夫婦の愛情もカップルそれぞれ……
愛情表現は人それぞれ。中には「普通の人がもっている感覚」から逸脱するものもあるが、それもまた愛情だと思えば、あとは言われたほうが善し悪しを判断するしかないのかもしれない。
愛しているから、と夫が頼んできたこと
「うちはひとり息子が留学して以来、3年以上、夫婦ふたり暮らしなんです」
そう言うのは、アヤコさん(48歳)だ。息子は中学を卒業後、自分の意志で留学したという。
「アメリカに私の親戚がいるので、その家から学校に通っています。楽しそうでね、帰ってくるつもりはまったくないようです」
夫婦ふたりで共働き。週末が休みのアヤコさんと、平日が休みの夫とではすれ違いも多い。ふたり暮らしになって1年ほどたったある晩、夫と恋愛映画を観ていると、突然言われた。
「アヤコ、外で恋してもいいよ。いや、してほしいな」
アヤコさんは一瞬、耳を疑ったという。自分たちは時間的なすれ違いはあるが、仲良くやってきた夫婦だと思っていたから。ただ、夫の考え方は少し違っていた。
「結婚したからって、一生、ひとりの人に縛られるのはおかしいと思うんだ。このあたりでオレたち、もう一度、夫婦関係を見直してもいいのかなと思って」
公認で不倫をするのかと思ったら、夫はそういう意味ではないと笑った。
「機会があったら誰かとデートしてもいい。そういうことだ、と。夫はむしろ、自分たち夫婦が盤石であることを確かめたかったのかもしれませんね」
そのときは話は煮詰まらず、アヤコさんも「機会があればね」と受け流していた。ところがそんな話を聞いて、心が過敏になっていたせいか、あるときアヤコさんは仕事関係の社外の男性から食事に誘われた。
「その人との仕事はもう終わっていたんですが、打ち上げをかねて食事でもと言われて。断ることもできましたが、実は私もその人とはもう少し話してみたいなと思っていたんです。そこで夫に話してみました」
夫は少し興奮したように聞いていたという。
夫婦関係には刺激が必要?
アヤコさんは、2歳年上のその男性と食事に出かけた。思いがけなく、好きな音楽が共通していたり、昔観た映画やテレビの話で盛り上がり、とても楽しい時間を過ごした。「帰ってきて、夫に話したら、『その人のこと、好きになりそう?』と聞くんですよ。いやあ、私にはあなたがいるし、そう簡単に恋愛感情は起こらないでしょうと言ったら、『好きになったら言ってほしい』と。なんだか妙に興奮していましたね」
夫はその後も、アヤコさんにデートを勧めたり、新しい洋服を買おうとショッピングにつれていったりした。自分自身が浮気をしたいのではないかと彼女はずっと疑っていたが、夫の真意は、やはり夫婦関係を見つめ直したいということだった。
「私自身も、夫公認だったらデートくらいいいかなと思って、毎月のように男性と食事に行っていたんですよ。例の社外の人や、かつての同級生や。みんな既婚者ですから、そんなに簡単に深い関係にはなりません。でも男性とふたりきりのデートってやっぱり楽しいんですよね」
生き生きとデートを楽しむ妻を見て、夫はあるときしみじみと言った。
「やっぱりアヤコはそうやって楽しそうにしているほうがいい、と。自慢ではありませんが、かつて私、恋多き女なんて言われたこともあったんです。夫はそのころを知っている。でも結婚してからは本当にまじめに生きてきた。夫としては、あのころの『アヤコちゃん』をもう一度、見たかったのかもしれません」
デートしたら夫に話す。夫は興奮して彼女を求める。嫉妬が彼を燃え上がらせているようだ。わざわざ嫉妬しないと燃えないのかと思う向きもあるだろうが、結婚して20年近くたつベテラン夫婦が、男と女として向き合うためにはやはり多少のスパイスが必要なのかもしれない。
「私は不倫をする気はありません。もしかしたら夫もどこかの女性とデートしているのかもしれないけど、私は夫と違ってそういう話は聞きたくない。だからもしデートしていても聞かせないでほしいと言ってあります。夫は『オレはデートなんてしないよ』と言っていますが、わかりませんからね」
お互いにそこはかとなく相手を愛しているのに、それが情熱となっては迸らない。それもベテラン夫婦ならではなのかもしれない。だからこそ、スパイスが必要だと夫は感じたのだろう。
「ただ、外で男性とデートするのは本当に楽しい。恋人関係になりそうでならない、でも好意はもっている。男性側もそれをわかっていてくれれば、こんな楽しい関係はありませんね」
曖昧で色っぽい関係を抱えているアヤコさんのありようが誰にとってもベストなわけではないだろうが、そんな関係をコントロールできる女性は魅力的である。