亀山早苗の恋愛コラム

不倫はいけないことだから辛い、地獄だけれど「甘美」な日々

不倫はよくない。そんなことはわかっている。それでも「はまって」しまう人々がいる。一線を越えてから「地獄のような思い」を抱えながらも恋に酔う女性は何を考えているのだろうか。

亀山 早苗

執筆者:亀山 早苗

恋愛ガイド

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一線を越え地獄のような思いだけれど、やめられない…

親友の夫と不倫

不倫はよくない。そんなことはわかっている。それでも「はまって」しまう人々がいる。一線を越えてから「地獄のような思い」を抱えながらも恋に酔う女性は何を考えているのだろうか。

 

友人と再会してみたら

小学校から高校まで同じ学校に通った大親友と、久しぶりに再会したことから運命が変わってしまったというのはチホさん(42歳)。

「マユミとは大親友だったんですが、彼女は高校卒業後、家庭の事情で進学できずに就職、私は大学へ行ってそこから留学と人生が分かれて……。なんとなく連絡をとりづらくて、そのままになってしまったんです」

共通の友人たちの間でも、マユミさんの話が出ることはなかった。ところが1年前、SNSでマユミさんとつながった。

「ずっと気になっていたのでうれしかった。早速会おうということになったんですが、彼女は『家に来ない?』って。私は仕事をしているので週末しかあいてないというと、それでもいい、と。結婚して子どももいるというから遠慮しようとしたんですが、彼女は家族も紹介したいって」

チホさんは20代で結婚したものの3年たらずで離婚。子どももいない。その後は仕事を続けて、今や「仕事が恋人」というのが口癖になっている。寂しいと思ったことはあまりないという。

「マユミがそこまで言うならと、おいしいケーキを買って訪ねてみたんです。きれいなマンションでした。玄関で出迎えてくれた彼女と思わずハグ。うれしかったですねえ。彼女はとても洗練された女性になっていました」

ところがリビングに入ったとき、チホさんは「まさに心臓が止まりそうになった」という。ソファから立ち上がったのは、高校時代の同級生・ケンタさんだったのだ。

「実は高校時代、私、彼とつきあっていたことがあるんです。彼がキス以上のことを求めてきたので断ってしまった。私にとってはちょっと苦い初恋だったんですよね」

彼のことを思い出すこともあった。その後、医学部へ進学した彼と、あのときもっとつきあっていたらどうなっただろう、と。

「マユミもケンタもニコニコしながら、『本当に久しぶりだよね、元気だった?』『留学したんだってね、すごいね』とごく普通に話してくれたけど、私はなんだか頭がこんがらがってしまって」

聞けば医学部を卒業した彼が大学病院に配属されたころ、たまたまマユミさんの母親がその病院に入院していたおり再会したのだという。その後、母は亡くなり、母子家庭だったマユミさんはひとりぼっちになった。そしてふたりは27歳で結婚したそうだ。

 

奪いたいわけじゃない

チホさんは、その後、ときどきマユミさんの家に出かけた。大親友との友情を復活させたかったからと自分に言い訳していたが、ケンタさんに会いたい気持ちのほうが強かったかもしれないと言う。

「マユミには中学生の息子と小学生の娘がいる。夫は医師で、彼女は書道を教えたりしているんですって。大人になってから始めたからうまいわけじゃないんだけどって言ってた。『私が人並みの生活を送れるようになったのはケンタのおかげ』だと。夫婦はいい関係、家族も仲良し。子どもたちもいい子だし、何の不満もない家庭という感じなんです」

あるとき、チホさんはマユミさんの家で急に具合が悪くなった。その日は小学生の娘が風邪で寝込んでいたため、ケンタさんがチホさんを病院に連れていってくれることになった。

「大丈夫、自分でタクシー拾っていくからと言ったんですが、マユミがケンタに連れていってあげてと言ってくれて。結局、胃けいれんだったんです。ちょっとそのころ仕事が多忙でストレスもたまっていたんで。ケンタは家まで送ってくれました」

それから数日後、夜遅くにケンタさんがやってきた。ちょっと気になったから見舞いにと言いながら、ケンタさんの目には欲望が光っていたのをチホさんは見抜いていた。

「お茶をいれて、ケンタがもってきてくれたフルーツを一緒に食べて。帰ってと言いました。ケンタは帰ろうとしたんです。だけど玄関で振り向いて……」

高校時代、中途半端に別れた情熱が10数年を経て一気に蘇ってきた。「本当に好きだったのに」という気持ちをふたりとも飲み込んだまま抱き合った。

「まだ引き返せると思った瞬間がありました。彼に『いいの?』と尋ねたら『いいんだ』と。ああ、地獄に足を踏み込んでしまった、と思いましたね」

それから半年、地獄はまだ続いている。今もケンタさんは週に一度はやってくる。リモートワークになっているチホさんは、彼が来るたび手の込んだ料理を作って待っている。

「ケンタは、マユミとは同情結婚だったんだと漏らしたことがあります。もちろんマユミもそのことはわかっていて尽くしてくれる。それが逆に申し訳ないような気になる、と。私はみんなが進学するときに就職せざるを得なかったマユミの気持ちを知っている。つらかっただろうと思うんです。だから彼女からケンタを奪おうなんて思ってもいない。彼女にだけは知られたくない」

自分がしていることを考えると罪悪感で体がよじれるような痛みがある。それでもケンタさんに会わずにはいられない。失われた時間を満たす恋をして、マユミさんは身も心もとろける幸せを初めて知った。一方で灼かれるようなつらさも覚えている。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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