「妊活中のセックスの頻度」は、不妊クリニックでもよく受ける質問の一つ
妊活をしていく中で、セックスの悩みはつきものですが、心身ともに疲弊しないことが大切です。
妊活中は、夫婦のセックスについて悩まれる方も多いもの。漢方のご提案をする上で問診で触れることもあり、そこから多くのご相談を頂きます。また、身近な方も含めて他人には直接相談しにくいためか、ネット上の誤った情報を信じてしまっている方も多く、また、かかるドクターによって指導が異なることもあるために、混乱されている方も少なくありません。
今回は、赤ちゃんが欲しいご夫婦のセックス回数を「妊娠率」と「夫婦関係」の点から解説させて頂きます。
<目次>
精子濃度を上げるための禁欲期間は必要? 自然妊娠希望なら不要
男性不妊のご相談でも、「禁欲期間は必要ですか?」というご質問をお受けしますが、自然妊娠を希望される場合に、禁欲期間を設ける必要はありません。よく、「禁欲期間がないと、精子濃度が薄まるのではないですか?」とご質問を受けますが、精液量は、確かに禁欲期間が4日程度までは増える傾向がありますが、運動率、精子濃度、正常形態精子の割合に関しては、禁欲期間に関わらず変動しないといわれています。
連日の射精があっても、精液所見は悪化しないので、排卵近くには禁欲することにこだわらず、3日以上のセックスをすることが望ましいと考えられます。ただ、いわゆる「子作りのためにセックス」のようになってしまい、セックス回数を増やすことを義務と感じてしまうと、体力的にも精神的にも辛くなってしまう方もいます。
中医学的な見解を加えると、東洋医学で内臓の総称である「五臓」のうち、生殖能力を司っている「腎」の働きが弱っている場合には、過度のセックスは負担となってしまうと考えます。「腎」の働きが弱っていて連日セックスすることが難しい場合には、できる限り妊娠しやすい時期に合わせてセックスをすることで、妊娠の可能性を高めることができます。
そこで、排卵が起きるタイミングと、卵子、精子の受精可能なタイミングから、もっとも子作りに適したセックスの時期を、次に解説します。
タイミング法を成功させる排卵日予測法・排卵が起きる時期
排卵時期を予測する方法は、- クリニックのエコーで卵胞チェックを行い、卵胞の大きさから判断する方法
- 基礎体温の周期、体温から予測する方法
- 排卵検査薬を用いる方法(※尿中LH値が20mIU/mlを超えると陽性となる)
などがありますが、多くの方がご自宅でできる方法として、2と3を利用されます。しかしそれぞれデメリットもあります。2の方法は基礎体温や周期が不規則な場合には正確性が欠けてしまいますし、3の方法は以下に説明するLHサージの偽陽性が続いてしまう方がいるため、やはり正確な排卵時期を知りたい場合には、クリニックでの卵胞チェックが最も正確でお勧めです。ただ、クリニックにいく時間が取れないというお話もよく伺いますので、その場合は3の排卵検査薬を用いた場合の排卵予測法を活用するのがいいでしょう。
排卵が起きるタイミングは、一般的に、
LHサージ(黄体形成ホルモン(LH)が一過性に放出され、排卵を引き起こす)の
- 開始から30~36時間後
- ピークからは12~18時間後
最も妊娠しやすいセックスのタイミングは受精可能な時期を考えて
卵子の受精可能な時間は排卵後6~8時間。精子は射精直後には受精能力がなく、子宮腔を進みながら約5~6時間で受精能を獲得し、およそ36時間経つと受精能は失われます。精子の生存期間は長いと1週間と聞いたことのある方もいると思いますが、受精可能な時間帯を考慮すると、排卵がある時点で、精子が受精可能な状態で待機していることが、妊娠率を高めるためには重要です。そのため、排卵日の前日、前々日のタイミングがもっとも妊娠しやすいといえます。
クリニックでの卵胞チェックを受けた場合には、ドクターからの指示がありますし、前述の排卵検査薬を用いた場合には、うっすらと陽性反応が出たその日、可能ならその翌日も、難しい場合には、1日おいてのタイミングがお勧めです。
タイミング法でのセックス後も、セックスを控える必要はない
