約20年前、ロック少女だった私は洋楽番組のラジオDJになりたくて、アメリカに留学していました。「ポジティブな感情が人の認知プロセスに与える影響」について論文を書く際、公開されていた映画「パッチ・アダムス」を観て私の人生は一変。
笑いを通し、患者が最期まで幸せに生きることを支援する信念を曲げない主人公の姿に強く共感しました。多くの人に観てもらいたい、おすすめの作品です。
「パッチ・アダムス」のストーリー
この映画は、父親と叔父の死による悲しみで、生きる意味を見失い、自殺未遂を繰り返すようになったパッチ・アダムスが主人公。彼は自ら入院した精神病院で、笑いを通じて患者たちと友情を育み、退院後、医師を志して医学部に入学します。医者の権威主義がはびこる時代に、患者を一人の人間として尊重し、笑いを通して最期の瞬間まで質の高い生活を送れるように奮闘する主人公。その姿を見て、私の机上の理論を実践する大先輩のように思えました。同時に、権力や既成概念にとらわれず、信念を貫いた生き様に強く共感し、ひらめきを得たように目の前がパッと明るくなったのです。
映画鑑賞後の私の人生の展開
映画鑑賞後、感動した私が、映画のモデルになった医師、パッチ・アダムス先生のことを調べると……、なんと、住所がわかってしまいました! そこで先生の生き方に感銘を受けたことや自分の研究内容等を綴った手紙を送りました。すると1週間も経たずに、パッチ先生からの返事が届きました。映画のモデルにもなり、超多忙であろうパッチ先生が、一留学生にすぎない私の手紙に、便箋の表裏にびっしりと返事を書いてくれたのです!それから文通が始まり、先生の健康や医療についての考え方を深く学べることとなりました。
あるときパッチ先生が「新刊書を出すので翻訳をしないか」と声をかけてくれ、光栄にも、パッチ先生の著書を翻訳する機会がいただけました。そして、尊敬する先生の翻訳本『心からのお見舞い』が、私にとって初めての出版物となったのです。
病気や障害があっても、健康に生きることはできる
帰国後、私は「パッチ先生の健康や医療についての考え方を日本に広めるのが使命だ」と考えるようになりました。心が弱ったり、病気や障害があったりしても、最期の瞬間まで健康に生きるためにはどんな社会をつくればいいのかを探求する、健康社会学の道に進むきっかけです。この映画は、ロック少女だった私を健康社会学者の道へと導いた映画なのです。
「こんなにつらいのに、何のために生きているのだろう」「病気や障害があっても、最期まで健康に生きたい」と思っている人に、ぜひ観ていただきたい作品です。
DATA
ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン|パッチ・アダムス トゥルー・ストーリー
監督:トム・シャドヤック
出演:ロビン・ウィリアムス、ダニエル・ロンドン、モニカ・ポッター、フィリップ・シーモア・ホフマンほか