人生が上手くまわらない……39歳独女の告白
社会が変わりつつある今、「自分がどんどん悪い方向に転がっていっている」と実感している人たちは少なくない。
不倫がバレて退職へ
結婚を考えていた彼にふたまたをかけられていたことが判明、関係は破局した。それで苦しんでいるとき、精神的に引きあげてくれた上司と恋に落ちたのは、エリさん(39歳)。4年前のことだ。それ以来、彼女は恋をしながら仕事にも必死に打ち込んできた。彼女の変化には周りも驚くほどだったという。
「あるプロジェクトのチームリーダーを任されて1年半、すごくがんばったんです。その結果も上々で、私は上司を始め、周りが助けてくれたからだと本気で思いました」
これからも仕事を中心に人生を考えていこうと思っていたところ、突然、社内で彼女と上司の不倫が噂されるようになった。どうやら彼の妻が気づいて騒ぎを大きくしたらしい。彼は地方へ転勤、そして彼女は閑職へ。
「いづらくなって会社を辞めました。転職も考えましたが、そんなとき父が急死、母がひとり暮らしになったので、私も心身ともに疲弊していたこともあり、昨年暮れに実家に戻ったんです」
とある県の県庁所在地に、エリさんの実家はある。大学時代から20年も東京暮らしをしてきたエリさん、地元にはなかなかなじめない。それに加えて、もともといいとは言えなかった母親との関係が悪化していった。
「母はもともと過干渉でした。私が東京で学生生活を送っているときは、しょっちゅう見に来るんです。3時間もかけてやってくるんですよ。ああでもないこうでもないと生活を指図して帰っていく。あまりにもそれがうっとうしかったので、就職してから引っ越したんです。母には住所を知らせませんでした。そのことで母が激怒したんですが、父が間に入ってくれてなんとかおさまったことがありました。私はひとりっ子だし、間に入ってくれた父がいなくなったのはキツいですね」
それでも70歳近くなった母だから、いくらかコミュニケーションがとれるようになったのではないかと期待していたのだという。
アルバイトを始めたものの
年齢がいったせいか、昔とは違って依存しながら支配する。それが現在の母親の特徴だとエリさんは言う。「小さなことまで相談してくるんですよ。近所の○○さんがこんなことを言ったけどどうしよう、とか。私が近所の人のことなんて知るわけじゃないですか。めんどうだから、そんなの放っておけばいいと言うと、『アンタは何もわかってない』と。父とどうやって暮らしていたのか、父も大変だっただろうなと思います」
じっくり仕事を探したかったが、母と顔をつきあわせているのがつらくなって、最寄り駅近くのデパートでアルバイトをすることにした。かつての同級生がそのデパートに勤めていてアルバイトを募集していると知らせてくれたのだ。
「簡単な事務職ですけど、何もしないよりいいか、と。母は、アルバイトなんてみっともないと言っていました。失礼ですよね。それなのに私が帰るまでじっと待っているんですよ。食事の支度も中途半端、ご飯だけ炊いてあるという感じ。私は帰ってからおかずを作る。ちょっと残業があったときは先に食べてと連絡したにもかかわらず、何も食べずに待っていました」
あとから聞けば、ここ数年は食事の支度を父がやっていたのだという。だから「やってもらう」ことに慣れてしまったのかもしれない。
「そんなこんなで東京に戻るチャンスを狙っていたんですが、このコロナウイルス騒動でそれもできなくなりました。アルバイトも切られてしまって、今は家にいるので、なるべく母と顔を合わせないようにしています」
どうしてこんなことになったのだろう。エリさんは日々、そう考えていると言う。もちろん不倫は世間の価値観でいえば「よくないこと」だが、恋も仕事もうまくいっていたあの日々をときどき思い返している。
「あれから一気に転落したなという気がします。この年齢で社会から落ちこぼれると、もう二度と這い上がれないでしょうね。今までの貯金だってそうたくさんあるわけではないし、母の年金を当てにしながらここで暮らしていくしかないのかもしれない。そう思うと落ち込むばかりです」
人生の折り返し地点に立っているエリさん。これから恋愛も仕事も新たに始めることはできるはずだが、今の彼女にはその言葉も耳に入りそうになかった。