こまめに家事をやる夫、ありがたいんだけれど……

主夫になりたい

私たちはみな、新型コロナウイルスの感染拡大によって、今まで経験したことのないような生活を送っている。長時間、家族で過ごすことによって、夫に対して「こういう人だったのか」と初めて知ることもあるようだ。

 

「家族が楽しい」と言う夫

ずっと家族で一緒にいると、息がつまるような思いだという話はよく聞く。特に夫がストレスに耐えかねて不機嫌になったり怒鳴りつけたりし、家の中が殺伐としているという傾向が強い。
だが、エリナさん(45歳)の場合は少し違う。

「うちは夫が主婦化して、まあ、ありがたいといえばありがたいんですが、ちょっとめんどうな気もしています(笑)」

結婚して17年、15歳と12歳のふたりの娘がいる。エリナさんも夫も会社員なのだが、エリナさんは在宅ではできない仕事なので、今までとまったく同じく週末以外は出社。夫は週に1回の出社であとは在宅勤務となった。

「今までも家事はそれなりに分担してきたし、もう娘たちも大きいのでそれほど心配していなかったんですが、夫が思わぬ方向に走り出してしまって……」

夫の場合、在宅勤務は思ったより楽しかったようだ。リビングで午前中からすごい勢いで仕事をし、ランチを作って娘たちと楽しく会話をしながら過ごす。午後も集中して仕事をこなすと、早い時間からけっこう暇になっていると娘から報告を受けた。

「そして夫はお菓子作りを始めたんです。今までお菓子なんて作ったこともないのに、ネットでレシピを見ながら材料を取り寄せて。クッキーやパウンドケーキに始まって、今やロールケーキ、レアチーズと何でも作れるようになっている。今や夕食後はデザートが出てくるのが当たり前になっています」

夫は仕事の合間に、部屋の隅々まで掃除、除菌もしてくれる。娘たちにも掃除の仕方やウイルス除去の方法を細かく伝授しているようだ。

「ありがたいんです、ありがたいけど娘たちが少し戸惑っている。世話を焼きすぎるから。今まで夫も私も仕事が忙しかったし、子どもたちもできることは自分たちでやっていたんですよ。それが急に世話焼きおかあさんができたみたいになってしまって」

父親が「いい人」で、押しつけがましいわけではないだけに娘たちも反抗できないという。ほほえましい話なのだが、当の家族にとっては、ちょっとだけありがた迷惑なのかもしれない。

 

近所の噂話に興じる夫

あるとき仕事が早く終わったので、エリナさんは夫と近くのスーパーへ買い出しに行った。週に1、2回の買い出しも夫にずっと任せきりだったが、たまには彼女も食材を選びたくなったのだ。
すると夫は商店街でもスーパーでも、挨拶されたり声をかけられたり。エリナさんの知らない女性からも、「先日の話、やっぱり当たってたわよ」などと言われる始末。

「何の話なのと尋ねたら、近所で『不倫している奥さん』の噂話があって、誰だろうってみんなで推測していたらしいんですよ。話しかけてきた女性が予想した人物が当たっていて、その家は今、離婚騒ぎで大変ということみたい。『このご時世で離婚って、そうそうすんなりいかないよねえ』と夫。なんだかわいわいがやがやと友だち同士でしゃべる女子高生みたいなノリだったので、私、思わずため息をついてしまいました」

あんまりつまらない噂話につきあわないほうがいいとエリナさんが言うと、「だってご近所さんを無視もできないよ」と夫。

「男だから女だから、ということではないんですよ。だけどなんだか夫が、専業主婦だった私の母と重なるんですよね。買い物に行って井戸端会議して、テレビの受け売りの話ばかりで。夫も、私が帰宅すると『今日の東京の感染者数、知ってる?』なんて言うんですが、そんなのネットニュースで見ているし、知ったからってどうってことでもない。私が夫の話に乗らないと、『疲れてる?』なんて聞いてくるし。娘たちの言うとおり、夫は私にも世話焼きおかあさんになっているんですよ」

エリナさんは苦笑した。夫はもともと、外で働くより家の中のことをしているほうが楽しそうだったと結婚当初を思い出したという。

「夫は3歳年下なんですが、そういえば結婚するとき、『いつかエリナが出世してお金持ちになったら、僕が主夫やるよ』と言っていたことがあったなあと思い出しました。適材適所というから、私、もうちょっとがんばって出世も視野に仕事をしていこうかなと冗談交じりに最近夫に言ったら、『いいよ、いつでも主夫になる』って。外で働くことは若いころほどつらくないけど、それでも夫にとっては今の在宅勤務がとっても楽しいんだそうです」

それを聞いて、「めんどうなんて言ったらかわいそう」と思ったエリナさんだが、それでもやはり帰宅すると「お帰り。すぐバスルームに行って」と元気に世話を焼いてくる夫が、少しだけ「めんどう」なのだそうだ。
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