売上規模国内2位かつ営業利益規模で圧倒的トップの化粧品メーカー
コーセーは「DECORTE」や「雪肌精」、「エスプリーク」などを展開する国内2位の化粧品メーカーです。17年3月期は売上高2668億円、営業利益392億円と過去最高業績を達成。続く18年3月期にはすでに上期業績予想の上方修正に続き、その後の中間決算でも通期業績を上方修正するなど利益の上振れが続いています。
1946年創業の日本を代表する化粧品メーカーで業界第2位。国内に3工場、1研究所を構え、国内グループ会社は20社に及びます。売上の75%を構成する化粧品事業では、『コスメデコルテ』に代表される高価格帯のハイプレステージ、『雪肌精』に代表されるプレステージ、『ヴィセ』などドラッグストアで展開する低価格帯の3つの領域で事業を展開しています。
また、化粧品業界にとって成長の要である海外展開では、15社のグループ会社を擁し中国と台湾に工場を構えます。足元の海外売上比率は3割程度ですが、アジア(特に中国)と北米事業の強化による海外売上拡大が期待できます。
高利益体質を実現した「選択と集中」
同社は化粧品業界では突出した収益力を持っており、営業利益率は世界レベルでもトップクラスの17%台を記録しています。トップの資生堂が4%台という中、どのような取り組みで高い利益率を実現しているのでしょうか?1990年代にドラッグストアでの化粧品購入が普及しだすと、化粧品メーカーはどれだけ売り場を確保できるか、どれだけ多く商品を棚に積み上げられるかに奔走しました。そのような化粧品業界の変化の中では「返品は当たり前」という風潮が生まれ、同社も「無理な納品→不良在庫化→返品増→赤字取引店舗の増加→利益圧迫」という悪循環を辿っていました。2000年代半ばまでこうした返品による収益圧迫にあえいでいましたが、同社はついに「返品」の慣習を破りました。
営業部に「売れ残り=悪、返品=悪」という考えを植え付け、返品による損失を含めた原価管理を強化する方針に切り替えたのです(返品された不良在庫はあとは焼却処分されるだけ)。
同社は流通の効率化による人件費削減や赤字取引店舗との取引停止(取引店舗は2万3000→1万9000店に)、増えすぎたブランドの整理、新製品依存型からロングセラー商品の創出に重きを置く、などの取り組みを実施。
ちなみに新製品依存型から脱却というのは、新製品の開発をしないわけではありません。2017年ポーラのシワ対策製品が話題となりましたが、同社もエイジングケアのカテゴリーの中で『iP.Shot』を発売しています。
化粧品というのは常にトレンドに乗っていなければならない業界である分、新製品に依存する収益基盤となりがちです。でもそうなると既存製品の存在感を弱め、ひとつひとつの製品ライフサイクルを縮めてしまうことになってしまいます。要は、新製品開発をするかどうかの「見極め」が重要となってくるということです。
こうした取り組みの結果、同社は17年3月期に、ついに営業利益で資生堂(16年12月期)を追い抜き、過去最高業績を記録しました(17年3月期は高価格帯、中価格帯、コスメタリーと全ての事業ブランドが好調でした)。
営業利益率は資生堂が4%台で推移しているのに対し、同社は14%とかなりの大差をつけています。世界最大手である仏ロレアルの営業利益率は約17%ですので、同社は世界水準の利益率を実現したのです。中期経営計画では2020年3月期に営業利益率15.0%が掲げられていますが、18年3月期に達成する見通し。同時にROEなど収益性指標の改善も期待できます。
また、広告宣伝費などの販売管理費の抑制も効いています。12年3月期の113億円から、16年3月期には149億円と増えたものの、売上高比率は68%から、16年3月期には61%に大幅改善。売上の伸びの割に、費用は増えていないというわけです。
成長ドライバーは海外に!米タルト社の高成長
国内売上第2位に躍進してきた同社ですが、すでに国内化粧品市場での成長は限定的で、成長を目指すためには海外での収益基盤構築が必須要件となってきています。それも、世界最大消費国である中国と米国での成功が今後の成長に大きく影響するでしょう。同社は、北米においてはすでに一つ成功をしていると言えます。同社は2014年に135億円を投じてアメリカの自然派化粧品タルト社を買収しました。タルトは1999年に大学生だった祖業者が起ち上げ、SNSなどネットを活用した広告で広まった新興化粧品です。タルト社の好調は目覚ましく、売上高は買収から2年で2016年度には3.5倍規模となる282億円まで急拡大しました。営業利益も全体の2割を構成するなど同社の中でも存在感を強めています。
タルト社の売上規模は、欧州や豪州への販路拡大により、30%程度で成長が続く見通し。今後も同社の収益押し上げに大きく寄与していきそうです。
更なる成長ドライバー:中国人需要獲得による売上拡大戦略
そして、さらに一段階上の成長を実現するには、アジアの強化が必要条件となってくるでしょう。中国は、化粧品市場をけん引する20代30代のボリュームの大きさでも圧倒的。2020年は、このボリューム世代は、日本2600万人、韓国1400万人、そして中国は全人口の3割に当たる4億人以上になると予測されています。中国人のすごいところは、国境を優に越えて購買しているということです。旅行中の買い物であったりインターネットショッピングだったり。中国は大変なペースでEC市場が成長している国であり、最もキャッシュレス化が進んだ国です。そうしたインフラをバックに、訪日中に買った商品を越境ECでリピート買いする、といった動きが日本化粧品の販売増をもたらしているのです。
インバウンド需要だけではなく、EC販売による売上増も日本化粧品メーカーの販売増をもたらしている。つまり、中国人需要を取り込むことが成長要件の一つだということになります。ついでに言うと、中国にはプレミアム化粧品の種類が少ないことも、プレミアム商品を得意とする日本化粧品メーカーにとって好環境となります。
ところで、日本の化粧品メーカーは、ブランド棄損のリスクや過剰流通による在庫リスクを考えて、業者買いによる取引を避ける傾向があります。つまり、直接販売が主な経路となることからその分売上規模も小さくなるのです。機会損失リスクと表裏一体にも見えますが、目利き力に優れる同社にとっては、業者による販路拡大も視野に入れると売上規模に大きな成長余地が見いだされると思います。
韓国メーカーはうまいこと業者買いを取り入れており、例えばAMOREPACIFIC(アモーレパシフィック)の『Sulhwasoo』は中国向け売上886億円と売上の6割に及びます。対して同社の『雪肌精』は、およそ114億円と、『Sulhwasoo』の8分の1程度しかないのです。つまり、同社には、中国での成長ポテンシャルが大きく残されているのではないかと思います。
インバウンド需要に陰り?