排卵後のセックスは、「受精」に関しては可能性は低くなりますが、精液に子宮内膜がさらされることで、着床に対して、受精卵が異物として認識されるのを防ぐなど、いい影響を与えることができるとの報告が多くあります。そのため、排卵後、また人工授精後や、体外受精後もセックスを控える必要はありません。排卵日が特定できない場合も、神経質になることなく、セックスの回数が多い方が、妊娠の可能性を高めることができます。
妊活中のセックスについて、夫と妻それぞれの本音
漢方外来でお話を伺っていると、妊活を意識し始めてから、まずは妊娠しやすい時期に合わせて、タイミング法でセックスを試みている方が多いのですが、とても仲良しなご夫婦でも、性生活がなく、悩まれている方もいらっしゃいます。基礎体温表で、セックスをした日を記載していただくと、排卵前日だけのセックスになっている方も多く、「排卵期以外はセックスをしない」という声を非常に多く頂きます。
女性、男性ともに、「セックスをしたい」という欲求について伺いますが、性欲自体がない方、性欲がないわけではないが疲れてできない方、また妊活のためのセックスをするようになってから夫婦間では性欲が高まらなくなった方など、状況は様々です。
「セックスレスです」
「主人の元気がないんです」
「私が行為が苦手です」
「正直面倒です」
「子供が気になって、性生活ができません」(二人目不妊の方)
「二人とも、疲れてその気になれません」
「トラウマがあります」
「性交痛があるんです」
「治療を始めてから、性行為はしなくなりました」
といった様々な声があり、妊活にいいといわれるセックスの頻度やタイミングは知識として知ってはいるものの、いざ取り組むとなると、感情や疲労、日々の体調に左右されて、セックスが辛くなってしまっている方は少なくないと感じます。
それでも、赤ちゃんを授かりたい! それなら、人工授精、体外受精などの治療、もしくはセックスが必要です。
まずは自然妊娠を希望する場合は、女性は排卵を意識して、体調を気遣ったり、治療中なら排卵誘発剤を服用したり、卵を育てる注射を打ったりして、ようやく排卵!という日に備えます。
一方で、男性不妊のご相談では、
「普段は性欲があるのですが、したい時に誘っても拒まれて、この日が排卵日だから、この日にお願いね!と言われると萎えてしまいます。最近はそう言われると飲みに行ってしまうようになりました」
といった声があるのも事実です。
たとえ子供が欲しいと思っていても、夫婦のコミュニケーションとしてのセックスは不要と言われているような気持ちになってしまうからでしょう。また、日々のお仕事が忙しく「排卵日に頑張らないと、と思っていても、疲れで性欲が失せてしまい、一刻も早く休みたいと思ってしまう」というご相談も多く頂きます。
排卵に備えていた女性としては、やるせない気持ちになってしまうことも自然な感情でしょう。
夫婦によって背景は異なりますが、このようなすれ違いが続いたり、どちらかがセックスに対して不満があると、夫婦関係にまで影響します。また、相手の心身を気遣うあまりに、性生活の話題を避けている場合は、時間だけが過ぎてしまい、向き合った時には、年齢が進み妊娠が難しくなってしまっているケースもあります。
性行為に対するトラウマなど心の問題を抱えている場合には、性生活が負担になっている側の感情を大切にしながらも、お互いに相手の気持ちに寄り添い、歩み寄ることを諦めなければ、二人にとって幸せなセックスを一緒に考えていけるでしょう。また、疲労や性交痛などの身体的な問題の場合には、必要な医療を受けたり、ケアを取り入れることで改善される事例も多いです。
漢方外来でも、疲労、ストレスによるセックスレス、勃起障害のご相談を受けた時には、状態を伺って、心身の回復に向けた処方を使うことで改善のご報告も頂いています。妊活中の性生活は、愛情を深め合うのではなく、どうしても義務的になりがちです。その中でも、性生活について夫婦の間で価値観を共有できていると、妊活で追い込まれにくくなります。
実際の妊活中のご夫婦のご相談では、生物として妊娠しやすいセックス回数と、夫婦にとってベストなセックス回数は、必ずしも一致しないと感じています。
妊娠しやすいセックスについて夫婦2人で学んだ上で、2人にとって心地よい、ベストなセックスの形と頻度を見つけることができるといいですね。
【関連記事】