原付二種のフラッグシップモデル ホンダ PCX HYBRID(ハイブリッド)
メーカーが技術力の高さや先進性を打ち出すために排気量の大きなバイクに豪華な装備をまとわせてリリースする、いわば看板モデルの事を「フラッグシップ」と言います。ホンダで言えばCBR1000RRなどのスーパースポーツモデルやアフリカツインのような1000㏄オーバーのツーリングモデルがフラッグシップといえるでしょう。
しかし近年では排気量の大きなクラスよりも需要の高まりを見せる250㏄クラスにフラッグシップを投入する事例があります。ホンダは競争が激化している250㏄クラスにCBR250RRを投入。同車両は今までの250㏄クラスには見られなかったハイテク装備と質感の高い外装部品を備えたまさにフラッグシップモデルの雰囲気をまとうバイクでした。
今回紹介するPCXハイブリッドも人気が低迷する50㏄クラスの代わりに便利な足として人気の高まりを見せる原付二種クラスにリリースしたフラッグシップモデルといえます。
国内メーカーとしては初めてハイブリッドシステムを搭載した同車。ホンダがリリースした125㏄ハイブリッドスクーターのシステムはどのようなものか? PCXとPCXハイブリッドの違いはどのような点なのか? いつも通り一週間通勤で試乗してインプレッションします。
PCXハイブリッドシステムの鍵はACGスターターシステム
ホンダは同社のズーマーやクレアスクーピーなどの50㏄スクーターにACGスターターシステムを採用してきました。通常バイクは電気の力を使って停止状態のエンジンを目覚めさせます。ACGスターターとは簡単に言ってしまえばエンジンをかけるのと発電機を一つのユニットで行ってしまうシステムの事を言います。
PCXハイブリッドのシステムをシンプルにいえばACGスターターをエンジンのアシストに使うというもの。ハイブリッドというとトヨタのアクアやプリウスを思い出す人も多いはず。国産バイク初のハイブリッドシステムは車のようにモーターだけで走る事はありません。
PCXハイブリッドシステムは何のためのシステム?
PCXに搭載されるエンジンはホンダがパワーと燃費性能を高次元でバランスとりしたeSPエンジンです。このエンジンは原付二種クラスでもトップクラスの燃費性能です。実のところPCXとPCXハイブリッドの燃費性能の差はほとんどありません。では何のためにハイブリッドシステムをPCXに搭載したのかと言えば「はしりのため」。eSPエンジンは125㏄クラスの中でも性能評価が高いユニットです。125㏄という限りのある排気量では今後さらに性能の向上が進むとしてもスローペースであることは間違いありません。PCXハイブリッドのシステムは125㏄という排気量を超えた性能をもたせるための走行アシストを主としたシステムなのです。
PCXハイブリッドの装備をチェック
基本的な車体設計はハイブリッドシステムなしの「PCX」と共通としています。異なるのはハイブリッドシステムを搭載したために削られたラゲッジスペースとアシスト力を選択可能な走行モード、そして見た目の3点です。まずラゲッジスペースは約半分ほどになり大型のリチウムバッテリーが搭載されています。一般的な鉛のバッテリーと異なり小型・軽量化が可能で長寿命で自動放電がほとんどないのが特徴のリチウムイオンバッテリーですが、さすがにエンジンのアシストに使うほどのバッテリーなのでかなりの大型。PCXハイブリッドのラゲッジスペースはヘルメット一個収納するのがギリギリ可能なサイズとなりました。ヘルメットを入れたら他に何かを入れるのは不可能でしょう。
走行モードはD、S、アイドリングモードの3つが選択可能。Dモードはハイブリッドシステムのパワーと低燃費を目指したバランスのとれたモード、アイドリングモードはDモードで且つアイドリングストップ機能をオフにしたモードとなり、Sモードはアシスト力を強めたスポーツ性を高めたモードとなっています。個人的にはSモードでアイドリングアシストをカットしたモードも欲しかったです。
見た目的な部分ではカラーリングは独自のパールダークナイトブルーというオリジナルカラー。メーター内には走行モードの表示やリチウムイオンバッテリーの残量やチャージとアシストレベルなどが追加で表示。ポジションランプ部分は消灯時にブルーに見えるようになっています。
PCXハイブリッドの走りとは?
