夫のうつ病に耐えられないのは冷たい妻?
パートナーが病気になったら支えるのが当然。誰もがそう思っているだろうが、実際に夫の病気に「耐えられない」と思っている妻がいる。彼女は「冷たい人間だ」と自分を責めているが、話を聞くととても彼女を責められない実態があった。
2人目妊娠中に夫がうつ病に
アヤカさん(40歳)が同い年の男性と結婚したのは8年前の32歳のとき。34歳で出産、共働きをしながら「決して裕福ではないが幸せな毎日」を過ごしていた。
「ただ、どうしてももうひとり子どもがほしかった。夫も同じでした。36歳のとき妊娠がわかって、ふたりですごく喜んだのを覚えています」
ところが彼女の妊娠がわかったと同時に夫の会社が他社に吸収され、あげく夫はリストラされてしまった。
「どうしてオレがリストラなんだ。他にもっと仕事ができないヤツはいるって夫は毎日、こぼしていました。私は励ますことしかできなかった。夫は2カ月ほど家に閉じこもっていましたが、どんどん様子がおかしくなっていくので、嫌がったけど病院に連れていきました。そこでうつ病だと診断されたんです」
安定期に入ったとはいえ、アヤカさんは妊娠中の身。上の子もまだ2歳だった。だが夫に子育てはできない。
「出産したころ、ようやく夫も心身共に調子がよくなって就職活動を始めました。これからうまくいくと思っていたんですが」
夫は下の子が1歳になったころ再就職がかなったが、半年ほどたったころうつ病が再発した。会社での人間関係がうまくいかなかったようだ。
「夫の心のどこかに、自分がリストラされたことへの被害者意識、自信のなさがあったんでしょうね。それを受け止めきれないままに再就職を急いだのかもしれません」
理解はしているつもりだけど
アヤカさんも夫の主治医と何度も会っている。家族としてどうふるまえばいいかわかってもいる。だが夫はこの1年間、仕事をせず、家にこもったままだ。「平日は私の母が毎日手伝いに来てくれています。夫は母が用意した食事をとり、あとは自室にこもってゲームばかりしているらしい。ゲームができるなら家事のひとつもやってくれればいいのにと思ってしまうんですよね。興味のないことにはやる気が出ないのだという医師の言葉は理解しているつもりなんですが」
彼女から見ると、夫はすべてのことを放棄しているように見えるのだという。病気で苦しんでいるというよりは病気を隠れ簑にして怠けているとしか思えない。だがまさに、それがうつ病の怖いところなのだろう。
「たまに、オレなんていないほうがいいんだよなとつぶやく。そうするとこちらは焦ってしまう。ただ、そういうことの繰り返しで、正直いうと、私のほうが疲れてきました。これがどこか体が悪くて手術をしたりリハビリが必要だったりするなら、先の見通しがたつ。だけど心の病気は先が見えない。一生、私がこの夫の生活のめんどうもみなければいけないのか、ひとりで子どもたちの学費も稼ぎ出さないといけないのか。そう思うとお先真っ暗です」
ときどき離婚の文字が頭をよぎる。だが病気の夫を見捨てることはできないと思い直す。彼女の母もだいぶ疲れがたまってきたようで、今は1日おきにしか来られない。地域の保育ママ制度に頼っているが、経済的にも苦しい。実母は、「これが続くなら、子どもを連れて家に帰ってきちゃったほうがいいんじゃない?」と言い始めている。
「そろそろ限界ですね。実家は私と子どもたちは歓迎だけど、夫を連れてきてくれるなと言う。夫には身寄りがないんです。そして肝心の夫自身がどうしたいのか、まったくわからない。先日、夫抜きで主治医と会ってきて、もう限界だと訴えました」
よくなると信じてがんばってきたが、夫の本心が見えない上に経済的苦境が続く。アヤカさんが少しでもラクになる方法はないのだろうか。