狡猾なクズ男がなぜモテるのか
特定個人を指しているわけではないが、ズルくて女性にだらしない、いわゆる「クズ男」が案外、世間でモテているという現状がある。ここで言うズルいは「小ずるい」という感じだろうか。本当の悪人ではなく、どこか「かわいげ」を感じさせるところがあるクズ男である。
いつも騙されてしまう……
そこそこイケメン、そこそこのバックグラウンド、そして押しが強い。そんな男性に騙されてきたと苦笑するのは、アキナさん(35歳)だ。
「学生時代、そこそこのお坊ちゃん先輩とつきあったのが始まりです。彼には三股くらいかけられていたんですよね。だけど会うとやさしいし、学生では行かれないような店に『オヤジのつけだから大丈夫』と連れていってくれる。他の女性との噂を聞きつけたので問いただすと、『いちばん好きなのはアキナに決まってるじゃないか』って。じっと目を見て言うんですよ。ウソをつくと目が泳ぐというから、彼はウソなんてついてないんだと思えてしまう。あとから知ったんですが、そうやってあちこちの女性を落としているような男でした」
社会人になってからも、アキナさんは「ダメ男」「クズ男」にばかり縁があった。お金にだらしない男と、自分の虚栄心を守るためにウソをつく男、そして浮気男。
「職場の先輩とつきあったときは、完全に足元を掬われました。私、商品企画の仕事をしているんですが、アイデアとして先輩に話したのに彼が企画書を作って出しちゃったんです。それが上司に褒められて。うっそーと思いましたよ。だってあれ、私の企画じゃん、って。彼に言ったら『オレも似たようなことを考えていたんだよ。企画書を出して初めて企画だからな』と凄まれました。本当にクズだと思った。それを機会に私は別れましたが、彼は結局、上司の娘さんと結婚、出世街道驀進中です。彼、けっこうイケメンだし、よく知らないときはいい人っぽい顔を見せるので、裏の顔を知らない人は、『侠気のある人だよね』なんて言いますが、手柄を横取りされたのは私だけではないみたい。いつか会社に訴えてやりたいです」
そして今つきあっているのは、「初めてまっとうな人」だと思いきや、お金にだらしない男だった。
「何度目かのデートで、いざ支払いとなったとき、財布を落としたと大騒ぎして。私が払いましたが、結局、会社に忘れてきただけだった。一緒に買い物に行ったとき、ブランドものの靴の前で動かなくなったことがあるんです。『男はやっぱり靴だよな』なんて言って。誕生日が近かったこともあってプレゼントしました。彼がほしがっているものを買って笑顔を見たいと思ったんですよね。そう思わせる何かがあるんです」
こういうことができるのは自分だけ、他の女性だったらこんなワガママは許さないだろうけれど、私は許してしまう。彼のことが好きだから。そうやって女性が自分自身に言い訳ができる要素をちらつかせることができる男なのかもしれない。女性の心にするりと入りこんで居座ってしまう。それがダメ男のダメなところであり、魅力でもあるのだろう。
借金の肩代わりまでしたのに
つきあって1年半たつ5歳年下の彼に、借金があると告白されたのは、ミエコさん(36歳)だ。2年前のことである。結婚を約束していた彼の言葉に、彼女は衝撃を受けた。「親友が、そのお金がないと死ぬしかないというから貸した、と。だけど裏切られて親友は居場所がわからないって言うんです。金額は300万円。私だって余裕があるわけではないから全額は無理だけどと、結婚資金としてためていた200万円を差し出しました。彼は目に涙をためてありがとうと言ってくれたんです」
だがそれから数カ月後、彼はいきなり姿を消した。彼の友人に助けを求めると、彼にはミエコさんではない本命の女性がいて、その女性が海外に行ってしまったので追って行ったそう。
「友人たちも事情がよく飲み込めていないようでした。とにかく彼は住んでいたマンションも引き払っていなくなってしまったんです」
ところがさらにそれから数カ月後、彼女は都内で彼を見かける。追いかけたのだが、彼は彼女を見ると脱兎のごとく逃げてしまった。
「つきあっているときはやさしかったし、いつもごちそうしてくれたんです。よく夜中に呼び出されたりもしましたけど、そうまでして私に会いたいんだと思ってた。でも、最初から彼は私を騙すつもりだったのかと落ち込む日々でした」
その後、さらに驚かされたのは、実は彼が結婚していたことだった。彼がミエコさんに会わせた友人は非常に限られた、「知り合って日が浅い友人」だったのだが、その友人が彼の職場を通じていろいろ調べてくれたのだ。すると彼には、実家のある遠方に住む妻子がいるのだという。
「東京にはいわば出稼ぎのように来て仕事をしていたそうです。ただ、その後、彼の行方はまたわからなくなりました。その友人が言うには、実家に戻ったのかもしれないって。だけど実家を誰も知らないんですよ」
クズだったかもしれないが、彼女は彼を恨んではいないと言う。ただ、もう一度会いたいと考えている。やり直したいわけではない。ただひと言、「あなたは私を愛していた?」と聞きたいのだそうだ。