タワーマンション

タワーマンションの大規模修繕工事ってどこが違うの?

31階建てのタワーマンション「ライオンズマンション コスタ・タワー浦和」で、第1回目の大規模修繕工事が行われています。工事が完了に近づき、管理組合による確認会を実施するにあたって、報道にも公開するというので見学してきました。一般的なマンションの大規模修繕工事とタワーマンションでは、どういった違いがあるのでしょうか?

山本 久美子

執筆者:山本 久美子

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マンションの大規模修繕工事とは?その手順は?

タワーマンション

第1回目の大規模修繕工事が終わる「ライオンズマンション コスタ・タワー浦和」


まず、一般的なマンションの場合の大規模修繕工事について説明しましょう。

最近では、12年~15年程度の周期で大規模修繕工事を実施するのが一般的です。特に、外壁がタイル張りのマンションの場合は、13年周期で実施することが多いようです。

というのも、下を通行する歩行者などにタイルが落ちて危害を与えることのないように、10年を超えない時期に危害を与える恐れのある部分のタイルの全面打診を行う義務がありますが、3年以内に外壁の修繕工事が行われることが確実であれば全面打診は必要ありません。いずれも足場をかける必要があることから、13年周期で大規模修繕工事を行うことを選択するマンションが多いという理由です。

第1回目は建物の外側、つまり外壁の補修工事、屋上・バルコニーなどの床の防水工事、鉄部塗装などの建築系の改修が中心となります。第2回目、第3回目になると、建築系に加えて、給排水設備やガス・電気などの配管・配線、エレベーターなどの設備系の改修も加わります(設備系の改修の一部は、大規模修繕とは別の時期に実施する場合もあります)。

筆者が住む8階建て70戸程度のマンションも、第1回目の大規模修繕工事を実施しました。そのときは、おおよそ以下のような手順を踏みました。

■大規模修繕工事のおおよその流れ
・建物診断の実施
    ↓
・(その結果を受けて、大規模改修の実施を前提に)修繕委員会の設置(※1)
    ↓
・建築士などのコンサルティング(コンサル)会社の選定(※2)*
    ↓
・(コンサル会社の助言を受けて)大規模修繕工事の範囲を決定
    ↓
・(コンサル会社の工事計画・仕様案に基づいて)複数の施工会社に相見積もりを依頼
    ↓
・面談によって、各社の見積もりと工事プラン案を確認
    ↓
・(コンサル会社の助言を受けて)大規模修繕工事の施工会社を決定*
・(コンサル会社・施工会社の助言を受けて)実際に行う修繕工事の内容や費用、工期を決定*
    ↓
・管理組合向けに説明会を実施
    ↓
・大規模修繕工事を実施
    ↓
・(工事終了後、足場を解体する前に)管理組合(修繕委員会)による確認会
    ↓
・大規模修繕工事完了

*筆者のマンションでは、予算の発生を伴う「コンサル会社の決定」と「施工会社の決定と実施工事の詳細決定」の各段階で、管理組合の総会による承認を取る段取りを取った。

※1:マンションの規模によって修繕委員会を設置しない(理事会主体で実施)場合も多い
※2:コンサル会社と施工会社が同じ場合もある。なお、大京グループが管理受託しているマンションのうち、コンサル会社利用率は約14%で、管理会社がすべてを請け負う場合も多い


タワーマンションの大規模修繕工時の場合も、基本は一般的なマンションと同じです。とはいえ、大規模修繕工事の内容については、タワーマンションならではの大きな違いもあります。

タワーマンションの大規模修繕、階数が高いことで何が違う?

プレスリリースより

タワーマンションの大規模修繕工事のイメージ(出典:大京グループのプレスリリースより)

タワーマンションとは、一般的に「20階建て(地上60m)以上のマンション」を言います。

通常のマンションでは、修繕工事に手を付ける前に、建物の周囲に足場を下から組み上げ(枠組足場)て、建物全体を養生(塗料やゴミが飛び散らないように網目状のシートでおおう)します。しかし、タワーマンションの場合、その高さゆえに、枠組足場だけというわけにはいきません。

「ライオンズマンション コスタ・タワー浦和」(地上31階建て)の大規模修繕工事の施工を担当している大京穴吹建設によると、低層部に「一部枠組足場」を組み、それ以上の階の外壁では「ガイドレール式ゴンドラ足場」を、建物の中央に吹き抜けがあるので吹き抜け側には「ゴンドラ足場」を利用したそうです。

ガイドレース式足場の例

建物の角側のゴンドラが「ガイドレール式ゴンドラ足場」。縦にガイドレールが設置してあるのが分かる。左側のタイル張りの外壁にあるゴンドラは、ガイドレールを取り外した後なので、揺れが大きいように見えた。


「ガイドレール式ゴンドラ」とは、建物の外壁に仮設のレール(ガイドレール)を設置して、ガイドローラーを備えたゴンドラで昇降するもの。高層になるほど風が強くなるので、揺れが少なくなる点が特徴です。

大規模修繕工事は、マンションの西側(1工区)と東側(2工区)に分けて、外壁側に10個のゴンドラ、吹き抜け側に5個のゴンドラ、計15個のゴンドラを使って、1工区が終わった後に2工区に移設する工程を組んで実施されていました。

ゴンドラの配置図

ゴンドラの配置図


また、このマンションの場合は1・2階に店舗があり、24時間営業のコンビニもあることから、足場で店舗外側をおおわないように、3階の庇部分にゴンドラが着床する足場や養生を設置して、1・2階は「高所作業車」を使って工事を行ったということです。

