それでも彼を信じていたのに……不倫の結末はやっぱり
既婚男性がいくら「いつか離婚してきみと結婚するから」と言っても、それを真に受ける独身女性は今や少ないかもしれない。だが、実際に家を出てきたとすれば、結婚はもっと身近なものになるのではないだろうか。
家を出てきたから信頼したのに
ユリエさん(40歳)が、友人のホームパーティーで知り合った10歳年上の男性とつきあい始めたのは5年前。既婚であることはわかっていたので、深入りはするまいと決めていた。
「1年ほどは、たまに食事に行く程度の関係でした。あるとき、私が引っ越しを考えていると言ったら、彼がすごくいい物件がある、友人の持ち物だから交渉してあげると言い出して。本当にいい物件を安く貸してくれることになったんです。彼とはそこから一気に親しくなりました。面倒見がいいし親切だし、どうやら人望も厚いようだし、何より私を愛してくれることがわかったから」
とはいえ、これは不倫の関係。罪悪感が募り、何度か別れ話をもちかけた。すると彼は、身の回りのものをもって彼女の家に越してきてしまう。
「大好きだ、一緒に住みたいって。ここにいながら離婚協議をしていくって。彼がそこまで決意してくれているならと、私も覚悟ができました」
当時、彼の子どもは高校生と中学生だった。それでも彼は、ユリエさんを選んだのだ。
「奥さんや子どもにどう言っていたのかわかりません。給料は奥さんが管理していたから、それでいいと思っていたのでしょうか。私は一銭ももらっていませんでした。たまに彼が臨時でお金が入ることがあったようで、そのときは少しくれていました。半年に10万円くらいかなあ。食費から彼の下着、洋服に至るまで私が出していたんです」
彼と暮らせるならそれでいい。そんな気持ちだった。
ある日突然、訴えられて
1年ほど前、彼女は突然、妻から訴えられた。不倫による損害賠償200万円だ。彼にその話をし、弁護士から来た書類を見せると彼はあわてふためいていた。「そんなことをするなんて、と私にひたすら謝っていました。どうにかするからという言葉を信じていたんですが、彼は翌日から帰ってこなくなったんです。自宅で妻を説き伏せるつもりなのかと待っていましたが、連絡すらよこさない。私も弁護士に相談、せめて生活にかかったお金だけでも返してもらおうということになりました。計算したら3年以上にわたる生活の中で、彼には200万円以上かかっていましたから」
いきなりの裏切りに腹をたてた彼女は、彼が置いていったスーツや小物を箱につめて、彼の会社にもっていった。そして彼の上司を呼び出したのだ。
「ことの顛末を話し、彼の言葉を信じた私も悪いけど、彼もいけないんじゃないですかと直談判したんです。会社としてこの事実を隠蔽するなら私はもっと広めますよとも言いました。有名企業ですからね、イメージダウンを怖れたんじゃないかと思います」
結局、彼の妻は訴えを取り下げた。彼女も訴えるのをやめた。彼はその後、遠方に転勤となり、単身赴任しているそうだ。
「彼が出て行って裏切られたとわかったときから、一気に突っ走ってきたので、これで終わったと思ったとき、体中から力が抜けました。同時に彼が二度と帰って来ないことも明らかになった。私の5年余りは何だったんだろうと虚しくて」
結婚したらすぐにでも子どもがほしい、結婚したら自宅から車を持ってくるからどこかドライブに行こう。そうやって「結婚したら」を合い言葉にして暮らしてきた。それが彼女の希望だった。だが、すべては幻となったのだ。
「そして私はあっけなく40歳になってしまいました。自分で自分を嗤ってやりたい気分です」
自嘲気味に彼女はそう言った。彼が急に彼女の元を去ったのは、もしかしたらそろそろ里心がついていたからかもしれない。恋愛は楽しかっただろうけれど、婚外恋愛の相手に経済的に頼らざるを得ないのは彼にしてみたら、居心地がいいわけではなかったはずだ。そろそろこの生活をやめなければと思っているところに訴えがあったとしたら……。
ユリエさん自身も、そんなふうに考えたこともあるという。
「結局、不倫からの結婚なんて、そううまくはいかないんでしょうね。私は何より彼を愛していたのに。彼と一緒にいられればよかっただけなのに」
ユリエさんの目が潤んでいた。