高さ約85m、18階建ての世界一高い木造ビルも! 欧米で進むビルの木造化・木質化
世界のビルの木造化は欧米がけん引している
また、このノルウェーの木造ビルにも使われている構造材『CLT』(※1)の登場も、海外の建築物の木造化・木質化を加速させました。オーストリアで1995年頃から発展し、欧米を中心としたビルやホテル、施設などの木造化を後押ししています。この流れは日本にも波及し、CLT関連の法整備がなされ、すでに一般利用が始まっています」(住友林業 住宅・建築事業本部 木化推進部 シニアマネージャーの原 元さん、以下同)
こうしたハードの技術開発に加えて、環境保護、持続可能性の重視といった「ソフト面」でも木造化・木質化に対する追い風が吹いています、とのこと。
「各国の環境負荷低減を目指した2015年のパリ協定発効、環境保護、持続可能な取り組みを進める企業への投資・ESG投資の普及、さらに2015年に国連で採択されたSDGs『世界を変えるための持続可能な17の開発目標』達成に向けた気運が世界に広がっている……等々のムーブメントが、木造ビルの開発事例増加につながっているのです」
一方、日本のビルの木造化・木質化は現在どのような状況にあるのでしょうか。
「世界的な木造化・木質化の潮流は確実に日本にも波及しています。もともと日本は古来より木を使う文化の国です。法隆寺や五重の塔など、古くから木造建築技術が進んだ国でした。しかし戦後から近代では、日本でも多くの中高層のビルディングが建てられました。
やがて、地球温暖化を始めとする環境問題が深刻化し、世界の各国は危機感を持ちました。ようやく原点に戻り、改めて木の良さを再発見、再認識し始めています。
わが国でも木造化・木質化を『国策』としてバックアップし始めました。2010年の『公共建築物等における木材利用の促進に関する法律』の施行を皮切りに、住宅以外にも多くの中大規模の建築計画に木が取り入れられています。近々では2018年から2019年にかけて建築基準法の一部改正がなされ、より木材使用の規制が緩和される道筋が整いました」
※1 Cross Laminated Timberの略。ひき板(ラミナ)を並べた後、繊維方向が直交するように積層接着した木質系材料。厚みのある大きな板で、建築の構造材の他、土木用材、家具などにも使用されている。近年欧米ではCLTを使った建築物、高層建築が急増。日本でもCLTを使った木化ビルが登場し始めている
ビルの建築、都市づくりの建築材料に、木という選択肢が加わりました。コミュニケーションも活性化した東京・国分寺の木化ビル
では、そうしたトレンドのなか、住友林業の木化ビルの取り組みは?「好例は2017年に竣工した東京・国分寺の7階建ての木化ビルです。『木質ハイブリッド集成材』を構造体に採用し、防火地域でも木のやさしさと心地よさを直に感じられるオフィスビルが出来上がっています。
このビルは、自然の生命と恵みを日常生活に取り入れるアロマ製品を提供する企業の本社。施主様は、自社製品にちなんで自然素材を採用したビルを目指すと同時に、社員にとってはたらきやすく居心地のいいオフィスをつくりたいという思いから、本社ビルに「木のもつちから」をとりいれました。
オーナーであるフレーバーライフ社経営者様はこう語っておられます。
思い返してみてください。会社ではたらく社員さんは、1日のおよそ1/3もの時間を、会社オフィスで過ごします。会社はいわば「生活の環境」の場でもあり、その空間を居心地のいい環境にした方が仕事はしやすいはず。
ビジネスの生産性だけを考えてはたらくのであれば、それは機械と同じ。人間らしく豊かにはたらくための環境とは何か。例えば、深呼吸をしたり、思わず裸足になってしまう、一人ひとりがなぜか笑顔になる、そういう環境をつくる方が、仕事がし易いし、結果として業務の効率UPに繋がるのではないのでしょうか。
ストーリー:「木化×ビル」の先にある、都市木造の夢。
木化実例:木化が、働き方を変化させた。
木とともに歩んできた住友林業が総合的な提案力で都市に木化ビルを増やす
住友林業は、木で都市の風景を変えていく「環境木化都市」の実現を目指す
「国内には有望なマーケットがあります。ある不動産シンクタンクの調査では、都内のビルのうち、中小規模ビルのおよそ2000棟が、現在の耐震基準より耐震性が低いとされる旧耐震基準で建てられているとのこと。私ども住友林業は、そうした旧耐震の中小規模ビルを中心に、建て替え、リニューアルに真摯に取り組み、都市部にももっと木化ビルを増やしていきたいと考えています」
木造化・木質化における住友林業としての強みは何でしょうか。
「住友林業グループの力を集結した、総合的な提案力ではないでしょうか。木化推進部の企画・提案力、設計力、施工力をはじめ、東・名・阪の支社体制確立による全国展開、更に、弊社では国内売上高1位を誇る木材・建材商社事業、木材建材事業本部があり、安定的に高品質な木材を調達、確保することができます。
ちなみに弊社は、環境破壊につながる違法伐採木材が流通しない市場を形成することを目的に2017年に施行され、合法木材の流通販売当業者の登録制を定めた『合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律(通称クリーンウッド法)』の国内第一号登録企業なのです。
また、国内造園完工高1位の緑化会社、住友林業緑化株式会社も、私たち住友林業グループです。建物単体ではなく、面でとらえたランドスケープのご提案により、木と緑のコラボレーションをご提案することが可能です。
さらにグループシナジーを活かし、土地探しのお手伝いや、内装・空間デザインのご提案、テナント誘致などもトータルでサポートさせていただきます。
未来にむけた研究開発体制では、弊社の研究開発技術部門である筑波研究所が中心となり、研究技術ロードマップを基に、日夜研究を進めております。本年度には、2018年度サステナブル建築物等先導事業(木造先導型)に採択されたプロジェクト『筑波研究所の新研究棟』が完成を迎えます。この新研究棟を礎に、さらなる挑戦を進めてまいります。
そして、300年以上にわたり日本の山林を守り、木を育ててきた当社の歴史そのものが、『木のプロフェッショナル』として、お客様にご安心、ご信頼いただけるものと確信致しております」
2041年、東京タワーを上回る高さの超高層木造建築が登場!
最後に、住友林業が取り組む木化事業を象徴する、前代未聞のプロジェクトをご紹介しましょう。それが環境木化都市を目指す住友林業の「W350計画」です。「住友林業は創業350年を迎える2041年、都市に地上350m、70階建ての超高層木造ビルをつくる研究技術開発構想を進めています。
W350計画は主に2つの『共生』を目指しています。
まずは『地球環境との共生』です。緑が豊富な森のような建物をつくりだすことで都市の「生物多様性」に貢献します。建物の9割に木をつかい、CO2を炭素として固定し、地球温暖化と環境に貢献致します。
もうひとつは『社会との共生』です。メンテナンスで一部木材を交換することもでき、交換した木材は、住宅の梁材、その後のバイオマス発電燃料へと段階的に活用することも可能です。環境木化都市が広がることで、木材需要の拡大、国内林業の再生、地方活性化など波及効果も大いに期待できるのです。
木はそのものが再生可能な持続的資源であり、いわば地球からの贈り物です。その貴重な木を多くの都市に供給し、人と地球にやさしい都市をつくっていきたい。
かけがえのない資源である木を使った『木化事業』を、私たちはこれからも挑戦し続けてまいります」
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