夫の更年期に右往左往させられる日々
女性ホルモンが減少して更年期を迎え、閉経するのは女性の人生にとってはごく自然なこと。もちろん、更年期に伴うさまざまな心身の症状が表れたら受診したほうがいい。だが男性にも更年期があることは、いまだにあまり知られていないようだ。
私の更年期に冷たかった夫
40代半ばころから更年期症状がひどくなったマドカさん(49歳)。最初はかかりつけのクリニックに行ってさまざまな検査を受けた。
「最終的に医者が更年期かもしれませんと言ってくれたので、ああ、そうかと婦人科に行きました。更年期が来ると思っていても、実際には人に聞いていたのと違う症状が出るので、つい別の病気を疑ってしまっていたんですよね」
33歳のとき、5歳年下の男性に押し切られるように結婚。ひとり息子をもうけてからも共働きを続けてきたが、夫はマドカさんの更年期に対してほとんど心配も共感もしてくれなかった。
「私の場合はとにかく気持ちの落ち込みがひどかったんです。否定的なことばかり言ってしまう自分がイヤで、また落ち込むというネガティブループにはまってしまった。夫は当たらずさわらずというか、私が暗い気持ちでいると、そうっと離れて話しかけてもこなかった」
思春期の息子は、そんな母にどう対処していいかわからなかったのだろう。部活に打ち込んでいたこともあり、帰宅がどんどん遅くなっていった。
「婦人科につながるまで2年かかりました。ようやく受診して、ホルモン療法を受けるようになって徐々に落ち着いていきました。主治医の女医さんが信頼できる人だったからすごく安心したのも快方への助けになりましたね」
家庭内が平穏になったと思ったのもつかの間、1年半ほど前から今度は夫の様子がおかしくなった。
「彼、職場から出向を命じられたんですよ。夫はもともと柔軟性があまりない。だから私の変化にも対応できなかったんですが、自分の立場が変わったことにも対処できなかったようです。やっと私がよくなって、またバリバリ働くぞと思い始めたときのできごとで、夫は日に日に無口になっていきました」
へたに刺激をしてもいけないと思い、励ましたり慰めたりはしなかった。それでも「何かあったら話してね。私はあなたの味方だから」と常に声をかけた。
夜中も眠れずに寝返りやため息を繰り返すため、せっかくよくなったマドカさんの体調もまたおかしくなってきそうだった。
うつ病を疑って
たまたま出向の話があったため、マドカさんは夫がうつ病になっているのではないかと心配した。病院を受診するよう勧めてみたが、夫は頑として病院に行こうとはしない。「そのうち、オレなんか会社にも家庭にもいらない人間だよと言い出して。出向先でもやる気がなさそうだし、私から誘ってもセックスもない。それどころか『オレ、もう一生できないと思う』と情けない声を出すんです。そのときふっと気づいたんですよ。夫も更年期なんじゃないか、と。だから泌尿器科に行くように勧めたんです」
男にも更年期がある、男性ホルモンが減ってストレスがかかったりするとそういう症状が出ることがあると簡単に説明した。泌尿器科なら行きやすいと思ったのか、夫はやっと病院を受診、思った通り男性更年期だと診断がくだった。
「更年期だとわかれば気が楽になるかと思ったら、それはそれでショックだったみたい。ホルモン療法をしながら、『年上の奥さんだから、引っ張られてオレも更年期になっちゃったのかな』なんて言うのでカチンときて大げんかになったりもしました。何かあっても自分で責任をとろうとしない、人のせいにする彼の性格が浮き彫りになって、離婚すると大騒ぎになったこともあります」
今年になってようやく夫は気持ちが落ち着いてきたようだが、あのころの暴言をマドカさんに謝ろうとはしない。それが彼女の心にひっかかっている。
「実は夫は妻が年上であることを気にしていたのではないか、本当は若い人と結婚すればよかったと思っているのではないかと強迫観念にとらわれるようになったんです。夫への不信感は今も続いていますが、息子も多感な時期なので、揉めごとは起こさないようにしています」
更年期という人生の節目の状況で、夫婦の間に溝ができてしまうなんて情けないとマドカさんは苦しそうに言った。ただ、そういう時期だからこそ、さまざまなことを否定的にとらえてしまうのかもしれない。もう少し時間がたってから再度、夫婦関係を見直してみても遅くはないのではないだろうか。