群馬県最北端にあり、ホームが地下深くにある珍しい駅をご存じですか ? 群馬と新潟の県境にある山あいの小さな無人駅が、ここ数年脚光を浴びています。生活利用者よりも観光客の方が多い不思議な駅……。今回はそんな “日本一のモグラ駅” として注目されている「土合 (どあい) 駅」へのミニトリップです。

谷川岳の地下深く “日本一のモグラ駅” へ

水上駅から長岡行きに乗り換え

水上駅から上越線の長岡行きに乗り換え出発


土合駅に向かうとき、乗り換えなどの玄関口となるが上越線の「水上駅」です。土合駅についての話を、水上駅・第46代駅長である芳澤壮二さんに伺ったところ、もとは “モグラ駅” ではなかったことがわかりました。

昭和6年に清水トンネルができ、上越線の水上~越後湯沢間が開通したあと、信号場として開設されたのが土合駅のはじまりです。このときは単線だったため地上にホームがありました。谷川岳への入り口としての役割や、周辺にあった小さなスキー場へのスキー客のための旅客営業を行っていたそうです。その後、信号場から駅に昇格し、昭和42年の新清水トンネル開通で線路が複線化され、トンネル内に下り線の地下ホームが設置されたことから、“日本一のモグラ駅” が 誕生しました。

地下70メートルの新世界!地上の駅まで約10分の道のり

霧にかすむ 『土合駅』 の地下ホーム

うっすらと霧にかすむ 『土合駅』 の地下ホーム (水上方面を向いて撮影)


「水上駅」を出発し、ほどなくすると電車は新清水トンネルに入ります。途中の「湯檜曽 (ゆびそ) 駅」を過ぎ、真っ暗な車窓に再び灯りが見え、 土合駅の下り線ホームが現れます。うっすらと霧にかすむ駅のホームは秘密基地のようでもあり、神秘的でもあり……。この駅は、2008年公開の映画 『クライマーズ・ハイ』 の冒頭部分にも登場していて、主演の堤真一さんが階段を一歩一歩登っていく姿はとても印象的です。

数字が刻まれた462段の階段

一段ずつ数字が刻まれた462段の階段


ホームから出口の看板の方へ歩いていくと、地上に続く462段 (338メートル) の階段が! 登り始めのところはすごく空気が冷たく、まるで冷凍庫のようでした。160段付近までくると木製のベンチがあり、上からの外気と下からの冷気が混ざって空気が変わってきます。

両脇には雪解け水なのか、水が流れていました。この階段の脇にあるスペースは、もともとここにエスカレーターが設置される予定があったそう。その分のスペースが4メートルほど確保されていますが、結局設置されないままとなってしまったということです。

ここを流れる水の音は、登っているときに疲れた体と気持ちに癒しを与えてくれる “せせらぎ” でした。

実際の地下階段の雰囲気はこんな感じです。


暗くてあまりハッキリとは映っていませんが、水の下に岩肌やコンクリートが見え、水の透明度が高いことがわかります。地下というとカビ臭いイメージがありますが、ここは無味無臭で、むしろ透明感のある空気だったのが驚きでした。

270段目付近までくると、ようやく出口がハッキリと見えてきました。下から見上げた階段の先は、どこか違う世界の入り口のような感じでしたが、地上の明るさが大きくなるにつれ、現実味が増し少しホッとしてきました。

取材日は平日の月曜日だったにもかかわらず、山の中の地下の駅には、男性1名、女性1名、母親と祖母、孫の3人連れが1組と、筆者を入れて6名も乗客がいたのには驚きでした。地下というと暗くて怖いイメージもありますが、ここは照明が比較的多く、不思議と怖いという感じはありませんでした。

390段目付近まで来ると、出口もあと少しです。空気もやや涼しいくらいで、地上と変わらぬ温度のまなぬるい空気が漂っています。440段付近まで来ると “ようこそ土合駅へ” という看板が見えてきます。地上に戻ってきたという安心感も出てきました。

地上に出たところに「お疲れ様でした」の文字undefined! しかし、まだ先に通路が ……

ようやく地上に出たところに 「お疲れ様でした」 の文字が ! しかし、まだ先に延びる通路が …… (写真左)、出口の文字の先にある改札は、まだ17メートル先。 (写真右)


登り始めてから15分10秒で462段目に到着しました。途中で写真を撮ったり、他の乗客と話をしながらゆっくりと登ったため15分ほどかかりましたが、登ることだけに専念すれば10分ほどで登りきる感じです。

