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高齢者ドライバーの事故、見逃されがちな原因とは?

高齢ドライバーによる事故が増えています。その原因を「年齢」や「認知機能の低下」と考える人が少なくありませんが、実はその背景に高齢になって生じる病気が隠されていることもあります。本記事では高齢化の進展とともに増加している「高齢者てんかん」について紹介します。

小山 朝子

執筆者:小山 朝子

介護福祉士ガイド

高齢者ドライバーの事故の一因?「高齢者てんかん」を知っていますか?

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認知機能の低下だけはなかった! 高齢ドライバーの事故の危険性

警視庁交通総務課の統計では、高齢ドライバーが関与する交通事故の割合は年々増加。平成27年では総件数の21.5%を占めており、これは10年前と比べると約1.9倍の数字です。

「運転事故を引き起こす高齢者ドライバーのうち、その原因が『高齢者てんかん』である人も一定数いると思われます」と、衝撃的な発言をするのは『「高齢者てんかん」のすべて』(アーク出版)の著者で、朝霞台中央病院脳神経外科統括部長、脳卒中・てんかんセンター長の久保田有一氏。

久保田氏は「高齢ドライバーによる不可解な交通事故が続発していますが、現場で事故の処理を行う警察官のほとんどは『高齢者てんかん』を知らないでしょう。それどころか、地域の開業医や病院の内科の先生、介護職の方もこの病気を詳しく知らないことが多いのではないか。無理もありません、てんかんの専門医である私自身、米国のクリーブランド・クリニック・てんかんセンターに留学するまで、高齢者に初発するてんかんがあることを知らなかったくらいなのですから」と言います。

『「高齢者てんかん」のすべて』(久保田有一著、アーク出版)にはカラーで効果のある薬も紹介されている

『「高齢者てんかん」のすべて』(久保田有一著、アーク出版)にはカラーで効果のある薬も紹介されている

てんかんの多くは乳児期から幼少期に発症しますが、1990年代後半から、アメリカを中心にして別種のてんかんが注目されるようになりました。これが「高齢者てんかん」です。

高齢者てんかんは、主に65歳以上で初めて発症します。「多くの場合、画像検査を行っても構造的な異常は見つからないため『原因不明』とされますが、老化現象の一種と考えられます」(久保田氏)。                    
アメリカでは、高齢者てんかんの患者数は小児期の患者数の倍に達すると言われ、最近のてんかん専門誌では「65歳以上の有病率は6%」というデータが発表されています。日本でも「介護老人保健・福祉施設入所者762名のてんかん有病率が6.8%」という報告がありました(2011年、日本てんかん学会)。 

高齢者てんかんの症状の最大の特徴は「静かな発作」です。他のてんかん発作のように激しい痙攣を起こしたり、泡を吹いて倒れたりすることはありません。多くの場合、ふいに意識が途切れて、数秒間動作が止まり、その後、回復する過程で数分から数時間、寝ぼけているように意識が混濁することもあります。ですから、周囲に家族や同僚がいても気づかないこともあるのです。

このように高齢者てんかんの場合は、「発作中に(てんかんだと思われる)痙攣が起こりにくい」「発作中や発作直後には現在の時間や今いる場所がわからなくなる」「昔のことはよく覚えているのに、最近の出来事を忘れる記憶障害がある」といった特徴から、「認知症」と診断されることが多いようです。

「現在、認知症と診断されて認知症の治療を受けている高齢者のなかにも、高齢者てんかんの患者さんがかなり含まれているはずです。当然ながら、認知症の薬を飲んでもてんかんの症状は改善しません」(久保田氏)。

認知症と間違いやすい「高齢者てんかん」の症状

ブレーキとアクセルの踏み間違いなどが起きることも・・・

ブレーキとアクセルの踏み間違いなどが起きることも・・・

さらに、認知症と高齢者てんかんの症状は似ているだけではなく、併発することもあるといいます。この場合、問題なのは「認知症の治療は施されるものの、てんかんの部分が見逃されてしまうケースが多い」ことです。

現在の医学では「認知症」はどんな薬を使っても治すことはできず、進行を食い止めるだけ、とされています。しかしながら、てんかんの場合は適切な服薬によって発作症状を抑え、通常の生活を送ることが可能です。認知症と高齢者てんかんを併発している場合も、てんかんの症状はコントロールできるわけです。

併発についてさらに触れておくと、てんかんの患者がうつ病を併発することは珍しくなく、精神的なストレスなどが原因となり、てんかんの発作がある患者の約25%がうつ病を発症する、とされています。その場合は、てんかんを治療することでうつ病が治ることもあるようです。

久保田氏が「高齢者てんかん」と診断した患者や家族の中には、「なにより発作の原因がわかったことが嬉しい」と口にするそうです。
 

20年後にようやく病名が判明した人も

朝霞台中央病院脳神経外科統括部長、脳卒中・てんかんセンター長の久保田有一氏

朝霞台中央病院脳神経外科統括部長、脳卒中・てんかんセンター長の久保田有一氏

久保田氏は「50歳頃に発症したと思われる女性が70歳になってようやく高齢者てんかんだと診断されたケースもありました。ある意味、高齢者てんかんと診断されたのは、非常に幸運な人だともいえるのではないでしょうか」と述べています。

高齢の親とのコミュニケーションが希薄である場合、高齢者てんかんだと疑いをもつことは困難でしょう。また高齢者の施設においてもスタッフが多忙で細かく目配りができず、放置されている可能性も否めません。

高齢者てんかんの確定診断を受けるには、てんかん専門クリニックや総合病院、てんかんセンターなどのほか、全国てんかんセンター協議会がインターネット上で運営する「てんかん診療ネットワーク」などで調べることができます。      

最後に、久保田氏が掲げる

こんな症状のときは、認知症ではなく「高齢者てんかん」を疑ってみる 10のチェックリスト

を紹介します。

年末年始に帰省した際には、このチェックリストを話題にして、高齢の親とコミュニケーションをはかってみてはいかがでしょうか。

<高齢者てんかんを疑う10のチェックリスト>

1 ふだんは何の支障もなく日常の仕事をこなしている
2 突然、動作がぴたりと止まり、声をかけても反応しないことがある
3 無自覚に口元をくちゃくちゃ動かす、身体をゆする、腕を動かす
4 意識を失っても倒れない
5 数十秒間たつと、何事もなかったように動き始める
6 意識がなかった間のことはなにも覚えていない
7 意識が戻っても数分から数時間、ぼうっとしている
8 怒りっぽくなり、意味もなく声を荒げることがある
9 状態の良いときと悪いときがはっきりしている
10 目の焦点が合っていない


※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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