結局、気になるのは「世間の目」だったのかも……
ようやく全国的に緊急事態宣言が解除されることになりそうだが、これからも油断は禁物とされている。もはや「元の生活」に戻るのはむずかしいのかもしれない。そんな中、この自粛生活期間を「ひたすら世間の目を気にして、大事な人を失ったかも」と振り返る女性がいる。
自己判断ができなかった
自粛に飽き飽きしている人、ストレスをためている人、もういいやと外出している人。いろいろな人がいるだろう。「私が住んでいる地域は、すでに非常事態宣言が解除されています。解除されて早速、家族で外食をしたんですよ。うち、子ども3人の5人家族なんですけど、通されたのは12人くらい座れる大テーブル。そこにバラバラに座らされたんです。いや、家族だから家では狭い食卓囲んでるんですけどって感じ。あれじゃ家族で話もできない。夫とも話したんですが、結局、お店側の『うちは対策していますよ』というアピールなんでしょうね。でも、そこに意味があるかどうか……」
ミカさん(43歳)はそう言う。他人同士が久しぶりに会ったのなら「密」を避けたほうがいいだろうが、いつも一緒に食事をしていた家族が、外食の場でいきなり距離をとらされたらあっけにとられてしまいそうだ。
「店に文句を言うわけにもいかないし、その場はそのまま離れて食べましたけど外に出てから家族で大笑い。ただ、その後、思ったんですよね。結局、私たちはずっと“世間の目”を怖れて自粛していた。だから息苦しかったのかもしれない、と」
この期間、ミカさんの父親が体調を崩したことがある。80代の両親だけで放っておくわけにいかず、電車を使って1時間ほど離れた実家を何度か訪ねた。
「近所の人に『お出かけ?』と聞かれたとき、はいと堂々としていればいいのに、『実家の父親が倒れて大変なことになっていて』とあえて大げさに答える自分がいた。不要不急の外出ではないとアピールしたかったんですよね、たぶん。近所で何か言われるのがいやだったから」
噂や臆測は怖い。知っているからこその防衛本能ともいえる。近所が相互監視しているような状況は、明らかにおかしい。そう思っていても、やはり「人と違うこと」はしづらい。
彼にも別れを告げて
ミカさんには、今年の2月ころまでときどき会う恋人がいた。高校時代の同級生で、5年前に再会、2年前から友だち以上の関係になった。「うちは結婚して14年、13歳の双子と10歳の子がいます。彼のところは10歳のひとり娘がいる。ふたりとも家族関係が悪いわけではないんですが、実は高校生時代、少しだけつきあっていたことがあるんです。当時はキスさえしなかった。でも本当に好きな人でした。再会したとき、自分が世間でいけないといわれている不倫に走るなんて思ってもいなかった。でも、高校時代の思いが蘇ったことも、今なら大人の判断でつきあってもいいんじゃないかと思ったことも確かです」
それでも再会から一線を越えるまで3年もかかっているのは、彼女が「不倫している自分」を「世間の目」で見ていたから。その殻を破ったのは、彼のことが好きだと思う情熱だった。
ところがこの自粛期間に、彼女はまたも世間の目にとらわれ、彼に自ら別れを告げた。
「本当に幸せな2年間だった。誰にもバレず、いい時期に別れたいと思ったのも事実なのですが、心の底では『会えないつらさから逃れたい』『彼に会っているところを誰かに見られたら何を言われるかわからない』という思いがありました。緊急事態宣言が解消されたとき、やっぱりどうしても会いたくて連絡したのですが、返事がなくて。もしかしたら私にとって大事な人を失ってしまったのかもしれないと思うと体が震えました」
自粛生活自体が、非常にストレスを伴うものだったから、そこで出した結論が自分の正しい判断と気持ちに基づいたものかどうかは疑いがある。彼女自身、世間の目はもちろん自分の気持ちからさえも逃げたくなっていたのだろう。
「彼とは会わずに、でも連絡を密にする時期がある程度続いたんですが、それがつらくなってしまった。4月のはじめに別れようと言ったのですが、その後の1カ月半、私はずっと心が沈んでいました。今さら言ってもしかたがないけど」
別れなければよかった。そう思ってもときは待ってくれない。不倫関係を続けるにしろ別れるにしろ、自分が何かにとらわれることなく正しい判断を下せる時期まで待ったほうがいいのかもしれない。