2つのキャラクターをもつGTスポーツ
ポルシェ初の4ドアグランツーリスモの2代目。ボディサイズは全長5049mm×全幅1937mm×全高1427mm、ホイールベース2950mm(ターボ)、全長5199mm、ホイールベース3100mmのエグゼクティブも用意される
2002年にポルシェがSUVのカイエンをリリースしたときも世間は大いに驚いたものだが、それから7年後の2009年に4ドア(厳密には5ドア)サルーンのパナメーラを出すに及んで、ポルシェはスポーツカーメーカーであることをやめるつもりなんじゃないか、と思った人さえいた。実際、カイエンはバカ売れしていたし、ポルシェのエンブレムさえ付いていれば何だって売れそうな気配すらあったのだ。
もっとも、カイエンがナゼ売れたのかというと、もちろん、ポルシェというブランドの力も大きかったわけだが、決してそれだけではなく、乗れば乗ったで他ブランドのSUVとはまったく別種の世界観、ポルシェらしい=スポーツカー然とした乗り味、を持っていたからこそ、であった。それに関して言えば、初代のパナメーラも同様、否、背の低いぶん、いっそう強調されていたと言ってよく、4ドアセダンとしての高い実用性・日常性を備えつつも、立派にスポーツできるポルシェらしいサルーンだったことから、一躍人気を博したと言っていい。
そんなわけなので、21世紀前半のポルシェを語るときには、カイエンやパナメーラ、マカン(SUV)という実用姉妹モデルたちが大成功を収めてくれたおかげで、ブランドアイコンである911やリアルスポーツカーのボクスター&ケイマンは、(スポーツカーに対する環境が厳しくなるなかでも)ある意味自由に高性能化した、という事実を忘れてはいけないと思う。 パナメーラは2016年に第二世代へと進化した。ポルシェが主体となって開発した大型モデル用FRプラットフォーム(MSB)を使っている。あわせて、パワートレーンも刷新。日本仕様だけでも、3L V6ターボをベースラインに、2.9L V6ツインターボ(4S)、同プラグインハイブリッド(4E-ハイブリッド)、4L V8ツインターボ(ターボ、ターボS)、同プラグインハイブリッド(ターボS-Eハイブリッド)と、多彩なラインナップとなっている。 スタイリングも、大きく変わった。スタンダードボディがいっそうスポーツクーペらしいデザインになった一方で、ユーティリティ重視で後席を“2+1”の3人掛けとしたシューティングブレークスタイルの“スポーツツーリスモ”シリーズを新たに追加した。2タイプのデザインを与えることで、キャラクターをはっきりと二方向に分けてきたのだ。
イメージ的には、現行モデルの2車型を足して2で割ると、旧型のスタイルになる、といったところだろうか。ちなみに、ホイールベースを150mmも延伸させたエグゼクティブ仕様の設定もある。前作にも存在したが、ノーマルボディのホイールベースそのものが30cm伸びているから、その足元の広さは圧倒的。 “ポルシェ・アドバンスド・コクピット”を得たインテリアは、いっきにモダンラグジュアリーの頂点に達している。スポーツが“高級”となった時代を象徴するかのような雰囲気だ。もっとも、脂症の手をもつ筆者には、いちいち指紋が気になって仕方なかったが。センターコンソールまわりも、使い勝手が良いとは決して思わない。
ワインディングも街乗りもこなす“サルーン&シューティングブレーク”
パナメーラの国内での価格は1162万円(パナメーラ)~3044万円(ターボSEハイブリッド エグゼクティブ)。ターボは2377万円となる。スポーツツーリスモは1297.3万円(4スポーツツーリスモ)~2907.3万円(ターボS Eハイブリッド スポーツツーリスモ)
こと加速に関していえば、強烈のひとことだ。がっしりと硬い板の上でシートに頑丈に縛り付けられた身体がすっとんでいく、という感覚は、いかにも“ポルシェターボ”らしい。ホイールベースが長く、4WDということもあって、安定感も抜群。矢のように突き進む。アスファルトがタイヤと融合しているかのような接地フィールさえあった。 そこまでなら単によくできたGTカーで、パナメーラというクルマのキャラクターを考えれば、それだけの評価でも十分に多くのユーザーを満足させることができるはず。けれども、そこで終わらないのが、ポルシェだ。
ひとたびワインディングロードに繰り出せば、有り余るパワー&トルクと、スポーツカーのようにシャープでソリッドなハンドリングのおかげで、巨体を操っていることなどすぐに忘れさえてくれる。ステアリングフィールはどこまでも“適切に重く”、それでいて負担はなく、むしろ前輪の状況を気持ちよくドライバーに教えてくれた。
もちろん、街乗りにも不自由はない。大人しいドライブモードさえ選んでおけば、手足の動きに過敏な反応を示すことなど皆無。重量感と相まって、実にしっとりとしたライドフィールを提供する。 個人的な好みで言えば、スポーツツーリスモだ。ユニークなスタイルもさることながら、正にオールマイティに使えるスポーツカーであるという点に、あるようでなかった新しさを感じるからだ。
もっとも、このクルマを手に入れたとして、それを活躍させるだけのライフスタイルを持ち合わせていないことが、問題ではあるけれど。