やり直そうと決めたのに、夫を責め続けてしまうのがつらい……
夫の浮気が発覚、夫婦で話し合った結果、やりなおそうと決めた。それなのに、世間で有名人の不倫が話題になるたび、妻は当時のつらさが蘇り、夫を責めてしまうという。
夫の浮気のカタをつけて
エリコさん(42歳)が友人の結婚式のパーティーで知り合った男性と2年間つきあったのちに結婚したのは30歳のとき。彼は4歳年上だ。
「ふたりとも仕事が好きだったし、結婚はしたいけどなかなかそのための時間を割くのもめんどうだよねという感じだったんです。そのうち私の妊娠がわかり、すぐに婚姻届を出しました。きっかけはそうでしたけど、私にとっては自分史上、最高の恋愛だったと思っています」
大好きな彼と一緒に暮らせるのはうれしかったが、生活が変わったことへのストレス、妊娠したことの喜びと不安など、彼女は矛盾するような葛藤に苦しめられた。それを彼はわかってくれなかったという。
「彼はいい意味でシンプル、悪く言えば単純なんですよ。結婚してうれしい、子どもが生まれてくるのが楽しみ。それだけなんです。結婚はうれしかったけど私は名字が変わったストレスもありました。どうして私だけが大変な思いをしなくちゃならないの、というのは妊娠がわかったときも同じ。体調が悪かったですから」
ふたりで家庭を作るはずなのに、大変なことだけは自分だけが背負っていくのかとエリコさんはゆううつになった時期もある。
それでも30歳で第一子、2年後に第二子を産んだ。
それからは、とにかく「生活していくだけで必死」の日々。子どもふたりを育てながら仕事を続けていくのは並大抵なことではなかった。夫は「言えば手伝うタイプ」なので、朝も夜も、夫がいるときはエリコさんの指示が飛んだ。
浮気がわかったのは3年前。忘れもしない、下の子の小学校入学式の日だった。
「来賓の都合かなんかで入学式の終了が少し遅くなったんです。その後、子どもと写真を撮ったりしていてさらに時間が押してしまった。夫は、すぐに出社しなくちゃと妙に急いでいた。そこへ電話がかかってきたんです。急いでいると言った手前、電話に出ないわけにいかない。でも夫の電話から、『ずっと待ってるのにどうしたのよ』という大きな女性の声が聞こえてきたんです。夫は慌てて私から離れていきました」
これはただ事ではない。夫は浮気している。そういえばこのところ様子がおかしかったとエリコさんはピンときた。
その日の夜、問いつめると夫はあっさり白状した。それどころか、もう別れたいのでバレてちょうどよかったと涙目になっていたという。相手の女性にはエリコさんが会って、きちんと別れ話をした。
「有無を言わせず『別れます』と彼女に言わせましたけど、そのとき彼女が『あなたみたいな奥さんじゃ、また浮気されるわよ』と言ったんです。その一言が心に残りました」
夫とは「二度としないでよ」「わかった、ごめん」「全部許すからやり直そうね」というやりとりですべてを許した。
前向きに一緒に歩んでいくはずだったのに
その件は忘れようとした。そして忘れたはずだった。だが芸能人の不倫話が世間を賑わせるたび、エリコさんの心の奥が痛んだ。「自分ではわかっていたんです。すべて許したとかっこいい女性を演じることで私は、浮気をした夫の心を見ようとしていなかったことを。本心では浮気をした理由も知りたかったけれど、夫が私に興味をなくしたことを実感するのが怖かったんです」
夫のことはまだ好きだ。だからこそ真実を知りたくはなかった。自分が平静を装っていれば、このまま夫婦としてやっていけると信じていたのだ。
「でもいい子を演じてしまった反動なんでしょうか、日が経てば経つほど、夫のことを責めるようになっていったんです。愛情が転じて悔しさになっていった。夫がちょっと遅くなると、『まだあのオンナと会ってるんじゃないでしょうね』『新しいオンナができたの?』と嫌みを言ってしまう。夜、夫が誘ってきたときも、『私はあのオンナの代わりなの』と言ったり。『私に家庭を押しつけておいて、自分勝手なことをしたのはあなただからね』と責めることもあります」
あれから3年たっているのに、今も彼女はたびたび夫を責める。「追いつめてどうするつもりなんだ」と夫が困惑することも多々ある。
それでも嫌みや皮肉や責める言葉を止められない。自分からやり直そうと言っておきながら、あたかも夫を排除するような言葉しか出てこないのだ。
「苦しいんです。つらくて泣きたいし、夫に棄てられたらどうしようという不安もある。だけどそれが言えなくて、ただ責めているだけ。頭では、もう一度、きちんと話し合ったほうがいいとわかっているんですけど」
妻には妻のプライドというものがある。自分の立場も尊厳も傷つけられたのだから怒って当然だし、本来ならもっと感情をぶつけあってもよかったのかもしれない。潔い妻、かっこいい女でいなくてはいけない。そんな思いは一度振り捨ててもいいのではないだろうか。