リンダ・グラットン教授

『ライフ・シフト』著者のリンダ・グラットン教授


先日、「Empowered Woman Japan 2018」(運営事務局:日本マイクロソフト)という会議で、ベストセラー書籍『ライフ・シフト』の著者であり、「人生100年時代」の言葉の提唱者であるロンドンビジネススクールのリンダ・グラットン教授と、そんな近未来の「理想的」とも言える生き方をされている「世界最高齢のアプリ開発者」若宮正子さんと出逢いました。

そこで、人生100年時代の根拠となるデータと、お二人の生き方と言葉から、「今後どう生きたらいいのか」を探求します。

「人生100年時代」が注目を浴びた理由

リンダ・グラットン教授は、著書『ライフシフト』(※)のなかで、2つの試算を紹介しています。

まずは、
  • 先進国にいるいまの20歳は100歳以上
  • 40歳は95歳以上
  • 60歳は90歳以上
まで生きる確率が、5割以上あるというもの。

そして日本に限って言えば、
2007年に生まれた子どもの半分が107歳まで生きるとのこと。

こうした試算から
「未だかつて経験したことがないくらい長生きする時代が、近い将来やってくる」
「我々、現役世代とその子どもたちは、定年までの貯蓄と年金だけでは絶対足りない年数を生きる可能性が高く、今までの生き方では適応できないため、長寿の恩恵を享受できるようなものへと、生き方を変える必要がある」
と注目を浴びるようになったのです。

では、長寿の恩恵を享受できるようにするには、何をすればいいのでしょうか?

人間だからできることをし、有形・無形資産を増やす

グラットン教授によると、今後、益々テクノロジーが進化し、多くの仕事がロボットと人工知能による代替が進むことが予測されるなか、長寿の恩恵を享受するためのカギは、「人間だからできることをすること」と「有形資産だけでなく、無形資産を増やすこと」にあるとのこと。

「人間だからできること」というのは、人に教えたり、やる気にさせたりする等の創造力や問題解決力、共感力や社交力、認知能力や状況適応力等の活用です。

人間だからこそ持っているこうした力を活用しながら、お金等の有形資産だけでなく、無形資産も増やすことがポイントです。

ところで、無形資産とは、何なのでしょうか?

生まれつきの要素を省くと、人生100年時代に必要な無形資産は、次の3つ。
  • スキルや知識等の、生産性を高めるための「生産性資産
  • 健康や、パートナーや友人等との良好な関係等の、活力を高めるための「活力資産」。
  • 自分を理解し、多様性に富んだ人的ネットワークがあり、未知の世界での経験にオープンである等の、変化をもたらすための「変身資産

少し漠然としていますので、一例として、近未来の「理想的な生き方」をされていると言える、「世界最高齢のアプリ開発者」の若宮正子さん(83歳)の生き方をご紹介しながら、解説しましょう。

「世界最高齢のアプリ開発者」若宮正子さんの生き方と言葉

若宮正子さん

世界最高齢のアプリ開発者・若宮正子さん


若宮さんは、60歳まで、典型的な「昭和の生き方」をされていました。
その生き方というのは、教育を受けた後、定年まで働き、その後、現役を引退し老後生活を送るというもの。

しかし若宮さんは、こうした「教育、仕事、引退から成る3ステージ」の生き方で終わらず、「人生100年時代の理想」ともいえる生き方へと移行されました。

きっかけは、定年退職後、母親の介護をしながら、60歳からパソコンの勉強を始められたこと。

孤独になりがちな介護中に、ネットで様々な人たちと交流をされていたといいます。

そして母親を看取られた後は、同世代との交流をさらに深めるために、高齢者を対象としたパソコンサロンをご自宅で始められました。

そこで、集まってくれたサロンメンバーに興味を持ってもらえるように「高齢者にとっても面白いパソコンの学習教材をつくろう」と、エクセルで柄をデザインする「エクセルアート」を考案されたのです。

