衝動的すぎる愛は若さゆえのもの!?
今年5月に起こった新宿歌舞伎町ホスト殺人未遂事件。21歳のガールズバーの店長である女が、20歳のホストを彼の部屋で刺した。
その初公判が開かれ、被告に3年6カ月の実刑が言い渡された。彼女は、彼のことが好きで好きでどうしようもなく、殺せば他の女を見なくなると思ったのだという。逮捕されたとき、うっすらと笑みを浮かべていたという21歳の彼女。
彼のほうは「罪を償うというのではなく、普通の生活をしてほしい」と寛大な姿勢を見せた。
映画や小説に描かれることのある、こういった信じがたいほど強い衝動に支えられている恋心を抱えたことのある女性は少なくないだろう。それを「本当の愛」と思い込むのは若さゆえかもしれない。多くの人は理性で抑え込む。
「殺せば自分のものになる」と思ってしまった……ミツコさんの場合
「私も若いころにそんな思いを相手にぶつけたことがあります」
そう言うのは、ミツコさん(36歳)だ。10数年前、やはり好きでたまらない男性がいた。彼とはつきあっているのか体だけの関係なのかわからなかった。怖くて聞くことすらできなかったという。
「一緒に寝ているときに、この人を殺せば、私だけのものになる。彼を殺して私も死のう。そう思ったんです。だけど、実際に台所から包丁をもってきても刺すことができなかった」
結局、彼女は彼から離れたという。いつか刺してしまうかもしれない自分が怖かった。彼が自分だけを見てくれることを願いながら、それは現実的ではないと感じてもいた。
「ただ、今思い返しても、あれだけ周りが見えなくなるほど愛した人は彼だけですね。もちろん、歪んだ愛情だとはわかっているけど、世界中のすべてがなくなってもいい、この人さえいればいいと思う強い気持ちは、あれ以降、私の中には生まれてきません」
愛とは残酷なものかもしれない。一方で、穏やかな愛は人を癒やし、人を救うこともある。
「自分の中の度しがたい激しい愛を実感したことは、その後の私の人生にとって、悪いことではなかったような気がします。あんな愛情に巻き込まれたら、他人には非常に迷惑なことだとわかったし、逆に私自身もそういう歪んだ愛情には巻き込まれないようにしないといけないとも思った。人生、終わってしまいますから」
一緒に歩いていこうと思ってもらうには、自分の人生を前向きに考えていないといけないのだ。人は、光や希望のある場所に集いたがるものだから。
「私が死ねば思いをすべてのせられる」マリナさんの場合
理性と感情がどんどんずれていく
ただ、こうした、ある意味で常軌を逸したような恋にのめり込んでしまう女性の心理も、個人的には非常によくわかる。相手を脅迫しようが、イヤな思いをさせようが、とにかく一緒にいるためには手段を選ばなくなってしまう恋愛が、この世の中にはあるのだということ。
もちろん、人は怖い思いをしたくないから、男はどんどん気持ちが離れていく。だが、それを引き戻そうとさらに無茶なことをしてしまう。
「私は彼の気持ちが離れていきそうになったとき、本気で『死んでやる』と思いました。15階くらいのビルの屋上に行って、ここから飛び降りれば死ねる、と。私が死んだら、私の思いを全部彼にのせることができる。相手を殺して自分が悲しい思いをするより、私は自分がいなくなるほうを望みました」
マリナさん(30歳)は、ほんの1年前の出来事を振り返った。どんなに好きでも四六時中、一緒にいるわけにはいかない。彼には自分の知らない時間がある。社会人だから当然だ。だが、彼女はそれに耐えられなかった。彼のすべてを知りたかった。すべて自分のものにしたかった。
「それができないとわかったとき、飛び降りようと思った。だけど最後に彼の声を聞きたいなと思って電話したんです」
極寒の夜だった。コートも着ずに屋上に上がった彼女は、彼の声を聞いているうちに意識をなくしていった。彼が警察とともに駆けつけてきたとき、彼女は低体温になりかかっていたという。
「2週間ほど入院して外に出たとき、ヘンな言い方ですが、憑きものが落ちたような気がしたんです。彼への執着より、申し訳ない気持ちでいっぱいでした」
あの激しさは何だったのだろう。自分でも不思議な気持ちになったという。彼女もまた、彼から離れた。
「あの恋」だけが別格だったのか
ミツコさんもマリナさんも、決して「ヘンな人」ではない。社会人としてきちんと仕事をしているし、友人もいる。
ただ、「あの恋」だけは別格だったのだ。魂の組み合わせの問題なのか、あるいはたまたま妙な歯車が噛み合ってしまったのか、理性と感情がちぐはぐになってしまった。あのときはあの恋に命を燃やすしかない状況だったのかもしれない。人間にはそんなことがある。
だが、ふたりとも今は理性と感情のバランスがとれていると感じている。激しい愛は、ときとして人を狂わせるのかもしれない。