足回りには何も変更がないので違いがあるのはハイブリッドシステムによる走りの部分一点。ハイブリッドシステムの走りの違いのみ集中してインプレッションします。PCXハイブリッドには3つの走行モードがありますが、エンジン始動時はDモード。エンジン停止前に異なるモードに設定したとしても始動時にはリセットされてDモードとなります。Dモードはモーターによるアシストと燃費のバランスモードで、アクセルの開け初めにはしっかりとアシストが機能します。
150㏄クラスほどのトルク感ではありませんが走り出しのトルク感は125㏄に比べて優れており、エンジンの回転数もゆっくりと上がっていくので燃費も良さそうです。ACGスターターは作動時にほとんど音がなりませんが、アシスト時にも音はしません。言われなければモーターによるアシストがあることはわからないでしょう。Dモードに関しては、アクセルをゆっくり開けているときの走り出しと、レーンチェンジの際などに少し多めにアクセルを開けた際に働く印象です。
Sモードに変更するとアクセル開度に関わらず積極的にモーターアシストするようになり、アクセルに対してのレスポンスが良くなります。多めにアクセルを開けるとDモード使用時に比べてアシストが多めになり加速力も増す印象です。
普通に運転しているとDモード使用時は40km/hぐらいまでアシストがあり、Sモード使用時はアクセルの開け方などにもよりますが70km/hぐらいまでアシストがある印象です。
PCXは加速が非常にフラットですが、どのモードにしても走り出しのトルク感が増し、走りに抑揚が出てきます。メーカーも最近は性能を重視しながらも環境への配慮が必要になり、燃費性能が重視されるようになりました。結果的に燃費が良い車両は加速がマイルドになる傾向がありますが、燃費をそのままにアシストを入れることで走りに抑揚を加えた印象です。
PCXはリアキャリアの装着が比較的簡単なので荷物の積載用にリアボックスを装着しているユーザーも多いのが特徴ですが、タンデム走行時やリアボックスに荷物を積載した際にもトルクのあるハイブリッドシステムが効いているので加速が鈍くなる事はなさそうです。
PCXハイブリッドの燃費を計測してみた
カタログスペック上では殆ど燃費に差がないPCXとPCXハイブリッド。少し前にPCXに試乗した際の燃費は45km/L程度でした。今回も同じ通勤コースでの試乗だったので燃費を確認してみました。今回の試乗でのPCXハイブリッドの燃費は42km/Lでした。ハイブリッドなしのPCXよりも燃費が悪かったのですが、恐らく理由はアクセルの開けすぎ。
特に今回はSモードで走行する事が多かったのですが、走りにメリハリが出たのでアクセルを多めに開けて加速感を楽しんでしまったのです。それでも原付二種クラスとしては決して燃費が悪いほうではありません。燃料タンク容量も8Lなので連続航行距離は336kmという事になります。
規格外の原付二種モデルがほしいならPCXはぴったり
PCXやリード125などeSPエンジンを搭載したスクーターは加速がフラットです。決して「遅い」わけではなく、よどみなく加速するので結果的には「速い」のですがメリハリにかけるためバイクの走り自体が好きな人は好みが分かれるところでしょう。しかしPCXハイブリッドは燃費を維持しながら低速トルクを得ることで走りに抑揚が生まれました。PCXはマフラーの交換や駆動系のチューンなどで加速を鋭くすることもできますが、燃費性能は落とすことになります。
「燃費性能は大事なんだけど走りにもメリハリがほしい!」という方にはうってつけの一台と言えるでしょう。個人的にはマフラーや駆動系のチューニングをして、どこまで加速性能がよくなるのか試してみたいところ。PCXは人気車種なので今後マイナーチェンジやモデルチェンジでどのようにハイブリッドシステムが進化していくのかも楽しみです。
PCXハイブリッド関連リンク
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