さらに、「高齢者が楽しめるゲームがないから、つくってもらいたい」と思い、エンジニアに相談したところ、「プログラミングを学べば、自分でつくれるんじゃない?」とアプリ開発を提案され、81歳から、そのエンジニアからスカイプを使ってプログラミングを学ぶことに。

そして翌年、見事、「雛壇」アプリの開発を成功されたのです。

いまでは、「世界最高齢のアプリ開発者」として、アメリカのアップル社や国連にも招聘されたりしています。

つまり、若宮さんは、
定年退職後、母親の介護をしながら、
  • パソコンを学ぶという形で、「生産性資産」を増やした
  • ITを活用し、家にいながら人と交流するという形で、友人関係を充実させ、「活力資産」を増やした
母親を看取られてからは
  • パソコンサロンを始め、さらに友達を増やし「活力資産」を増やした
  • エンジニアにアプリ開発を提案されたときに、「プログラミング」という新たな分野にひるまずにチャレンジするという形で、「変身資産」を増やした
とそれぞれ「無形資産」を増やし、それらをうまく仕事(=有形資産を生み出す活動)へとつなげていかれたのです。
(ただ「計算して、無形資産を有形資産につなげた」というより、好奇心に従い、やりたいことをやり、多様な友達を増やし、交流を深めるという姿勢で、日々、過ごしていたら、結果として仕事にもつながった、という自然な流れだったようです)

また、その仕事も、「人間だからできること」をされました。

高齢者も楽しめる「エクセルアート」を考案されたことや、「ひな壇」アプリを開発されたことは、いずれも
「高齢者のパソコンへの苦手意識や、現在のエクセルやゲームに対する不満を理解し、高齢者が楽しいと感じるものを創る」
という認知能力、共感力、問題解決力、状況適応力、創造力を活用した働き方と言えます。

企業に雇用されるだけでなく、新たな分野を探求したり、仕事を創り出したり、過去の経験を活かしながら複数の職を持ったり…
その時々の状況に合わせて、柔軟に生きる。

こうした生き方こそ、「人生100年時代の理想的な生き方」と言えるのではないでしょうか?

現在、仕事生活を終えたら、引退生活に入る人は多いし、「介護か、仕事か」「出産・育児か、仕事か」と二者択一で考える人も多いものです。

しかしせっかく長寿の恩恵を享受できる時代に生きているのに、それではもったいない。

若宮さんの生き方を見ていると、
「仕事生活を終え、引退(介護)生活を送った後、また仕事生活に戻ってもいいんじゃない?」
「介護も、仕事も。もっといえば、出産・育児も仕事も。やりたかったら、状況に応じて両方できるように、自由にやればいいんじゃない? 人生は意外と長いのだから」
「そして、どんな環境下でも無形資産は増やせる」
と感じました。
そして、それこそが、100年という長い人生、年金と定年退職までの貯金だけではとても賄いきれない年数を生きなければならない、私たち現代人の幸せな生き方なのではないでしょうか?

ただし、そうした長寿の恩恵を享受できるような生き方を多くの人たちがするためには、キャリアを中断すると生涯所得が大幅に少なくなったり、柔軟なスケジュールで働く人が昇進の確率が低くなったりして不利益を被る、といった現在の労働環境の問題を、今後、急速に解決していく必要があります。

実は、それこそが真の「働き方改革」だと私は考えますが、皆様はどう思われますか?

さいごに、そんな若宮さんからのメッセージをお伝えします。

「いつでも、どこでも、働き、学び、毎日を楽しむ人生。
自分なりに社会に役立つことを目指す人生。
そんな人生にするために、大切なのは、次の3つ。
新しいことをやってみる。
友達を大切に、友達の力を借り、友達の役立つことをする。
そしてテクノロジーとも友達になる



世界最高齢アプリ開発者、ひな壇アプリ、若宮正子

「世界最高齢アプリ開発者」の若宮正子さんと著者


【謝辞】
本稿の確認をしてくださった若宮正子さんに深謝申し上げます。

【参考】
※ リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット著(池村千秋訳)『ライフシフト~100年時代の人生戦略』東洋経済, 2016年.
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。