スギ花粉症治療薬「シダキュア」とは
スギ花粉症の根治が期待できる新薬・シダキュアが登場
まずスギ花粉症の治療には「対処療法」「アレルゲン免疫療法」の2種類があります。
■対処療法
抗アレルギー薬を服用し、不快な症状を抑える。
■アレルゲン免疫療法
少量のアレルギー反応を起こす物質であるアレルゲン(本記事のケースではスギ花粉)を継続的に投与し、過剰なアレルギー反応を抑制する。
シダキュアは後者のアレルゲン免疫療法にあたります。この治療法について、もう少し詳しく以下で解説を進めましょう。
アレルゲン免疫療法とは……「減感作療法」「舌下免疫療法」
アレルゲン免疫療法は、しばしば「減感作療法(げんかんさりょうほう)」とも呼ばれ、シダキュアのようにアレルゲンを舌の下から吸収させるケースでは「舌下免疫療法(ぜっかめんえきりょうほう)」とも呼ばれます。実はシダキュアが登場する前にもスギ花粉におけるアレルゲン免疫療法は存在しました。しかし、頻繁な注射が必要だったり、治療薬が冷蔵庫保存の液状のものであったりして十分に普及したとは言えませんでした。シダキュアはそういったデメリットを解消した点が大きな特徴になるようです。
上記の通り、アレルゲン免疫療法は、毎日少しずつアレルギー反応を起こすアレルゲンを体内に取り込むことで、アレルゲンに対する過剰な反応を起こりにくくする治療法です。
なんだか早口言葉のような解説になってしまいましたが、簡単に言えば「毎日、スギ花粉の成分をちょっとずつ身体に取り入れて、スギ花粉に対して鈍感になろう!」という治療法だと言えるでしょう。
スギ花粉に対して徐々に鈍感になれば、身体はスギ花粉が体内に入ってきても、過敏にクシャミや鼻水を起こしてこれらを追い出そうとしなくなります。つまり、アレルゲン免疫療法はスギ花粉症の根本治療につながる治療法なのです。
シダキュアとシダトレンの違い
毎日コツコツとアレルゲンを取り込むアレルゲン免疫療法。つまり必然的にシダキュアの中身は「スギ花粉」そのものになります。より厳密にはスギ花粉から得られた抽出物(エキス)でできています。このように聞くと黄色くゴワゴワした花粉の塊のような錠剤と思われるかもしれませんが、外観は一般的な錠剤と変わらず、意外なほど真っ白で薄い錠剤です。
補足になりますがシダキュアが登場する以前からシダトレン(こちらも鳥居薬品)という薬がありました。シダトレンはシダキュアと同様にアレルゲン免疫療法を用いたスギ花粉治療薬です。一方、シダキュアとシダトレンの大きな違いは前者が錠剤であるのに対して、後者は液状で冷蔵庫保管が基本という点です。
そのため、シダトレンは旅行先に持って行くときなどは保冷剤と一緒にする必要がありました。その点、シダキュアは常温で保管が可能で、コンパクトなので携帯性が高いと言えるでしょう。保管のしやすさや携帯性の高さは継続服用を後押しするものです。したがって、個人的には今後は徐々にシダキュアがシェアを伸ばしていくのではないかと考えます。
シダキュア処方までの流れ
ここからは具体的なシダキュアが処方されるまでの流れについて、私自身の体験を交えながら解説します。私もスギ花粉症があり、大体2月頃になるとクシャミ、鼻水、目のかゆみ、目やにの増加といった症状が出始めます。多くの場合は漢方薬で改善できるのですが、スギ花粉飛散量が特に多い年は難儀してしまいます。そこに今年はシダキュアの処方が開始されるというニュースを聞き、2018年の夏に服用を決意しました。シダキュアを市販薬ではなく、病院やクリニックなどの受診が必要な処方薬です。そのため、まずは耳鼻咽喉科やアレルギー科などの受診からスタートします。一点注意が必要なのは、シダキュアはどの耳鼻咽喉科でも処方してもらえるわけではないということです。処方できる医師は、特定の講習を受けている医師に限定されているため、スギ花粉症がありシダキュアを試してみたいと処方を希望される場合は、受診予定の病院・クリニックのホームページや電話等で、事前確認されるのがよいでしょう。
病院では、スギ花粉も含めたアレルゲンのチェックを行います。意外と見落としやすい点なのですが、シダキュアはあくまでも「スギ」の花粉症治療薬です。したがって、シダキュアはスギ以外の花粉に対しては無効なのです。もしスギ以外にもブタクサやイネなど幅広い花粉、くわえてハウスダストに対してもアレルギー反応がある場合は十分な治療実感を得られない可能性が高いです。
私の場合、スギ花粉への反応レベルが他のアレルゲンよりも桁違いに高かったので、シダキュアの適応となり、処方されることになりました。
シダキュアの副作用・副作用への対策法
シダキュアの服用方法は上記の錠剤を1分間、舌下に保持しその後に飲み込む
シダキュアを調剤する薬局でも薬剤師から併用薬や持病のチェックを受けます。これはシダキュアが「スギ花粉のエキス」といっても薬ですので、併用に注意が必要な薬や体質もあるからです。
耳鼻科に戻った後は実際に処方医の前で服用へ。服用方法はシートから出したシダキュアを舌下に1分間置き、その後は唾液と一緒に残りを飲み込みます。
