概要としては、早生まれの不利は、高校入試の際の偏差値や30代になっての所得の差など、長きに渡り続きやすい傾向にあるということ。このようなことが起こりうる背景として、その子の”認知能力”と”非認知能力”の育みのアンバランスさが関係しているのではないかということでした。

認知能力というのはいわゆる学力的な力で、非認知能力は気持ちをコントロールする力や社会で他者とうまくやっていく力などの心の領域。早生まれの場合、親は認知能力に対する働きかけ(例:早生まれだからたくさん勉強をして追いつこう)は熱心に行う一方、その分、勉強に時間が削がれ、友達と外で遊ぶというような非認知能力の育みが十分でなく、そのアンバランスさが社会に出てからも影響してしまうのではないかと言っています。
 

学年で一番年上ならば優位なのか

これが今回のニュース記事の概要ですが、では、学年で一番年上であることは、その子に優位性を生むのでしょうか。もちろん、3月生まれの子を4月生まれに変えることはできませんが、海外には「レッドシャーティング(Redshirting)」というシステムがあり、要は、早生まれの子が学年を1年落とすことが可能です。日本でたとえるなら、「うちは3月生まれだから、1年待って入学させよう」というような選択肢のこと。もしこういう対応をすれば、その子はクラスで優位な立場に立ちやすくなるのでしょうか。
 
2008年に行われたハーバード大学の研究によると、入学を1年遅らせた子は、後々、学業不振に陥る確率が高く、高校、大学などを中退したり、経済的にも思わしくない結果が出たそうです。
 
このことからも、学年で月齢的に優位に立つことが、必ずしもその子にとっていい結果に結びつくわけではなく、実際は自分が置かれた学年になじんでしまったり、悪い方へ転じる可能性もあるわけです。
 

努力家が多い早生まれっ子、やる気の上がる声かけがカギ

私もこれまで、育児相談などで早生まれについて親御さんから質問を受けたことがありますが、それらを踏まえて私が感じているのは、「早生まれをどう捉えるか」が大きく影響するのではということです。それを見事にバネにしている子たちがいるからです。
 
早生まれの子は努力家が多いともいわれており、それは生まれ月による違いを努力でカバーした表れでもあります。実際にある調査では、自分よりも月齢が上の子たちに追いつこうと頑張っているうちに、結果的に追い抜いてしまう傾向があったそうです。努力する習慣というのは、その時点でプラスになるだけではなく、その子の精神性としてその後もずっと支えてくれる大切な資産です。
 
もちろん、こういう努力の過程では、辛さを乗り越えなくてはいけなかったり、がまんしなくてはいけなかったり、友達との協調が求められたりすることも多々あるでしょう。これは、まさに先述の研究で出てきた非認知能力の育みにもつながる大切な部分。親がとくに意識して、上手に支えていけると理想的です。
 
基本的に、子ども自身が「自分は早生まれだから」と気にすることはまずありません。気にしてしまうのは親であり、「うちはまだ○○できない」と他の子と比較し、不安になったり焦ってしまうことはよく見られます。そういう不安の中で努力をさせると、どうしても声かけも「もっとちゃんと」「しっかりやって」と厳しいものになりがち。もちろん追いついてほしいという親の愛情からの言葉なのですが、受け取る側の子どもからしたら、「自分はダメなんだ」という印象を受けがちです。小さい子ほど、自らコツコツ努力するのは難しく、周囲の温かい声かけによって伸びていくので、やる気が続くような配慮が大事になってきます。

たとえば、
「もう何やってるの! ○○ちゃんを見てごらん」
「5歳なら、これくらい普通にできるよ」
と他の子と比較されるよりも、

「前回より早くできてるよ!」
「昨日より上手に書けてる!」
とその子の中での成長を比べ、その進歩を口にしてくれた方が、どんな子でもモチベーションは上がりやすくなります。

上手な声かけは、その子のその瞬間のモチベーションに直接的に結びつくだけでなく、将来的な自分への肯定感や自信にも間接的につながっていきます。「前回より早くできてるよ!」がたとえ数秒の小さな小さな進歩であっても、それに気づいてあげてほめ言葉を出せるかは、努力を重ねるときの大事なポイントになるのです。
 

大人になった時のことを見据えた視点を

育児をしていると、どうしても目の前で起こっていることに注意がいってしまうもので、今できていないこと、とくに、「他の子はできているのに、自分の子はできていないこと」が気になってしまうもの。でも、これから3年、5年と経過すると、「あの時はあんなことに悩んだこともあったなぁ」と思えることがほとんどです。小さいときほど、数カ月の月齢差が大きな違いとして感じられるものですが、目線を変え、「大人になったときにこの子に何を残してあげられるか」という視点を持つことはとても大事です。
 
大人になれば、遅生まれ、早生まれどころか、年代が違う人たちの中でもまれていくのです。幼少時はどうしても”1学年単位”で子どもを捉えてしまうことが多いため、早生まれが余計に気になってしまうものです。でも、大きなスパンで考え、早生まれをバネに”努力する習慣”を身につけられれば、それは大きな武器にさえなるのです。大人になれば、同期よりも先輩の方が多いもの。その世界に早くから慣れるのだと捉え、一緒にいられる時期にしっかりと横で励まして努力をつむいでいけると、早生まれは不利ではなく、武器に変わっていくことでしょう。

*出典: Journal of Economic Perspectives (2008). 「The Lengthening of Childhood」

 
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