「うまくいかないストレス」に適切に対処するには
成果が出ず追いつめられる研究者
そんな不正を働いた助教に対して、「研究倫理がなっていない」という批判や「任期付き雇用という研究者を取り巻く労働環境が悪い」という擁護をはじめ、様々な意見が飛び交っています。
いずれにしても、あの助教は、今まで歩んできた研究者の道は歩めなくなり、本人はしてもしきれないほどの後悔をしていることでしょう。
読者のなかにも、「仕事の成果を短期間で出すことが求められるも出せない」という経験をした方がいるかもしれません。
そうしたとき、取り返しのつかない後悔をしないために「うまくいかないこと」によるストレスを、適切に対処するための4つのステップを解説します。
ステップ1.「たしかに」と絶望する根拠を明確にする
まずは、自分が絶望的に感じている根拠を明確にしましょう。「不正をしてしまおう」と思うまで心が追いつめられるのには、それなりの理由があります。その辛い気持ちを、まずは認めてあげるのです。
例)
「たしかに、この方法だと、血液脳関門という組織をつくることができなかった。この研究は無価値だ……」
という具合に、「うまくいかなかったのだから、いま、自分が絶望的に感じるのは仕方がない」と、まずは自分の気持ちをそのまま受け止めます。
ステップ2.「しかし」と反証を考える
次に「しかし、本当にそうなのか?」と、その絶望する根拠への反証がないかを考えましょう。例)
「しかし、血液脳関門をつくることができなかったからといって、この研究が本当に無価値といえるのか? この仮説ではうまくいかないことがわかったこと。それは、iPS研究分野の発展という視点から、全くの無価値とはいえないはずだ」
等といった反証がないかを考えるのです。
ステップ3.根拠と反証とを見比べ、全体を把握する
根拠と反証を見比べ、冷静に考える研究者
今度は、1で考えた絶望する根拠と、2で考えた反証とを見比べてみましょう。
例)
1.根拠:「たしかに、この方法だと、血液脳関門という組織をつくることができなかった。この研究は無価値だ…」
2.反証:「しかし、この仮説ではうまくいかないことがわかったこと。それは、iPS研究分野の発展という視点から、全くの無価値とはいえないはずだ」
という2つの説を比べ、全体を把握するのです。
すると
「血液脳関門という組織をつくることができなかったが、だからといって、無価値ではない。ただ、自分でさえ、一瞬この研究のことを価値がないと感じたのだから、他の研究者もそう考える可能性は高い。そうなると、雇用契約を更新してもらえなくなる可能性も高くなる」
と、フラットに捉えられるのではないでしょうか?
ステップ4.フラットに捉え、建設的に動く
上記のように、フラットに捉えられたら、人は建設的に動くことができます。例)
「この研究の価値を認めてもらう必要がある。そのためには、どうしたらいいだろう?」
↓
「そうだ! 今回の仮説のどの部分に問題があったのか、考察のなかで明らかにすれば、多くの研究者に引用されるだろう。仮説を振り返り、一つずつ手順を再考し、説得力のある考察を書こう」
といった具合に、建設的に動くことができるのです。
「うまくいかないこと」にどう対処するかで、人生は変わる
発明王として有名なエジソン
電球を発明するのに1万回失敗したということを聞きつけたインタビューアがエジソンに対し、「1万回も失敗されて大変でしたね」とねぎらいの言葉をかけました。
これに対してエジソンは、
「私は失敗などしていない。うまくいかない1万通りの方法を見つけただけだ」
と答えたそうです。
まさに、エジソンは、うまくいかない出来事をフラットに捉え、建設的に動いてきたからこそ、こうした言葉がサラッと出たのでしょう。
「うまくいかないこと」は、研究開発をしていたら、いや生きていたら、必ず起こります。
そうした「うまくいかないこと」にどう対処するかで、人生は変わるのです。