上記でシダキュアを「真っ白で薄い錠剤」と表現しましたが、舌の下に置いたときは「あ、意外と大きい」と感じました。しかし、錠剤はすぐに溶け出すので服用しづらいと感じることはありませんでした。
その後、病院の待合室で約30分ほど身体に問題が起きないかを確認するために待機。特に目立った問題はありませんでしたが、小さな針でチクチクされたような痒みが喉と耳に生じました。処方医にこのことを伝えると喉と耳の診察へ。しばしば起こる副作用らしく、診察の結果も特に問題はないとのことで初回の受診は終了しました。
上記の通り、初回受診時はどうしても時間がかかるので、スケジュールに余裕のある日を予約するのが良いでしょう。
シダキュア服用時の注意点
初回服用時、服用方法と副作用チェックにくわえて服用タイミングの注意も受けました。まず、シダキュア服用後の5分間はうがいや飲食は禁止となります。くわえて、服用前後の2時間は激しい運動、アルコール摂取、入浴も禁止となります。後者のポイントは服用「前後」の2時間である点です。薬を夜に服用する習慣がある方はシダキュア服用時を中心として合計4時間は入浴できないことになるので注意が必要です。
私の場合はシダキュアを職場に持ち込んで、昼食後に服用しています。職場なら万が一急な副作用でアナフィラキシーショックによる呼吸困難や意識の低下があっても一人きりということはなく、私以外のスタッフがいるので助けてもらえると考えたのも、昼食後を選んだ理由です。
シダキュアの推奨服用期間は3年以上
私の場合は上記のような流れで2018年からシダキュアによる治療が始まりました。これは文字通り「最初の一歩」です。なぜなら、シダキュアは原則的に3年以上の治療が推奨されているからです。「あ、もうオリンピックの年か。時間が経つのは早いなー」と4年ごとに感じている方でも、毎日治療を続けるとなると「3年はやはり長い……」と思うのではないでしょうか。
この点は処方医側もとても心配しているようです。実際に私も処方医から「治療を完走できるのは海外のデータでは1~2割くらい」「効果が十分に発揮できない人もいるけれど、大丈夫?」「本当に始めますか?」という心を揺さぶられるコメントを頂きました。
私の場合、薬剤師という職業柄にくわえて本記事の「完結編」を先々書かなければならないという義務感が後押しして何とかなると考えています。
一方で確かに3年は長く、一般の方の脱落率が高いというデータも頷ける部分はあります。
シダキュア服用の個人的体験談:服用から3年経過した現在
私がシダキュアを服用し始めて2021年で3年が経過しましたので、途中経過をお伝えしたいと思います。服用状況ですが3年間、ほぼ毎日服用することはできました。「シダキュアは職場に到着したらまず服用」というルールを作り、ルーティン化できたのが良かったのかもしれません。花粉が飛び始める2月からは内服と点眼の抗アレルギー薬も併用しました。肝心の効果ですが、鼻水・鼻づまりやクシャミといった症状はほぼゼロ。一方で長時間外出した日は目のかゆみがやや強く出ました。この症状も「外出後は必ず点眼薬を使う」を改めて意識してほぼ解消されました。コロナ禍でマスク着用を徹底したのも症状軽減に一役買っていたかもしれません。
花粉症の症状はその年の花粉飛散量に比例しやすいので、単純な比較は難しいのですが昨年よりもグッと過ごしやすくなった印象です。この調子で継続を頑張りたいと思います。
新薬もメリットとデメリットの見極めが大事
シダキュアのメリットとデメリットを事前に確認することが大切
下記ではここまでに紹介しきれなかった点も含め、シダキュアを用いたアレルゲン免疫療法のメリットとデメリットをまとめました。
シダキュアはスギ花粉症根治の根治が期待できる反面、治療は長丁場となります。これらを比較して、実際に治療を行うかどうかを判断されるのが良いでしょう。
■シダキュアの効果・メリット
- スギ花粉症の根治が期待できる
- 根治できた場合、スギ花粉症のシーズンに抗アレルギー薬を服薬せずに済む
- シダキュアは錠剤なので持ち運びや保管が容易
- 小児でも服用可能(問題なく上記の方法で服用できるなら)
- スギ以外の花粉症には無効
- 3年以上の治療期間が推奨されている
- 服用した全員が確実に根治できる保証はない
- 服用直後や前後に飲食や入浴などの行動に制限がある
- 服用初期などに副作用が現れやすく、場合によっては治療中止もあり得る
- スギ花粉が多い時期は治療開始ができない(基本的には夏以降に開始)
- シダキュアの効果が現れるまでは抗アレルギー薬の併用が必要
- 持病に気管支ぜんそくや免疫系のトラブルがある方は使用できないこともある
- 数は少ないもののシダキュアとの併用に注意が必要な薬がある
- 花粉症シーズン以外の期間も通院の必要がある
上記で挙げたメリットとデメリットを照らし合わせて、シダキュアの治療を検討されるのがよいかと思います。もし治療を開始する場合は、通院の負担が少ない自宅や職場近くの病院を利用するのが良いでしょう。