さて、2工区目の修繕工事の確認会を管理組合で行うということで、見学日は報道陣もゴンドラに乗ることができました。写真でわかるように、ゴンドラ自体に養生がしてあると、建物側に養生をする必要がありません。実際に作業がある期間以外は視界がふさがれないというのは、居住者にとってはメリットです。

ゴンドラ

安全性に配慮して、報道陣でもヘルメットとハーネス型の安全ベルトを身につけてゴンドラに乗り込む

上がるゴンドラ

ゴンドラがガイドレール(ゴンドラの左右にある細いレール)を使って昇っていく。筆者は高所恐怖症なので、ゴンドラには乗れなかったのが残念

写真

建物の東側(手前側)に設置されているゴンドラ。ただし修繕工事が完了に近づいている ので、ガイドレールは取り外されている


ゴンドラは昇降するだけなら40分で往復できるのだそうで、思ったより早いという印象を受けました。また、タイル側のゴンドラは、すでにガイドレールを取り外しているので、レールなしで昇降します。下から見ていると、ロープだけなのでけっこう揺れているように感じました。

このように、どういった足場をどう利用していくかは、大規模修繕工事の工期や費用に大きく影響します。ところが、実際にはタワーマンションによって、それぞれ建物の形状や店舗の有無などの条件が変わります。足場をどうするかの「仮設計画」が、一般のマンションと大きく違う第一の点です。

第二のタワーマンションならではの違いは、風の影響と落下物の対策です。

タワーマンションは、高層になるほど風が強くなるので、安全性を配慮して、風速計を設置して風の強いときは工事を中断する必要があります。また、落下物の危険性が高くなるので、作業部分を養生するのは当然ですが、地上に立ち入り禁止区域を確保するなどの対応も必要となります。

さらに、タワーマンションによっては、ホバリングスペースや免震装置などの特殊な共用施設や設備が付属している場合もあります。それらの施設や設備をどのように改修するかによって、大規模修繕工事の内容が変わってきます。特殊な共用施設・設備があるかも、大きなポイントになります。

タワーマンションの大規模修繕、総戸数が多いことで何が違う?

タワーマンションに限らず、大規模マンションに共通することですが、総戸数が多くなることで管理組合で合意形成を取るのが難しくなる場合もあります。

「ライオンズマンション コスタ・タワー浦和」(住戸 216 戸、店舗・事務所 15 戸、総戸数231 戸)の修繕委員会によると、費用の捻出が大きな課題だったと言います。

このマンションでは、分譲時に修繕積立金が3年ごとに増額される計画となっていました。ところが、管理組合では計画通りの増額を行ってこなかったために、大規模修繕工事の費用が不足するということが判明しました。そこで、第9期の管理組合で「修繕積立金委員会」を立ち上げ、まずは修繕積立金の値上げに取り組みました。結果として、それまでの金額の約3.5倍に引き上げることに合意し、第2回、第3回の大規模修繕工事も含めて費用の捻出が可能になりました。

この合意形成の経験が活きて、修繕積立金の委員会が発展して修繕工事の委員会になり、大規模修工事は順調に進んだそうです。具体的には、第9期の通常総会で修繕委員会を正式に発足させ、第10期の通常総会で公募によりコンサル会社を決定し、第11期の臨時総会で相見積もりにより施工会社を大京穴吹建設に決め、2017年6月15日から大規模修繕工事に着工し、2018年6月末に完了する予定となりました。

また、大勢の人が居住すること、大規模修繕工事の工期が長くなることもあって、工事中の状況説明やクレーム対応も大きな課題です。

告知ボートの写真

1階エントランスホールに設置された告知ボード


このマンションでは、複数箇所に告知用のボードを設置して、工事関係者の紹介、工事の工程の案内、現時点の工事内容の説明、洗濯物が干せない住戸の案内、補修工事で使用する建材のサンプル展示などを実施していました。また、コミュニケーションボックスを設置して、居住者の要望を確認したり、それに対する回答をコミュニケーションボードに掲示したりといったこともしていました。

通常のマンションの大規模修繕工事でも、同様の告知などをしていますが、工期が長く居住者が多いことから、よりきめ細かい対応が必要になると思います。

タワーマンションの大規模修繕の工期や工事費用は?

さて、このマンションの場合、工期は12.5ヶ月、工事費用は約3億3000万円(税別)でした。

筆者が過去に取材したタワーマンションの大規模修繕工事では、工期が2年や2.5ヶ月という事例がありました。工期が長かったタワーマンションは、上層部と中層部、下層部で形状が異なっていたので、足場の組み方も複雑になっていました。このマンションの場合は3階から上が同じ形状になっていることが、12.5ヶ月で工事が完了になったのだと思います。

一方で、このマンションは店舗や事務所が併設されているという個別性もあります。このように、タワーマンションとひと口に言っても、通常のマンションより「物件ごとの個別性が大きい」ので、仕様選定や施工の難易度が高く、さまざまな工夫を求められるというのが、大規模修繕工事における大きな特徴です。

では、タワーマンションの場合は通常のマンションよりも工事費用が高くなるのでしょうか?

足場を移動させながらの工事になるので、タワーマンションの場合は、どうしても工期が長くなります。その分だけ人件費がかかるという側面はありますが、効率よく進められる工事もあったりして、タワーマンションごとに適正な工事費用は異なります。したがって、一概には言えないということのようです。


大規模修繕工事といっても、一般的なマンションとタワーマンションでは違いがあることがお分かりいただけたでしょうか?これからタワーマンションの購入を検討している読者の方に、参考になればと思います。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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