金沢駅発のきらびやかな観光列車「花嫁のれん」
JR西日本が金沢駅と七尾線の和倉温泉駅間で運転している観光列車「花嫁のれん」。沿線の特産品である金箔や加賀友禅をイメージしたきらびやかな外観および車内は大変個性的で、北陸新幹線で金沢へやってきた観光客をさらに能登の和倉温泉へと誘う広告塔の役割も果たしている。2015年10月の運転開始以来、大好評で指定券の取りにくい列車だ。今回、乗車する機会を得たので詳細にレポートしてみたい。
運転区間や料金は? 愛称の由来も地元ならでは
列車は、金沢駅から津幡駅までは、第3セクターIRいしかわ鉄道(北陸新幹線金沢開業までは、JR北陸本線の一部)、津幡駅から和倉温泉駅までは、JR七尾線を走る。運行は、土休日を中心に1日2往復運だ(月曜、火曜、金曜など平日に運転される日もある)。
所要時間は、七尾線が単線なので列車行き違いのための停車時間があり、列車により1時間15分~30分ほどとばらつきがある。列車種別は特急列車で、乗車券(金沢~和倉温泉のみは1380円)のほかに特急券が必要(全車指定席、1370円)。
「花嫁のれん」とは、花嫁の幸せを願って、婚礼の日に「のれん」を嫁入り道具として贈り、嫁ぎ先では「のれん」をくぐって嫁入りするという地元石川県の伝統文化である。列車の乗客が、花嫁のように幸せになることを願って「花嫁のれん」と命名されたという。
伝統文化をイメージした車両について
キハ48形ディーゼルカー2両を専用車両として改造した。「花嫁のれん」の走行区間である金沢駅~津幡駅~和倉温泉駅は全線電化区間なので電車でもいいはずだが、改造可能な車両がディーゼルカーだったこと、将来、非電化区間への乗入れ(例えば、のと鉄道)もできるように考えて、ディーゼルカーにした模様だ。
専用車両の外観、内装はともにきらびやかな美しさに尽きる。「和と美のおもてなし」をコンセプトに、外観のデザインは北陸の伝統工芸である輪島塗や加賀友禅をイメージ。黒と赤を基調とした色合いは輪島塗を彷彿させ、部分的に描かれた花や蝶は加賀友禅の着物の柄のようである。キハ48形は、前面に貫通扉があったが、埋め込まれたため、車両の表情がやや異なって見える。
2両編成のうち、和倉温泉寄りの1号車は、個室風の空間となっている。ただし、仕切りは、格子のような柱としたので、完全な密室ではなく「半個室」。どうみても、列車の車内ではなく、高級旅館か料亭のような雰囲気だ。通路が途中で曲がりくねっているのがユニークで、しかも日本庭園の飛び石をイメージした柄の絨毯を敷いている。本物の石を使いたかったそうだが、重量がかさむので断念したとのことだ。
「半個室」は8つ。桜梅(おうばい)の間、撫子(なでしこ)の間、扇絵の間、といった名称が付けられ、2人部屋、3人部屋、4人部屋があり、座席背面の壁のデザインは、友禅のオールドコレクションをあしらった空間で部屋毎に異なった図柄である。「ゆったりとくつろぎの旅を楽しめる空間」だとPRしている。
2号車寄りのデッキ付近の空間は、伝統工芸品展示スペースと記念グッズやお土産、飲食物を販売する物販スペースがある。壁には金沢の金箔装飾が施されている。
2号車は、デッキの隣にトイレと洗面台があり、ドアを開けると客室となる。こちらは1号車とは異なり、間仕切りのない開放的な空間だ。4人席、2人向かい合わせの席、窓を向いたカウンター席があり、いずれもテーブル付き。カウンター席の反対側はイベントスペースとしてステージがある。椅子は紅色の生地と背面の木の格子が特徴的なオリジナル回転椅子である。通路は流水のイメージで、1号車とは異なったデザインだ。通路ドアの両側の壁はきらびやかな「和」のイメージで統一している。
デザインは、近鉄の豪華観光特急「しまかぜ」に関わった山内陸平、井上昭二、山本俊二の各氏が担当した。
老舗旅館による食事やスイーツセットなど、女性に人気の車内サービス
乗車したのは、和倉温泉駅12時07分発金沢行き「花嫁のれん2号」。車内の清掃や準備が終わると、ドアが開いて、ピンクの和装姿のアテンダントさんが挨拶がてら車内へと案内してくれる。物珍しい車内に驚いて写真を撮る人が多い。
