14年の終わりは、彼の妻の涙だった
お互いに家庭のあるダブル不倫は、長期化するケースが多いのが特徴だ。5年10年は当たり前、なかには15年、20年と続くこともある。お互いに家庭優先、細々と続けていこうと気持ちが一致すれば、そう頻繁に会えないことから情熱も長続きするのかもしれない。だが、関係が突然、終わりを迎えることもある。
一生つきあっていきたかった
5歳年上の男性と結婚して22年、大学生と高校生の子どもがいるユキノさん(48歳)。夫と協力しながら、仕事と家庭を両立させてきた。「夫はいい人なんですが、寡黙で一緒にいても楽しくないんです。下の子が生まれてからは男女の関係もなくなってしまった。私から誘っても『疲れてるから』『子どもはふたりでいいよ』って。夫にとってセックスは子どもを作るためだけのものなのかと愕然としたのを覚えています」
そんなとき、職場の同僚男性と仕事でコンビを組んだことから親しくなっていった。心を許して、つい夫の愚痴を漏らしたことから、彼も家庭内で妻から冷遇されている事実を告白。慰め合うように始まった恋だが、次第にお互いに本気になっていった。
「本気になるといっても、ふたりとも離婚するつもりはなかった。彼にも子どもがいますしね。家庭に対する責任はちゃんと果たそう、でもこのふたりの関係はずっと続けていこう。そう約束しました」
その後、ユキノさんの夫が倒れたときも父親が亡くなったときも、彼は支えになってくれた。
「本当に寂しいときは彼に会いたい、本当にうれしいときも彼に会いたい。そういう存在でした」
夫は病を得たあと、人が変わったようにユキノさんを大事にしてくれた。不倫を始めて8年たって、彼女は初めて夫に罪悪感を覚えたという。同時に、夫とうまくいっているのに彼にはうまくいっていないそぶりをすることにも心が痛んだ。
「それでも彼と別れたほうがいい、別れたいなんて思ったことはありません。夫と彼は、私にとって存在の意味合いが違うから」
妻が会いに来て
関係が14年を超えたこの春、ユキノさんの携帯に見知らぬ番号から電話があった。留守番電話に彼の名字を名乗る女性の声が残されていた。「落ち着いた声でした。一度お目にかかれたらありがたいんですが、と遠慮深いメッセージが入っていて。彼の奥さんにバレちゃったのか、ついにこのときが来たかと覚悟しました」
どちらかの配偶者にバレたらどうするかと、ふたりはときどき相談していた。ほとぼりが冷めるまで会わずにいて、また続けようというのが結論だった。
「彼には言わずに奥さんに会いました。奥さんは私を責めなかった。『結婚していながら恋愛することもあると思う。私はただ、あなたに会ってみたかっただけなんです、ごめんなさい』と私に頭を下げました。こんな素敵な妻がいるのに、と心を抉られるような気がして。私もごめんなさいと頭を下げた。そのとき、奥さんが私を見て、つっと涙を流したんです。この人、彼が言うような冷たい妻じゃないはず。そう思いました」
彼と妻がどういう夫婦関係を営んでいるのか、ユキノさんは詳細は知らない。だが、おそらく妻は寂しかったはずだ。夫の浮気に激怒しなかっただけに、妻の心がわかった気がするとユキノさんは言った。
「その後、私から『夫にバレかけていて、このままだとまずいの』と別れてもらいました。彼の妻のことはひと言も言わなかった。彼はほとぼりが冷めたらまたって言ったし、私も頷きましたけど、あの奥さんの涙が脳裏に焼きついて、とてもじゃないけど彼とふたりきりの時間はもてない」
彼とはそれきりプライベートな時間はもっていない。彼も何か思うところがあるのか、誘ってはこない。
「彼への気持ちが消えたわけではないので、毎日職場で顔を合わせるとつらいときもあります。でも、もうそれでいいと思う。振り返ると14年もの間、うまくやってきたのに、今になるとそんな長い時間つきあっていた感覚がないんですよね。月に2回くらいしかゆっくり会えなかったからなのかなと思ったけど、そうじゃなくてやはりトラブルがなかったからでしょうね。彼とはいろいろなところへも行ったし、いい思い出もたくさんある。だから離れるなら今なんだろうと思っています」
不倫のつきあいには「節目」がないのかもしれない。夫とは、子どもが学校に入ったとか卒業したとか、夫が病気をしたとか、そういった節目がある。だが不倫の関係には、そういう節目がなく、しかもふたりの間で問題が起こらなければ、ずっと仲良くしていられるのだ。
「14年、彼と一緒に過ごす時間や心の中で彼が占める空間があった。それがいきなりなくなったので、ちょっと心に穴があいている気がします」