“日本一なつかしい遊園地”のはじまり
「るなぱあく」の開園は今から63年前の1954年年10月1日。前橋市の資料によれば、当時開催されていた大博覧会 「前橋グランド・フェア―」 の第2会場としてできたのが始まりです。レジャー施設が少ない当時は入場者も多かったものの、時代の変化とともにバブル期の1980年代以降、次々と大型レジャー施設がオープンし、老朽化した遊園地の取り壊し計画といった存続の危機も何度か訪れたそうです。そんな時に存続を支えたのが、子どもの頃から遊園地に親しんだ市民の力でした。前橋市は市民の嘆願を受け、「るなぱあく」存続に方針を切り替えたほか、2004年からは民間に運営を委託するようになり、市と民間で協力し合って貴重な地元遺産を守っています。
現在は地元企業のオリエンタル群馬が運営を行っていますが、民間委託の際に公募で決まった遊園地の愛称が 「前橋るなぱあく」 でした。地元出身の詩人・萩原朔太郎の詩集 「遊園地(るなぱあく)にて」にちなみ選ばれた名前だそうです。 「るなぱあく」は前橋公園の一角にあり、すぐ隣には明治の頃に建てられた当時の迎賓館 「臨江閣(りんこうかく)」 もあり、その日本庭園からトンネルを通って直接 「るなぱあく」に入ることもできます。
「るなぱあく」 の駐車場ではなく、西側にある前橋公園の駐車場に車を停め、臨江閣と美しい日本庭園を見ながらトンネルを抜けると……
レトロな遊園地が現れるという訳です。このトンネルは萩原朔太郎の時代からあるもので、今でも当時の面影を残しつつ、暑い夏場は来場者の休憩場所としても活用されています。
50円のメリーゴーラウンド! 10円の木馬! なぜ安い?
かわいらしい遊具たち
「るなぱあく」 は入園無料で、飛行塔やメリーゴーランドなどの大型遊具が1回50円、電動の木馬や小型遊具などは1回10円で利用できます。驚くことにこの料金は開園当時と変わっていないそうで、日本一安い遊園地としても知られています。また、3歳以下の子供ひとりにつき、付き添う大人はひとり無料で乗ることができ、お財布にもやさしい遊園地です。開園当時から残る木馬館は、2007年に国の有形文化財にも指定されました。では、なぜここまで安くできるのか? 関係者に伺ったところ、前橋市の施設ということで、市からの委託料を遊具の修繕費や遊園地の運営費に充てているため低料金を実現できるそうです。取り壊しの危機もあったなか、身近な遊び場を守ろうとした市民の願いに行政が答える形で維持してきた公共施設でもあるのです。市民に愛される場所として、今や歴史的価値も高い貴重なレジャースポットとなっています。
4歳が断然お得な遊園地 「るなぱ」デビューのお祝い!
「るなぱあく」 では4歳になるとすべての乗り物に一人で乗れるようになります。そんな少し大人になった子どもたちへ、4歳の誕生日から1カ月間は50円の大きな乗り物に一日1回無料で乗ることができる黄色いカードをプレゼントしています。これは 『ばぁすでぃ』 と呼ばれるもので、2016年の1月から始まったサービスです。事前の予約などは必要なく、4歳の誕生日を証明できるものを持って管理棟の受付まで来れば、 『ばぁすでぃ』 のカードがもらえます。このカードは、遊園地で働く60代のスタッフのアイデアから生まれたもので、誕生日の記念に何かできないかという発想から、乗り物デビューする子供たちへのプレゼントとして企画されたカードです。このアイデアを思い付いたスタッフも、子供の頃に 「るなぱあく」 で遊び、今では園内で遊ぶ子供たちを見守る存在になっています。
実際に園内で働くスタッフは、上は66歳から下はアルバイトの19歳まで、幅広い年代で構成されており、スタッフ自身も 「るなぱあく」 で遊んだ思い出を持つ人たちばかりです。また、近所に住む利用者の中には、毎朝保育園に行く前に木馬に乗ってから登園するお子さんもいるそうで、市民ひとりひとりの思い出の場所として愛され続けている遊園地でもあります。
今も利用者数が伸びている遊園地、その仕掛けとは?
