1年の契約と一生涯の契約、どちらが安心?
近い未来を考えるか、さらにその先を考えるか……?
筆者は「1年更新が良い。終身契約は一考にも値しない」と思っています。契約内容が更新されないことが、大きな不安材料だからです。
これは、歴史が教えてくれることでもあります。一般に保険や共済の保障は「定額」です。契約時に決められた給付額がいつまでも変わらないわけです。「都道府県民共済」の「生命共済(掛け金2,000円コース)」を例にしてみましょう。
病気入院に対する保障が始まったのは1977年。その時の日額は1,500円でした。大卒初任給が10万1,000円ほどだった頃のことですから、41年後の今となっては少額に感じられるでしょう。定額契約は、貨幣価値の変動に弱いのです。
「都道府県民共済」では、商品改訂の際、既存の契約も新しい保障内容に移行する措置が取られてきたために、古い契約が陳腐化することは回避できているはずです。しかし、少なくとも筆者は、保険会社が同じような措置をとった例を知りません。保障内容が時代に合わなくなったと認識した加入者は、悩ましいことになると思われるのです。
また近年では、入院保障自体の必要性を疑う人もいます。政府は2025年までに一般病床の大幅削減を目指しており、これが実現すると、平均入院日数が短縮されるに違いないからです。
つまり「入院保障」の価値が今より下がることになるのです。2016年度の個人向け保険における入院給付金支払額は、1件当たり10万6,000円弱です(※)。平均値は一部の高額な給付事例により上がる傾向があることから、実際には数万円程度の給付が一般的なのだろうと推察します。
さらに給付額が下がる事態を想像すると「数万円のお金のために保険に入る必要はない」と考える人がいても、不思議ではありません。入院日数に連動した保障内容が「変わらないこと」が、弱みになっているわけです。
このように、長期契約であればあるほど、環境の変化など諸々の不確実性に対応し辛いことはおわかりいただけるでしょう。「サイズやトレンドの変化をも不問に出来る『一生モノ』の服が本当にあるのだろうか?」と想像してみるとよいかもしれません。
「願望」が「思い込み」に変わってしまう
それでも、一生涯の保障を好む人が多いのはなぜでしょうか。筆者は「ずっと安心していたい」という願望が、終身型の保険に加入することでいつの間にか「ずっと安心できる」という思い込みに変わっているように感じます。「高齢になってから保障が切れては困る」
「老後こそ手厚い保障が欲しい」
「一定期間で更新する保険で更新時に値上がりするのは嫌だ」……。
そういった気持ちはわかるのです。
しかし、大人の常識で考えてみてほしいと思います。入院・通院・手術・介護などは、加齢とともに誰にでも起こりがちなことになります。死亡に至っては確率100%です。手頃な料金で手厚い保障が得られるはずがありません。
保険や共済は決して万能ではなく、「向いていること/向いていないこと」があるのです。向いているのは、現役世代が急死するような「頻発しない事態への備え」です。発生率が低いため、安い料金で大きな保障を提供できます。
また、確率論が通用することも重要です。たとえば、「うつ病保険」が販売されていない理由はいくつかありますが、保険会社で商品設計に関わっている人によると、患者数が今後どれくらい増えるのか不透明であることも要因のひとつだそうです。
実際、介護に備える保険で死亡保障がセットになっている商品があるのは、人が要介護状態になる確率に比べると、死亡率のほうが高い確度で見込めるため、収益を安定させられる面があるからだ、と言うのです。
「人生100年時代」の保障の在り方は
100歳まで生きる人が珍しくなくなるかもしれない時代というのは、保険会社にとっても未知の領域ですから、高齢者を対象にした保険では、保険料の設定なども高めに見込むことになるでしょう。そのため「介護など高齢者の保障は、国の制度で行うほうが望ましい」と言う保険数理の専門家もいます。「老後は健康保険が一番。民間の保険は高くついてしょうがない」と打ち明ける保険会社のOBもいるのです。
来年60歳になる筆者も、老後の保障を民間の保険や共済で何とかしたい、とは考えていません。もとより、ずっと続く安心などは幻想だと思うからです。国の制度にしても改訂を繰り返しながら、最善というより「いくらかましな状態」を探っていくだけだと思うのです。
保険も共済も、長期保障は苦手です。言い換えると、保険や共済の長所は目先の保障にあります。そうであれば、現役世代が「当面は安心」というところを前向きに評価し、一定期間、不測の事態に備えていくのが賢明な利用法ではないでしょうか。
(※)生命保険協会「生命保険事業概況」より算出
※この記事は、掲載当初協賛を受けて制作したものです。