定時に発車。指定券を取る時に一緒に食事を予約しておいたので、テーブルに食事券(和軽食+お茶のセット)を出しておく。やがて、アテンダントさんが、チェックしつつ券を回収していった。食事を予約した人は、思ったほど多くなく、乗客の半分ほどだった。
6分後に七尾駅に停車。若干の乗客が乗って、ほぼ満席となる。食事を注文できるのは、和倉温泉駅あるいは七尾駅から乗車した人だけで、羽咋駅からだと乗車時間が40分にも満たないので受け付けていない。それにしても、七尾駅から金沢駅までは65分。発車と同時に食事を始めるわけではないので、のんびり食事をしていると、それだけで金沢に着いてしまいそうだ。
まもなく、アテンダントさんが、お弁当とお茶を運んできた。赤い掛紙に包まれた黒い箱を開けると、中は6つに仕切られている。秋メニューだそうで、「能登彩菜」という名前が付いている。ごま豆腐、はたはた南蛮漬、能登豚ミルフィーユ揚げ、などが並び、それに石川県の郷土料理「治部煮」が目につく。大粒な小豆である能登大納言をあしらった赤飯もある。
料理の監修は、和倉温泉の老舗旅館「加賀屋」の料理長が担当しているとのこと。お茶は地元の特産品である加賀棒茶(ほうじ茶の一種、昭和天皇が好まれたとのこと)がペットボトルで配られた。
和軽食とうたっているように、量は決して多くない。大食漢の男性なら物足りないであろうが、女性には適量のようだ。金沢までの所要時間を考慮すると、コース料理では食べきらないうちに到着してしまいそうなので、無難なメニューであろう。
食事中に、車掌さんが記念乗車証を渡してくれた。記念スタンプを押すスペースと指定券をはさみこむ場所があり、小さいながらもよくまとまったカードだ。
途中で羽咋駅にのみ停車。あとは列車行き違いのための運転停車があるだけだ。意外に平坦な田園風景が続き、絶景と呼べるようなスポットはない。車窓を楽しむよりは、車内で飲食を楽しむ列車である。
もっとも、食事ができるのは2号だけで、金沢駅発の1号と3号は、「スイーツセット」(2000円)として、世界的に活躍するパティシエ辻口博啓氏の「ル ミュゼ ドゥ アッシュ」オリジナルセレクトスイーツが提供される。
また、4号は、和倉温泉駅16時36分発、金沢駅17時54分到着ということで「ほろよいセット」(2000円)が提供される。昼食と同じく、「加賀屋」総料理長監修による石川ならではの珍味を揃えた和惣菜と能登の酒造メーカー宗玄酒造の純米吟醸とのセットが秋メニューとして用意されている。
花嫁のれん号&のと里山里海号、乗り継ぎプラン
能登の車窓を楽しみたいのなら、七尾~和倉温泉~穴水を往復する「のと鉄道」の観光列車「のと里山里海号」が魅力的だ。「花嫁のれん2号」、「花嫁のれん3号」とは絶妙なタイミングで接続しているので、2つの観光列車を乗り継ぐ能登の鉄道旅行を計画してはいかがだろうか?
花嫁のれん1号(スイーツセット)
金沢 10:15 ⇒ 七尾 11:34 ⇒ 和倉温泉 11:42
のと里山里海3号
七尾 12:38 ⇒ 和倉温泉 12:45 ⇒ 穴水 13:39
のと里山里海2号(和倉温泉駅で9分の待ち合わせ)
穴水 11:01 ⇒ 和倉温泉 11:58 ⇒ 七尾 12:04
花嫁のれん2号(和軽食セット)
和倉温泉 12:07 ⇒ 七尾 12:16 ⇒ 金沢 13:21
花嫁のれん3号(スイーツセット)
金沢 14:15 ⇒ 七尾 15:24 ⇒ 和倉温泉 15:32
のと里山里海5号(和倉温泉駅で13分待ち合わせ)
七尾 15:33 ⇒ 和倉温泉 15:45 ⇒ 穴水 16:35
のと里山里海4号
穴水 14:30 ⇒ 和倉温泉 15:11 ⇒ 七尾 15:17
花嫁のれん4号(ほろよいセット)
和倉温泉 16:30 ⇒ 七尾 16:36 ⇒ 金沢 17:54
※時刻表は2017年10月現在
花嫁のれん公式サイト
のと里山里海号 公式サイト