リハビリ

筋力不足?バランスをとるための脳卒中リハビリのコツ

【理学療法士が解説】「フラフラして歩けない」「立って料理をするのが怖い」……。脳卒中の後遺症である麻痺を持つ方々に多い、「バランスの悪さ」を感じるという訴え。バランスを取るには、筋力だけではなく体の感覚を意識することが有効です。バランスに関する研究に基づき、動画解説を交えて解説します。

生野 達也

執筆者:生野 達也

理学療法士 / 脳卒中リハビリガイド

筋力以外も大切なバランストレーニング…歩行・家事動作にも

バランス

バランスをとるためには筋力を鍛えたら良いだけではありません


「もっと早く歩きたいのに、フラフラして歩けません。」「キッチンで立って料理をしようとすると、体が安定せず怖さを感じます。」というように、安定した歩きや家事動作のためには安定してバランスがとれることがとても大切になります。

安定してバランスがとれるようになるためのリハビリメニューとして、筋力を鍛えるメニューをしている方は多いようです。フラフラする状態での歩くリハビリメニューや、安定しない立った姿勢でのバランスをとるリハビリメニュー、立ち上がりを繰り返すことで両足の筋力を鍛えるリハビリメニューなど、いずれも足や体の筋肉を鍛える目的で行われています。しかし、実際に麻痺を持つ方からは「一生懸命、鍛えているのに一向にバランスが良くなりません」など、筋力を鍛えるリハビリの成果が実感できていない声がたくさん聞かれています。

バランスに関する研究によると、安定してバランスがとれるようになるために必要なことは、筋力だけではないことがわかっています。そこで、今回は、脳卒中の後遺症である麻痺を持つ方が、安定してバランスがとれるようになるためのリハビリメニューを考える上で重要な足の裏の感覚について、具体例をまじえて解説します。

バランスをとるために重要な足の裏の感覚

足底

バランスをとるためには足の裏の感覚を意識することが大切


バランスは専門的には「姿勢制御」と言われています。Cookは姿勢制御を行うためには,「関節可動域や筋の特性といった筋骨格系の要素と,視覚・前庭・体性感覚の 感覚処理過程といった神経系の要素の複雑な相互交流が必要となる」と解説しています(参考文献1)。

つまり、バランスをとるためには筋力だけではなく、見る感覚、傾きの感覚、関節の動きや触れる感覚といった体の感覚が重要ということになります。体の感覚を意識することは、麻痺の回復にも有効であることは「頑張らないリハビリが脳卒中後遺症の回復に有効」で詳しく解説しました。

そして、体の感覚とバランスの関係について、「脳卒中患者を対象として、足底において硬度の違いを弁別する知覚学習訓練を実施した結果、立位バランスが向上した」という研究があります(参考文献2)。

この研究の内容をわかりやすく解説すると、「足の裏で硬さの違いを感じる訓練を行い、足の裏での硬さの感じやすさが敏感になった結果、立った姿勢でのバランスが取りやすくなった」ということです。

したがって、脳卒中の後遺症である麻痺を持つ方がバランスをとれるようになるためには、足の裏の感覚を考慮したリハビリメニューを考えることが有効となります。

足の裏の感覚を考慮したリハビリ例

異常パターン

バランスの悪さを感じる時は、足の裏の感覚の様子を確認してみましょう


まず、脳卒中の後遺症である麻痺を持つ方において、バランスが悪い場合に現れる症状と足の裏の感覚の特徴を解説します。

麻痺側の足に体重をかけた時に、「外側に体が流れそうで不安定」や「麻痺側の足首が外側にねじれそうで怖い」という方は、足の裏の感覚では小指側の外よりに体重がかかっている感覚があることが多いようです。

また、麻痺側の足に体重をかけた時に、「前につんのめりそうで不安定」や「踵がしっかりしていなくて後ろに倒れそう」、そして「麻痺側の足の指が勝手に曲がってしまう」という方は、足の裏の感覚ではつま先側の前よりに体重がかかっている感覚があることが多いようです。

感じ方

足の裏の感覚を意識する時は、ゆっくりリラックスすることで感じやすくなります


次に、脳卒中の後遺症である麻痺を持つ方がバランスをとれるようになるための足の裏の感覚の感じ方を解説します。

麻痺側の足に体重をかけながら足の裏の感覚を感じようと意識する際、はやい動きで体重をかけるたり、「踏ん張る」ように力を入れようとしてしまうと、足の裏の感覚が感じにくくなります。一方、ゆっくりおそい動きで、力を入れずにリラックスした方が、足の裏の感覚が感じやすくなります。


リハビリ

バランスをとるためには、足の裏全体が均等に重たくなる感覚を意識することが有効です


そして、脳卒中の後遺症である麻痺を持つ方がバランスをとれるようになるためには、麻痺側の足に体重をかけていく際に、体重がかかるとともに足の裏全体が徐々にどっしりと重たくなる感覚を意識することが有効となります。

厳密には足の裏全体が全く均等というよりも、全体がどっしりとしながらも外側かつ踵が特にどっしり重たい感覚になることが理想的ですなのが、慣れていないうちは足の裏全体が均等になるように意識してください。

日頃、慣れていない体重の掛け方をするので、不安定になってしまうことがあります。そのため、このリハビリメニューをする際は、くれぐれも手すりなどをしっかり支えて、転ばないように注意しながら行ってください。

足の裏の感覚を考慮したリハビリ例【動画解説】




うまく足の裏の感覚を意識して感じることができれば、麻痺側の足が頑張らなくても自然としっかりしてきて、安定してバランスがとれるようになる可能性があります。

■参考文献
1)CookAS/ 田中繁,高橋明・訳:モーターコントロール:117-141,医歯薬出版,2004

2)Morioka S,Yagi F: Effects of perceptual learning exercises on standing balance using a hardness discrimination task in hemiplegic patients following stroke: a randomized controlled pilot trial.Clin Rehabil 17: 600-607,2003
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