既婚者も浮かれる季節?
気温が上がり、コートを脱ぐ季節になると、多くの人は気持ちが晴れやかになる。言い方を変えればどこかウキウキしてしまう。年度が替わり、状況や環境が変化して新しい出会いも多くなる。だから「春は恋の季節」と言われるのかもしれない。大人の女性であっても、気持ちが晴れやかに開放的になる季節。
子どもの成長に合わせて、新しい出会いが
「春はいいですよね。うちは子どもが3人いるので、最近は春になると子どもの成長を感じます」キミコさん(38歳)はニコニコしながら言った。そして声を落として「恋心を味わう季節でもあるでしょ」と囁いた。現在、10歳、7歳、5歳の子をもつキミコさん。去年の春は、上の子がサッカーを始め、そのコーチに胸がときめいた。真ん中の子の学校の先生も気になる。
「もちろん眺めて楽しむだけですよ。実際に恋に落ちたら大変なことになりますから」
というのも、キミコさんの知り合いが子どもにテニスを習わせていたのだが、そのコーチと不倫関係になり両夫婦で揉めごとになったのだという。
「地元では大騒動でした。いろいろな噂が流れて尾ひれがついて。それを見ているから、私自身は行動には及ばないと決めているんです」
中にはフラッとする人も……
PTA役員の集まりのあと……
とはいえ、恋心にブレーキが効かなくなる女性もいる。「あれはやはり春でした」と、遠い目をするのはミホさん(44歳)だ。
「一度だけ、夫を裏切ったことがあるんです」
今から3年前の春。下の子が中学に上がってしばらくたったころだった。ミホさんはPTAの役員になった。なり手がなかったので自ら買って出たのだ。一緒に役員になった2歳年下の男性Tさんとすぐに仲良くなったという。
「見た目は普通なんですが、知識が豊富で性格は謙虚。自分で小さな事務所をやっていますというから、どんな仕事かと思ったらけっこう大きなIT関連の会社で。誰にでもオープンで穏やかな人でした」
たびたび顔を合わせるうち、軽口を叩くほど親密になった。ミホさんは当時、結婚して15年たっていたが、夫とは友だちのような仲良し夫婦だったという。
「もう恋なんてものは縁遠いと思っていたし、夫とは男女の間柄ではないけど、それもいいだろうと思っていました。だけど恋愛感情って、体内に眠っているんですかね。Tさんと会うたびに眠りから目覚めていくんですよ、恋心が」
PTA役員を続けていくのが、だんだん苦しくなっていった。
飲み会の席で……
あるときPTAの親睦会の席で、彼女はTさんと隣同士になった。なぜかそれぞれの家庭の話になり、彼が「夫婦って何でしょうね」とつぶやいたとき、ミホさんは「この人は妻に大事にされていない」と直感で思ったという。「そのときグッと心をつかまれたような気がしたんです。私が彼をなんとかしてあげたい。そんなふうに思ってしまった」
ミホさんから、「抜けてふたりで飲み直しませんか」と囁いた。そしてふたりはタクシーを飛ばして地元から離れたラブホテルへ。
「ラブホで飲み直しました(笑)。そんなつもりではなかったんだけど、とにかくふたりきりになりたかったんです」
ふたりきりになれる場所、というのはなかなかない。静かな場所でふたりで向かい合いたいがためにラブホを選んだ、と彼女は言う。
「場所の選択は間違えたと思いますけど……」
ふたりとも酔っていた。なんだか寂しかった。いろいろ言い訳はできる。だが、結局は惹かれ合っていたことに尽きる。
「たった1回の関係です。お互いにこれ以上はまずいと本能で感じたので、それからはPTA役員同士という関係に戻って、あの日のことは口にしていません。子どもは今年、中学を卒業、もう彼に会うこともないと思いますが……」
ミホさんが急に言葉を切った。彼女の恋心はまだ消えていないのではないだろうか。
「このまま会えなくていいと思っているわけではありません。もう一度、ふたりきりになりたい気持ちはあります。でも、やっぱりこれでいいとも感じてる」
気持ちは揺らぐ。もう一度、関係をもったらもっと大変なことになるとわかってもいる。だが、このまま縁が切れるのはあまりにも寂しい。
「少しずつ、自分の気持ちを静めていくしかないんでしょうね」
ふっと笑った彼女の顔が、とてもつらそうだった。これは「心揺れる春」のせい、だけなのだろうか?