中国人旅行客や業者は、日本に来て大量に高価格帯製品を買っていきますが、これは関税や消費税、増値税などの税金面でのインセンティブがあるからと見られます。一方、そんな国民の行動を問題視した中国政府は、国外消費を国内に還流させたいので、あの手この手で税制度を変えています。実際、中国政府は、自国での消費を促すために、輸入品の税率を引き下げています(17年11月には更なる関税引き下げを発表し、12月からスキンケア化粧品で6.5→2%へ、メイクで10→5%まで関税を引き下げました)。とはいえ、いまだに中国国外で買ってきたほうがECサイトなどで買うよりも1-2割安いようで、インバウンドでは旺盛な需要が続くと見られます。
インバウンドの中国人需要は業績の短期的な要因とされがちですが、世界最大の消費意欲を取り込むための経営戦略は、中長期的な成長に大きく影響を与えるものです。
18年3月期第1-3四半期業績:高利益商品の売上好調、海外売上の好調が寄与し過去最高業績
18年3月期第1-3四半期の業績は、全セグメント及び全ての地域において前年を上回りました。同期間として5期連続で過去最高業績を記録しました。利益面では、原価率の高い製品構成比が上昇(原価率24.5→26.8%)しましたが、増収効果による売上総利益の増加や販管費の抑制(販管費率:29.1→27.6%)が奏功し、大幅増益となりました。営業利益率は世界レベルでも高水準の17.4%を達成しており、収益力の成長が伺える内容となりました。特に第3四半期にはハイプレステージ化粧品が23%増収となるなど、高価格帯比率が上昇しており利益率改善に寄与しています。
国内では、堅調な国内需要や訪日外国人客による需要も取り込み、百貨店、専門店、ドラッグストアいずれも好調に販売を伸ばしました。北米では、セフォラやウルタなどの専門店チャネルやリニューアルしたサイトでのEC販売が好調に推移するなど、店頭販売・Eコマースともに高成長が続く米国タルト社が業績を牽引しています。業績好調が続く米タルトは、現地通貨ベースで78%の増収、特にEC売上高が114%増、営業利益は90%増で利益率は24.2%となるなど絶好調です。
アジアでは、訪日リピーターの増加等を背景に、『コスメデコルテ』に代表される重点グローバルブランドの成長が加速しました。特にEC市場の成長が著しい中国や、免税チャネルの高成長が継続した韓国が牽引する形で大きく売上を伸ばしました。
盤石な財務基盤と足かせのない事業構造をベースに更なる飛躍が期待できる!株主優待は利回りは低いものの魅力的
業績は、国内での高価格帯製品の好調に加え、海外でも利益率の高いタルト社が30%程度での売上成長をするなど、実に好調です。すべての事業、地域で増収となっており、さらに利益率が中期計画の15%を前倒し達成するなど利益成長も目覚ましい。化粧品メーカーにしてこの利益率の改善成長には目を見張るものがあります。さらに、同社には減損損失を計上するような不採算事業が存在せず、事業拡大の効果が純粋に業績に反映された成長が期待できると思います。
17年12月末時点の財務内容は、自己資本比率が69.1%、有利子負債は6億円。729億円の厚いキャッシュをもっており、実質無借金経営です。
株主優待については100株の保有ですと、3年未満の保有で4,000~6,000円相当の自社製品、3年以上で7,000~9,000円相当の自社製品となります。いくつかの中から選べる形となっており、女性に優しい株主優待と言えるでしょうか。
もっとも、同社の株価は好調の業績見通しによって高水準となっており、100株でも210万3,000円となります(2018年4月13日終値)。従って現金予想配当と合わせて3年以上の保有で9,000円相当の自社製品をもらったとしても、その利回りは1.1%と小さいものとなります。しかしながら、ここまでに書いてきたように、企業内容は良いので、調整したときに、株主優待をもらいながらの長期保有の観点で投資を検討するには面白い銘柄と思います。
参考:日本株通信
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