東京の電柱は五輪までに消える景色……なのか?
1964年(昭和39年)の東京五輪を境に、東京の街は大きく変わったと言われている。そして2020年に開催される東京五輪に向けて東京の街は再び大きく変わろうとしている。消失してしまう風景も多数あるだろう。そんな風景を散歩しながら記録していこうと思う。
【関連記事】
再開発が進む北千住の変わる風景と変わらない風景
東京の“酒都”立石、再開発が進む街をほろ酔いで歩く
今回はAll About編集部のOくんが「東京五輪までに電柱のある風景が失われるかもしれないので、見に行こう」と提案してくれた。
国土交通省・東京都による後援でこういった企画が実施されるなど、無電柱化を進める動きは確かにある。しかし、電柱が東京五輪までに消滅してしまう景色のひとつであるとは、にわかには信じられない。
国土交通省のホームページで紹介されている、日本の無電柱化の現状と世界のそれを比較したグラフを見てみると、パリ、ロンドン、香港といった都市では100%無電柱化されている一方で、東京はたったの7%、大阪に至っては5%という電柱だらけの都市であることがわかる。ちなみに同じアジアでも台北が95%、シンガポールが93%、ソウルが46%、ジャカルタが35%と、日本よりもかなり無電柱化が進んでいるのだ。
このような現状を見れば、2020年の東京五輪までに東京が100%の無電柱化を果たせるとは到底考えられない……なんてことをOくんに話しながら歩き始めると「まあ、たぶんそうなんですけど、電柱がある風景って何かいいじゃないですか。あのゴチャゴチャと線が絡まった感じ、その絡まり具合を楽しみながら写真におさめていけば、何か面白いと思いまして」とのこと。
というわけで、僕たちはイイ感じの電柱および電線を写真撮影しながら散歩することになった。
東京タワーの下にはいい感じの電柱と電線が多い
歩き始めたのは、大江戸線の赤羽橋駅だ。駅を出て、東京タワー方向へのびているのが東麻布商店街。ここは、2006年に散歩したときに「東京のど真ん中、東京タワーの下に広がる商店街もこんなに電柱が多いのかと驚いた」という記事を書いたことがある。
【関連記事】麻布十番~増上寺 東京タワーを見る散歩
それが、2006年10月のことだ。その風景は10年以上経ったいまもまったく変わりがなかった。
提灯が吊るされていて、今年も行われる「かかしまつり」(9/29、30)を告知するポスターや旗があった。
さっそくここでOくんがスマホを向けて撮っている。Oくんの作品がこちら。
ビルの上に東京タワーのてっぺんだけちょっと見えている。それにしても電柱に付いているいろいろなものはなんだかよくわからないものが多い。たとえば、電柱の先端近くに付いているバケツみたいなやつ。
その形状からなんとなく、電気を溜めておくための何かな感じがするが、我々は電柱の知識が深くないので確かなことはわからない。するとOくんが「昔、何かのマンガで、あの中には非常食用シチューが入っている、という話を読みましたね」と突拍子もないことを言い出す。僕がそれに対して「そのシチューはクリームなの?ビーフなの?」と聞くと、Oくんは「確か……ビーフでした」と答えた。
Oくんの話はともかく、ネットで検索をすればすぐに答えがわかるのだろうけど、あえてソレをしないで憶測に終わらせておくのも楽しい。今回の散歩では、ふたりでさまざまな憶測をした。言うなれば、憶測散歩である。
それにしても、普段は電柱や電線のある景色なんて、そんなに気をつけて見ていないけれど、いざ、注意を向けると、次々と目に飛び込んでくるものだ。
坂を上がるように商店街は進み、最初は先っぽしか見えなかった東京タワーが少しだけ見えてきた。ここで、Oくんが、写真撮影のテーマを「電信柱と東京タワー」にしようと言い出す。
先ほどの7%という数字を見てもわかるように東京もほとんどの場所が電柱や電線があるのだけれど、この東麻布商店街が僕の記憶に強く残っているのは、東京タワーを見上げると、その上にかぶさってくる電線があるからだろう。
Oくんも興奮気味にシャッターを切る。
たぶん、ここで撮影されたものがこちらだろうか。
太さの違う電線が何本も伸びている。印象的な作品だ。この場所から後ろに小高い場所があって、そこから撮った、Oくんの作品も紹介しておこう。
無電柱化されたエリアに存在する物体について憶測する
飯倉の交差点から、東京タワー方向へ歩く。このあたりで、電柱はぐんと少なくなり、そのうちまったくなくなってしまった。しかし、電柱が見えなくなるのに合わせて、下の写真のような箱や棒状の物体が目につくようになってきた。近づいてみると、物体には東京電力のマークが書かれている。
「きっとこの施設は埋設されている電線となにか関係があるのだろう」と我々は憶測した。実際、今回の散歩に限って言えば、電柱のないエリアには100%の確率でこの物体(施設)が置かれていたのだ。
なんだか“憶測散歩”がどんどん面白くなってきた!
つぎに我々が憶測したのは、東京タワー通りに近くにある公園内でのこと。園内に立つ棒を「電柱かな」と近づいて確認したところ、それは電柱ではなく街灯だった。
この街灯には電線が接続されておらず、また周囲に例の物体も見当たらない。つまり、状況としてここに電気は通っていないわけだ。しかし、街灯なのだから当然明かりを灯す……我々は憶測した。
街灯をよくチェックしてみると、柱の下部に施錠されたボックスが取り付けられている。僕とOくんは「この中にバッテリーが入っているからじゃないか?」と憶測して盛り上がった。
カツカレーを求めてはしごランチ
さて、Oくんとの散歩といえば、ランチにカツカレーを食べることが恒例行事になっている。東麻布商店街のカレー屋さんに入ると、出前がたてこんでいるので、30分は待ちますよとのこと。あきらめて麻布十番から三田方向へ。その時に、とても珍しい電線を見つけた。
このあと、ネットで調べ、カツカレーが提供されている喫茶店に入り、カツカレーを注文。しかし、今はできないとのこと。とほほ。カレーを注文するもイマイチで量も少なかった。
というわけで、もう一軒行こうということになった。さて、どこにしようか。あ、そうだ。慶応大学内の学食へ行こう。誰でも利用できるはずだ。門をくぐって、坂をのぼっていくと坂の上にこんな看板があった。
矢印の方向へ向かうと「山食」はあった。1937年(昭和12年)創業だそうだ。ユニークな食堂の名前は諸説あり、山の上の食堂を縮めたとか、山小屋に見える食堂を縮めたなどだ。
やはり、学食だけにまずは食券を購入。食堂には多くの人がいるが、高齢の男女の集団だった。散歩サークルの人たちではないかと憶測。
がーん、カレーライス以外はすべて売り切れ。もちろんカツカレーもナッシング。
「きょう、僕はカツカレーを食べれない日なんですね」とOくん。しかし、カレーライス、320円は安い。というわけで、こちらがカレーライス。
福神漬けは自分で入れる方式。あとから、やってきたアラサーの男性は大盛りのようだ。大盛りは370円。けっこうな量だ。福神漬けをものすごく入れ、さらに粉チーズをかけまくっている。どんな味になるんだろう。カレーグラタンかな、と憶測した。
さて、カレーライスをいただこう。あー、これはどこかで食べたことがあるぞ。神保町の共栄堂のスマトラカレーに似ている。ちょっと苦味のあるカレーだ。たぶんん、昔から変わってないんだろうね。おいしい! しかも安くてうれしい!
というわけで、今回のお散歩は終了。
家に帰る途中、どこもかしこも電柱だらけだった。