恋愛に一喜一憂する気持ちがわからない
20代から30代の男女が、ますます恋愛をしなくなっているらしい。「どうして恋愛しなければいけないのかわからない」と公言する男女も少なくない。「男友だちはけっこういるんですよ。だけど恋愛したいとは思わない。恋愛感情遺伝子が抜け落ちているのかも」そう言って笑うのは、ジュリさん(32歳)だ。大学時代に一度だけ「恋愛のまねごと」をして、男性とセックスをした。それ以来、誰かと付き合うこともセックスをしたこともない。
「そのときのセックスがつまらなかったんですよ。彼がいけないわけじゃなくて、どうしてこんな格好でこんなことをしなければいけないんだろうと冷めてしまって。男女を問わず、気の合う友だちと話しているほうがずっと楽しいのにって」
男性に恋をして胸がきゅんとするなどという気持ちもわからない。恋愛に一喜一憂している女友だちの気持ちもわからない。
「でも、わからなくてもいいんだと思っています。人の心理を感じることができるから、友だちの恋愛話を聞くのは嫌いではない。だけど本当は最新の科学とか宇宙とか、あるいは政治の話をするほうが好き。だから自然と男友だちが多くなりますね」
仕事も科学系の研究所だ。だが、ミステリーなどの小説を読むのも大好きだという。男性と恋愛して結婚して、うまくいけば子供が産まれる。そういう一連の生き方がどうして幸せなのかも彼女にとっては疑問なのだそう。
「変わり者だと言われますが、それでもいいんじゃないかな。私はしたくないことはしたくないんです。今は恋愛に興味がないだけ。もしかしたら、突然、結婚だけしたいとか出産だけしたいとか思うかもしれません」
恋愛しなければ女性ではない、モテなければ生きているかいがない。そんな価値観とは無縁のところで生きているだけ。ジュリさんはそう言ってさわやかに笑った。
面倒だしコスパ悪いし
「僕も恋愛遺伝子欠如組ですね。女性は好きですが、やはり話したり一緒に飲んだりカラオケ行ったりする友だちがいればいい。性欲は自分で満たせますから、風俗にも行きません。そんなコスパの悪いことはしません」アキラさん(35歳)も、遺伝子欠如派。異性を好きになったのは高校時代が最後だ。大学時代に一度だけ風俗に行き、一度だけ女性の先輩とセックスした。
「とりあえず全部やってみたから、もういいかなと思いました」
彼は金融関係の企業に勤めるサラリーマンだ。仕事は「そこそこ」で、趣味のプラモデル作りに没頭する時間が幸せ。社内の飲み会はほとんどパスするという。
「5回に1回くらい出ますけどね。それよりむしろ、地元のフットサルチームでの飲み会のほうが楽しい。社内の人間と飲んでも何も生まれません。愚痴言って終わりでしょ。時間のムダ」
恋愛も時間のムダに入るそうだ。女性と付き合って結婚しようかどうしようか迷うのもムダだし、そもそも結婚自体がどうして必要なのかわからないと断言する。
「田舎の親が、そろそろ結婚しないのと言ってきますが、必要性を感じないのでたぶんしないと言ってあります。父親は『男として一人前とは言えない』と怒っていますが、母親は『そういう考え方もあるかもしれないね』と先日、しみじみ言っていました。母はひょっとしたら結婚したことを後悔しているのかもしれません。うちの父は横暴だったし」
いい夫婦像を見ていないから、恋愛や結婚に憧れを抱けないのかと悩んだこともある。だが、結局は「自分が自由に生きたいだけ」だと考え方を変えた。
結婚はおろか、恋愛すら「必要性」を感じないと言いきる人たちは、決して珍しい存在ではない。そしてそんな人たちが増えるのもわかるような気がする。
「わざわざ面倒だと思うことを引き受けなくてもいいと思うんです。結婚も恋愛も、したい人がすればいい。そのことで誰かにとやかく言われる筋合いもない」とアキラさん。もっともである。
人は誰も自由に生きればいいのだ。できるだけ楽しく、自分の気持ちが満たされる方向で。世間の圧力に負けずに、「結婚も恋愛もしたくない」と公言する人が増えていくのは小気味よい。