しかし、安心するのはまだ早く、目の前には更に続く連絡通路が見えます。連絡通路の中は地上の暑い空気がたまっていてビニールハウスの中にいるようで、さきほどまでの冷たい空気が嘘のようです。486段をあがったところで、ようやく 「出口」 の文字が見えてきましたが、改札口までさらに17メートルあり、最後まで気が抜けません。

『土合駅』の改札

『土合駅』の改札(写真左)、時刻表の隣には無人駅らしく乗車証明書の発券機(写真右)


現在、駅を利用する人は谷川岳に向かう登山客よりも、駅を見学する目的の観光客の方が多いそうです。また、地元みなかみ町の子供たちにとっては、電車で土合駅まで移動し、そのあと谷川岳の一ノ倉沢を目指す遠足のコースとしても馴染みのある駅だそうです。

また、2017年は新清水トンネル開通50周年 (9月28日開通) の年にあたり、臨時列車を利用して土合駅を訪れることもできます。8月11日の “山の日” には、上野駅から土合駅まで直通運転される 「山の日・谷川岳号」 が、8月と9月の指定日には上尾駅から越後湯沢駅まで直通運転される 「谷川もぐら・ループ号」などが運行される予定です。 「谷川もぐら・ループ号」は途中、土合駅での駅見学時間が20~30分ほど組み込まれているユニークな臨時列車となっています。

1980年代に無人化されているため、普段の土合駅は電車の発着前後は静まりかえっていました。時刻表を見ても上下線ともに一日五本しかありません。土合駅にお越しの際は、電車の時間にご注意ください。

<DATA>
JR上越線 『土合駅』  
住所 :群馬県利根郡みなかみ町湯檜曽218 - 2
備考 :無料駐車場あり

土合駅周辺でおすすめの穴場スポット

『土合駅』の駅舎

空に突き抜けるような柱が印象的な 『土合駅』 の駅舎


土合駅の駅舎は、谷川岳をモチーフにした三角屋根が印象的です。この駅は、「関東の駅百選」にも選ばれています。新緑や紅葉、雪景色と、季節ごとの風景が楽しめるため、日本一のモグラ駅を見に来る観光客のほか、カメラが趣味の観光客まで、多くの人が訪れる山あいの駅としても知られるようになりました。

上越線 『土合駅』 の味のある看板、

上越線 『土合駅』 の味のある看板、隠れているモグラがわかりますか ?


木製で味のある看板には 「ようこそ日本一のモグラえき、土合へ」 の文字が描かれ、文字の中にはモグラが隠れているという、何とも遊び心あふれた看板でした。

山の中のオアシス 『谷川岳ドライブイン』

食事や休憩もできる山の中のオアシス 『谷川岳ドライブイン』


駅の近くにはドライブインがありました。食事処、お土産コーナーなどもあり、初めてここを訪れる観光客に対しては案内所のような役割も果たしていました。筆者も水上駅長に教えて頂いた駅周辺にある滝を目指していたのですが、位置がわからなくなり、ドライブインの若おかみさんにお世話になりました。

また、現オーナーのおじいさんが駅の裏にある 「土合山の家」 を始めた方で、その山の家はもともと土合駅の官舎を譲り受けた建物であることや、 『土合山の家』 の名付け親は、当時の土合駅の駅長さんだったことなど、予想外なところで駅にまつわる話も聞くことができ、取材途中で思わぬ収穫でした。

<DATA>
谷川岳ドライブイン  
住所 :群馬県利根郡みなかみ町湯檜曽土合220
電話 : 0278 - 72 - 5222
営業時間 : 8:30~17:00(冬期 不定休)


谷川の森はマイナスイオンたっぷり

「西黒沢橋の奥に見える小さな滝」、 「まるでジブリの世界のような林」、 「湯檜曽川にかかる土合橋をのぞくと滝壺にラフティングを楽しむ観光客」、 「川ととても距離が近い西黒沢橋」

右上から時計まわりに 「西黒沢橋の奥に見える小さな滝」、 「まるでジブリの世界のような林」、 「湯檜曽川にかかる土合橋をのぞくと滝壺にラフティングを楽しむ観光客」、 「川ととても距離が近い西黒沢橋」


電車の本数が少ないため、一度駅に降り立つと次の電車まで2~3時間ほど空いてしまいます。そんな時に散策にぴったりなのが、湯檜曽 (ゆびそ) 川周辺のエリアです。

谷川岳ドライブインとは反対の方向に国道を歩いていき、「土合山の家」の前を過ぎると、湯檜曽川にかかる土合橋が見えてきます。橋の下に見える滝壺や、橋の先を林道に沿って入ったところにある西黒沢橋周辺のユビソヤナギ群落など、川遊びや森林浴などが楽しめるスポットが点在しています。何も考えずにただゆっくり歩く時間がとても気持ち良く、普段の疲れをリセットしてくれるようです。