歴史ある遊園地だけに維持することも大変ですが、スタッフの様々なアイデアで入園者数も伸び、最近では新規のお客さんも増えているそうです。年間を通して様々なイベントを企画することで、子供たちだけの空間ではなく、大人も楽しめる空間に変化しているのです。その結果、昨年度の利用者数は延べ146万人で過去最多となりました。これは1986年度の141万人以来、実に30年ぶりの記録更新です。「るなぱあく」 ではホームページでの細かい情報発信のほか、無料通話アプリのLINEで友達に登録すると、お得なクーポンがもらえる特典など、若い子育て世代に向けての情報発信をこまめに行っています。その結果、口コミで評判が広がり、地元のリピーターだけでなく、埼玉北部など県外から訪れる人も増えているそうです。
また、2016年12月から休憩場所と軽食販売を兼ねたフードエリアも設けられました。コンテナを再利用した店舗の前には、ウッドデッキの休憩スペースもあり、多くの家族連れで賑わいを見せています。人気のおむすびは、地元の平野屋米穀店が選んだ前橋産のお米が使用されていて、ほどよい粘り気と甘みが特徴です。
そのほかにも、市内の鳥山海苔店の海苔を使用し、和食店 「菜穀和食・むくび」 の監修によるこだわりの群馬県産の梅を使用した定番の 「梅むすび(100円)」 のほか、2017年の干支にちなんだ鶏そぼろ入りの 「干支むすび(150円)」 など、日替わりで10種類以上がそろいます。夏場はさっぱりとした中川漬物の 「きゅうりの一本漬け(200円)」も人気。地元産のきゅうりを漬物屋さんが漬けた素朴な一品です。
また、週末を中心に出店しているキッチンカーも大人気です。ケバブや窯焼きピザ、群馬名物焼きまんじゅうのほか、クレープにアイスクリーム、カフェなど出店者は11店舗ほどあり、ローテーションで平均5~6店が出店しています。
この日も窯焼きピザのお店の前で、お母さんと一緒に来園していた兄妹と遭遇しました。前日がお誕生日だったという妹の綾乃ちゃんのリクエストで来たそうです。お兄ちゃんの良太くんの 『るなぱあく』 デビューは1~2歳の頃だったそうで、今でもよく遊びに来るのだとか。ここに来ると、お気に入りのハムチーズのピザを食べるのが大好きだと話してくれました。
おなかの空いた子供たちはピザをほおばり、子どもたちを待つ間にお父さんやお母さんは珈琲で一服するなど、乗り物を乗って帰るだけではない、家族で楽しめる場所になっているのが利用者の滞在時間が伸びている要因でもあるようです。
”子どもに戻りたい、大人たちのために” 夜間イベントも開催!
「るなぱあく」 には、アイデアマンが大勢います。遊園地の管理スタッフはもちろん、取り組みに賛同し協力してくれている地元業者やアーティストなどです。 「子どもの頃は通っていた遊園地も、中学生になるといつしか足が遠のいてしまう人がほとんど」 と語る副園長の井階さん。子どもたちだけでなく大人も遊びに来てほしい、そんな願いから 「あなたなら、るなぱあくで何をする?」 という意味も込めた 「るなぱ DE ○○」 という企画が始まり、好評です。”子どもに戻りたい、大人たちのために” と銘打ち、 「るなぱあく」 では夏の間、夜間開園イベントが開催されます。子どもたち向けには飛行塔や豆汽車などの夜間運行、お父さん、お母さんたちのためにはビールなどの大人な飲み物を販売。2017年8月は4日、11日、18日、25日の毎金曜日です。
また、地元の工房とも協力した夏の体験イベントや、夏休み期間限定で遊園地の仕事体験イベントに参加できるほか、8月31日までの平日限定で手ぶらでバーベキューができる 「WEEKDAY SUMMER BBQ」 などのイベントも行われています。
そのほか、夏休み中は近隣の敷島公園で 「ホリデーインまえばし (8月20日開催) 」や、YAMADAグリーンドーム前橋では 「ピッコロ食育フェスティバル (8月19日開催) 」 など、親子向けのイベントも開催される予定ですので、お子さんと出かけるのに最適なエリアでもあります。
“懐かしいけれど、新しい” 変化し続け、次の世代へ
戦後間もない時代に産声をあげた小さな遊園地は、今では家族四世代が訪れる思い出の場所となっています。遊園地のきっぷ売り場には、小さな子供でも券売機に手が届くよう木製の踏み台が置かれていて、子どもたちの自主性を優しく見守るスタッフの気持ちが伝わってきました。
そして園内をまわりながら感じたのが、懐かしいけれども新しいということ。子供の頃に見た風景とまた違う “生まれ変わった姿” がありました。そんな感想を井階副園長に話すと 「まさにそうです。テーマはReborn (生まれ変わる) なんです」 とおっしゃっていました。また、もともと前橋公園の一角ということもあり、公園と遊園地のハイブリッド的な要素があるのも特徴です。
“日本一なつかしい遊園地” はレトロな要素を残しつつ、その時代に合った変化を続けながら、子どもからお年寄りまで幅広い年齢を受け入れる憩いの場として、次の世代に受け継がれていくことでしょう。
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前橋市中央児童遊園 『前橋るなぱあく』
住所 : 群馬県前橋市大手町 3-16-3
電話 : 027- 231- 6774
開園時間 : 通常9:30~17:00、夏期 (7月20日~8月31日) 9:30~18:00、
冬期 (11月1日~2月28日) 9:30~16:00
休園日 : 毎週火曜日 (但し春・夏休み期間は開園)
交通アクセス : JR前橋駅北口、上毛電鉄中央前橋駅からバスあり
備考 : 無料駐車場あり