(注) 山の天気は変わりやすいため、当日の天候に注意し、川などの周辺に行く場合は充分にお気をつけください。

賢く「みなかみ温泉街」を楽しむポイント

ぶらり号貸出場所

ふれあい交流館のぶらり号貸出場所


「水上駅」での乗り換え時間を利用して、群馬県屈指の温泉でもある 「みなかみ温泉」にも立ち寄ることができます。 駅から温泉街の中心まで少し離れているため (徒歩15分ほど)、効率よく観光するのにおススメなのが、無料レンタル自転車 “ぷらり みなかみ号” です。

町内3カ所にある貸出所 ・ ぷらりステーション (外丸自転車 ・ 水紀行館 ・ ふれあい交流館) で、自転車を借りることができます。ここは返却場所も兼ねているため、この3カ所であればどこでも乗り捨て可能です。この自転車は、もともと放置自転車や、町民が乗らなくなった子供用の自転車などをリユースしたもので、観光用として利用されているほか、地元の人も普段から気軽に利用している何ともアットホームなレンタル自転車でした。

また、土日祝日には、ひとり500円で一日乗り放題の周遊バス “みなかみ温泉シャトルバス”も運行されています。

焼カレーは、カレー用に配合されたルーが味の決め手

人気の焼カレーは、焼カレー用に配合された酸味のあるルーが味の決め手


みなかみ温泉にはおしゃれなカフェや、地元の人に愛される老舗の喫茶店など、おいしい “みなかみグルメ” が楽しめるお店が点在しています。電車の待ち時間にランチを食べて、足湯を楽しみ、軽くカフェでお茶をしたい…… なんて時は、 “ぷらり みなかみ号” でハシゴも可能です。

駅前の小さな食堂からスタートしたカフェレストラン「亜詩麻 (アシマ)」は、現在の場所に移転したあと、まかないで食べていた焼きカレーが大人気となり、今ではみなかみの名物にもなっています。群馬産の野菜やソーセージなどが入ったボリュームたっぷりの焼きカレーは、創業時から変わらぬ味の珈琲とともにセットでいただくのがおススメです。

<DATA>
カフェレストラン 「亜詩麻」  
住所 : 群馬県利根郡みなかみ町湯原146
電話 : 0278- 72 - 3326
定休日: 毎週木曜日
営業時間 : 平日 11:00 ~ 16:00 (ラストオーダー)、
土日 11:00 ~ 19:00 (ラストオーダー)
備考 :駐車場あり

“おもてなし” の窓口「みなかみ観光案内所」

芳澤『水上駅』長と観光案内所の松尾友紀さん

旅の心強い味方、芳澤水上駅長と観光案内所の松尾友紀さん


レンタル自転車のことを詳しく知りたくて、ふらりと立ち寄った駅前の観光案内所。ここはチラシや観光地図などが充実しているだけでなく、親切な旅のガイドがいました。スタッフは気さくに声をかけてくれ、こちらが行ってみたい場所や利用したいものを話すと、とても丁寧に案内をしてくれます。

また、久しぶりに遊びに来た親戚に話しかけるように、観光案内だけでなく町の情報や地域の話を、土地勘のない旅人にもわかりやすく話してくれるなど、スタッフの “おもてなし” を肌で感じました。読者のみなさんにも安心して紹介できる観光案内所です。

また、 土合駅に向かうときにオススメなのが 「ぐんまワンデー世界遺産パス」 です。これは群馬県内のJR線や私鉄4社 (上信電鉄、上毛電気鉄道、東武鉄道、わたらせ渓谷鐵道) の普通列車が乗り降り自由で利用できるフリーパスで、駅のみどりの窓口や券売機などで購入可能です。 (注: 新幹線や特急列車については特急券が必要)

つまり、このパスがあれば群馬県内どこまで行っても、大人ひとり2100円で乗り降りできるという訳です。もちろん県内最北端の駅である土合駅もエリア内に含まれています。他にも群馬の観光地に寄って帰りたいという時など、県内の移動がとても便利なチケットです。

<DATA>
みなかみ観光案内所 (水上温泉旅館協同組合)
住所 :群馬県利根郡みなかみ町鹿野沢70-8
電話 : 0278 – 72 - 2611
FAX : 0278 – 72 - 2476
受付時間 : 9:00 ~ 17:15
交通アクセス : JRみなかみ駅前、徒歩すぐ

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